「泣いていないです」とおどけたが、勝ち名乗りを受けた顔は感極まっているように見えた。若元春が初挑戦の大関戦で正代を撃破。「シンプルにうれしい」と声を弾ませた。 立ち合いで鋭く踏み込み、頭からぶつかる。左からおっつけて相手の右を封じ、得意の右上手をがっちり。投げをこらえて寄り切った。「期待されていない。負けて当然」と無心で臨んだ土俵で、勝利への強い執念を披露した。 兄に幕下の若隆元、弟に関脇若隆景がいる。出世が早く、今年春場所に賜杯を抱いた弟に比べれば、次男坊の歩みは遅い。初土俵から10年をかけて新入幕を果たした苦労人は、「僕は三男坊に引っ張ってもらって上がってきた」と、時には謙虚過ぎる言葉も口をついて出る。それでも本人は「客観的なだけ」。じっくり力を蓄えてきた。 まだ一つ黒星が先行するものの、大関に完勝して周囲の期待はさらに膨らむ。「自信はないですね。一生懸命いくだけ」と若元春。肩に余分な力は入れず、中盤戦以降も自然体で臨む。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕若元春(右)は正代を寄り切りで破る=14日、愛知・ドルフィンズアリーナ