北京五輪のフィギュアスケート男子で銅メダルを獲得した宇野昌磨選手(24)=トヨタ自動車=を、トレーナーとして支えてきた人がいる。出水慎一さん(43)は北京に同行し、ともに戦った。 担当し始めたのは2017年5月ごろ。それまでもフィギュア選手のトレーナーを務めており、宇野選手の演技は見ていた。「彼にしかできない表現をする」という印象を持っていた。当時19歳で世界選手権2位になるなど伸び盛り。勢いに乗って平昌五輪シーズンを迎え、初の大舞台での銀メダル獲得を後押しした。 「基本的に否定しない」というのが出水さんのスタンス。だから、無理にトレーニングさせることはなかった。宇野選手の野菜嫌いも矯正させようとせず、効率的なエネルギー摂取ができるよう考えてきた。「私も野菜が嫌いなので。最悪のトレーナーです」と笑う。 今季の宇野選手は極端に柔らかい靴を使っている。足首の柔軟性をより生かしてジャンプの高さが上がった半面、着氷で右足首が受けるダメージは大きくなった。そのため、足の指に負荷をかけて片足で立つなど、足首を鍛えるトレーニングを導入。けがをしても北京までたどり着けたのは「地道過ぎるのでみんなやらない」という鍛錬を積み上げてきたからだ。 昨秋、ある出来事があった。「彼がトレーニングメニューを作ってくださいと言ったのは初めて」。スケートアメリカでフリー後半に勢いが続かず、体力強化の必要性を本人が感じた。4回転ジャンプを4種類5本も入れる高難度の構成を演じ切れるよう、陸上で数回ジャンプしてから短い距離を全力で走るなど「瞬発兼持久力」を鍛えた。 2度目の五輪。「ずっと付いているのがいいとは思っていない」という出水さんだが、「彼の貪欲な姿勢は本当に尊敬するし、助けられるのなら助けてあげたい」との思いでサポートしてきた。その日々が結実した銅メダルだった。 (時事) 【時事通信社】 〔写真説明〕宇野昌磨選手(右)とともに写真に納まる出水慎一さん=2021年12月(出水さん提供)