北京五輪のフィギュアスケート男子で、羽生結弦選手(27)=ANA=は史上初の成功を目指してフリー冒頭でクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)に挑んだ。転倒したものの、果敢な挑戦。恩師である都築章一郎さん(84)は「常に挑戦する姿を小さい頃から見てきた」と振り返る。 小学2年の頃から指導した。羽生選手は宮城・東北高1年の時に東日本大震災で被災すると、横浜市内のスケートリンクを拠点とする都築さんを頼り、しばらくそこで練習を積んだ。 出会った当時の印象について「フィギュアスケートに必要な感覚的なものがあり、バランスのいい子。非常にはきはきして、自分を持っていた」と話す。指導に納得できない部分があると、疑問や主張を投げ掛けてきた。「やると決めたときにはテクニックが完成するまで取り組む」と言うように、集中力や負けん気の強さもあったという。 前向きに跳んで半回転多いアクセルジャンプ。羽生選手がこだわりを持つきっかけを与えたのも都築さんだった。「王様のジャンプ」と伝えた。羽生選手も熱心に練習し、トリプルアクセル(3回転半)の完成度はトップ選手の中でも傑出している。「彼を王様にしたのはトリプルアクセルだと思っている」と喜ぶ。 世界選手権銅メダリストの佐野稔さんらも育てた名指導者。だが、自身の歩みを思い起こすと「失敗ばかりだった」。世界の頂点を極めた羽生選手についても「失敗をしながら、また新たな挑戦をしてきたのだと思う。それに耐える気力も持ち合わせていた」という。 「人間は成果を出すと、そこから進歩するのに苦労する」と都築さん。ただ、羽生選手については「根本は変わっていない」と感じている。94年ぶりの五輪3連覇はならなかったが、まな弟子は高い目標に全力で立ち向かった。 (時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕教え子の練習を見守るフィギュアスケートの都築章一郎コーチ。羽生結弦を指導した=1月27日、横浜市内