ロシアの侵攻を受けるウクライナを逃れ、日本で新たな生活を送る指導者がいる。新体操やフィギュアスケートのバレエ専門コーチとして活動していたウクライナ人のバレリア・ツジさん(44)は侵攻が始まった当初、母国にいた。安全な場所を求め、生まれたばかりの息子とポーランドやドイツ、フランスなどを転々。縁あって新体操の名門、東京女子体育大に腰を落ち着けてからは、充実した日々を送っている。 5歳からクラシックバレエに励んだ。熊本で10年以上も暮らしたことがあり、日本語が堪能。新体操に取り入れるバレエのコーチを探していた元五輪代表で東女体大新体操競技部の秋山エリカ部長から声が掛かり、5月から専属コーチに就いた。「日本の子たちは賢い。技ができなくても一生懸命に頑張る。そうした姿や笑顔が、すごく好き」 父親はウクライナに残っている。多くの知り合いが戦渦に巻き込まれ、心配は尽きない。それでも、今は息子やパートナーと静かに暮らせていることに喜びを感じ、「幸せの国、素晴らしい国にいる。日本の食べ物も大好き」と笑みを浮かべた。 戦争が終わってもすぐには母国に戻れないと覚悟している。「壊れたものが全て直るには5年や10年かかるかもしれない。いつかは帰りたいけど安全になるまでは難しい」。日本の人々に向けては、こう言った。「戦争が始まると何もかもなくなってしまう。あすはどうなるか、誰にも分からない。だから心をいっぱいにして、きょうを笑顔で過ごしてほしい」。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕東京女子体育大新体操競技部の秋山エリカ部長(左)と談笑するバレリア・ツジさん=3日、東京・代々木第2体育館