負ければ賜杯が逃げる一番。土俵下で出番を待つ高安は落ち着いていた。「特に何も考えず、いつもと変わらず」。大一番で涙をのんできた詰めの甘さは、今はない。 立ち合いで勝負を決した。力強く踏み込むと、かち上げて豊昇龍を押し返す。上体が伸びた相手をやすやすと引き落とし、「平常心で取れた」とさらりと言ってのけた。 今年3月の春場所。トップを走っていながら、佳境に入ると、「明らかに攻め急いでいた」。終盤に3敗を喫し、優勝決定戦では若隆景に惜敗した。「きのうの自分より、もっと強くなりたい」。そう誓った元大関。度重なるけがに苦しんできた経験も糧に、精神面でのたくましさは増した。 千秋楽は玉鷲との直接対決が組まれ、勝てば決定戦に持ち込める。過去16勝15敗と実力伯仲の両者。八角理事長(元横綱北勝海)は「どうなるか分からないが、いい相撲になるんじゃないか」と期待を寄せる。「なるようになると思うので、精いっぱいベストを尽くしたい」と高安。過去の自分と決別し、32歳にして初の賜杯獲得に挑む。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕高安(奥)は引き落としで豊昇龍を破り、3敗を守る=24日、東京・両国国技館