勝ち越しが懸かった一番で、一山本は師匠の放駒親方(元関脇玉乃島)の教えを思い浮かべた。「迷ったときは、当たって前へ」。琴勝峰に低く当たると、動きの良さを生かして横に回る。体勢を崩した相手をやすやすと突き出した。 中大から北海道福島町役場での勤務を経て角界へ。さまざまな競技の実績を条件に、年齢制限の規定が25歳未満に緩和された新弟子検査の合格者第1号だ。入門当時は「ぼやっとしていた」と、はっきりとは意識できなかった幕内の土俵。しなやかな突き押しを武器に暴れている。 精神面も成熟してきた。新入幕で勝ち越した昨年名古屋場所では、7勝目を挙げてから5連敗。その記憶もあって「ちょっと緊張した」というが、目の前の一番に集中して連勝を3に伸ばした。 トップに並んだまま終盤戦へ。八角理事長(元横綱北勝海)は「動きが速い。自分の相撲を取り切っている」と評価。北海道出身力士の優勝は、1991年春場所の北勝海が最後。賜杯争いについて水を向けられると、「まだ力が足りない。そういうことは考えない」と笑い飛ばした。朗らかな28歳がにわかに注目を集めている。 (了) 【時事通信社】 〔写真説明〕一山本(左)は琴勝峰を突き出しで破る=17日、東京・両国国技館