(画像=株式会社ヤマタネ)
河原田 岩夫 ―― 株式会社ヤマタネ代表取締役社長
1986年4月、住友銀行(現・三井住友銀行)入行、各地で法人営業部長を務める。2019年同行専務執行役員、三井住友フィナンシャルグループ専務執行役員就任。2022年5月ヤマタネに入社、副社長執行役員経営企画担当。2024年6月より現職。
グループ全体で「物流」「食品」「情報」「不動産」の4事業を営む。物流部門では、倉庫事業を中心とした国内物流に加え、海外引越サービスやフォワーディングなどの国際物流も手掛ける。食品部門では創業以来のコメ卸売販売業に加え、冷凍加工食品卸売業も営んでいる。情報部門では、商品棚卸機器レンタルサービスおよびシステムの開発・保守運用業務を展開しており、不動産部門ではオフィスビルの賃貸を中心とした効率的な運営を実施している。

これまでの事業変遷について

——事業の変遷についてお聞かせいただけますか?

河原田 1924年に創業者の山﨑種二が米の問屋として事業をスタートしました。1940年に周辺事業である倉庫業に参入し、辰巳倉庫㈱を買収するなどして物流事業を展開しました。1950年に株式上場してから、これまでに航空機器部品の製造やボウリング場、宅地開発などさまざまな事業を手掛けてきましたが、現在の物流、食品、情報、不動産の4つのセグメントに集約し、事業を営んでおります。

——事業の多様性が見えますね。情報分野はどういった経緯で参入したのですか?

河原田 山﨑種二は、コメ相場において「売りの山種」として有名になりました。その後、コメから株の世界へ進出し、証券会社(山種証券㈱、現 SMBC日興証券㈱)を立ち上げました。そのため、金融業におけるシステム部門を持つこととなり、山種証券が解体する際にシステム部門を引き継ぎ、情報事業として確立しました。

自社事業の強み

——自社事業の強みについてお伺いします。

河原田 ヤマタネは創業以来、企業理念として「信は万事の本を為す」を掲げてきましたが、100年間にわたりこの理念を愚直に守り続けてきました。

この理念が社員にしっかりと浸透していることが、事業の強みに繋がっています。

食品事業では、北陸や東北地方の産地とのネットワークが非常に強いです。たとえば、一昨年、特定技能外国人を派遣するベンチャー企業と提携し、東北地方の人手が不足している産地へ特定技能外国人を派遣しました。これは、ヤマタネに信頼があるからこそできることで、現地の方々も安心して受け入れてくれます。

また、2022年に千葉県印西市に国内最大級となる年間生産量70,000トンを実現する精米工場「印西精米センター」を開設したことも、食品事業の強みの1つとなっています。同センターは、最新の機械設備導入による省エネ化やソーラーパネルの設置など、環境負荷を抑えるためにCO2排出量を通常の精米工場よりも大幅に削減していることも特徴です。

——確かに、信用力というのは目に見えないものですが、非常に大きな強みですね。では、物流事業についてもお聞かせいただけますか?

河原田 物流事業は倉庫業からスタートしました。特に湾岸地区を中心に、多数の倉庫、つまりアセットを保有しており、これが大きな強みとなっています。また、当社は倉庫業にとどまらず、通関やフォワーディングも含めて一気通貫で対応できる体制を整えています。さらに、大手荷主との長年にわたる信頼関係も、当社の大きな強みです。

——不動産事業についても教えていただけますか?

河原田 不動産事業は賃貸オフィスを中心に展開しており、特に都心部に好立地のオフィスビルを多数保有しています。最近では、平和不動産㈱・ちばぎん証券㈱と共同で開発した「KABUTO ONE」があります。全体の稼働率はほぼ100%を維持しており、非常に競争力のある賃貸物件を持っていることが当社の強みです。

——特に信用力が事業の根幹にあるように感じました。

河原田 そうですね、信用力は目に見えないですが非常に重要です。特にお米の世界では、産地との信頼関係が非常に大切です。ヤマタネは約束を守ることを重視しており、その積み重ねが事業の強みとなっています。

ぶつかった壁やその乗り越え方

——これまでの困難をどう乗り越えたのか、具体的な取り組みについてお聞かせいただけますか?

河原田 ヤマタネグループの歴史は、まさにチャレンジの連続です。創業者である山﨑種二は15歳で上京し、丁稚奉公から始めて、創業にいたりました。関東大震災の翌年に創業し、その後も数々の試練を乗り越えてきました。戦時中にはお米が統制商品となり、相場が消失する中で、航空部品の製造や、辰巳倉庫の買収による倉庫業の拡大にも挑戦しました。

1950年には上場を果たし、上場企業としての歴史も非常に長いです。創業100年以上の企業は多いですが、上場してから70年以上続く企業は少ないと思います。これもひとつの大きなチャレンジでした。

——1980年代から90年代にかけてのバブル崩壊時には、どのように対処されたのでしょうか?

河原田 バブル崩壊時は非常に厳しい状況に直面しましたが、私たちは原点に立ち返ることを選びました。コメ卸、倉庫、不動産というコア事業に集中し、財務の立て直しを図ったのです。他社が金融支援を受ける中、我々は一切の金融支援を受けずに自力で再生しました。それは、社員たちが企業理念を信じ、真摯にコア事業に取り組んだからこそ成し遂げられた結果だと思います。

——その時の社員の力が大きかったということですね。

河原田 はい、社員たちは「信は万事の本を為す」という精神が染み付いており、愚直に仕事に取り組みました。

倉庫を中心とした物流事業は地味な仕事ですが、それを続けて利益を上げ、不動産事業やコメ卸事業も同様に取り組みました。困難な時こそ原点に立ち返り、チームで力を発揮することが重要でした。

思い描いている未来構想や今後の新規事業、既存事業の拡大プランについて

——未来構想や新規事業、既存事業の拡大プランについてお聞かせください。

河原田 ヤマタネグループは今年の7月で創業100年を迎えましたが、次の100年に向けて、東証プライム市場上場企業として、よりパブリックな会社となれるよう大きな一歩を踏み出しています。

私が一番大事にしているのは「企業文化は戦略に勝る」という考え方です。チャレンジ精神あふれる企業文化を作り、社員の活性化を図っています。

具体的には、約1,000人のグループ全社員にRS(譲渡制限付株式)を付与しました。今年から全社員がヤマタネの株主となり、株価上昇による利益を共有できる体制を整えています。他にも、部活動の活性化や社内懇親会費用の補助制度など、社員のエンゲージメントを上げるために、さまざまな施策を実施しています。

——社員のモチベーションを高めるために具体的な施策をおこなっているのですね。それでは、それぞれの事業の拡大プランについて詳しくお聞かせください。

河原田 まず不動産事業では、CRE戦略を強化しています。当社は越中島地区(東京都江東区)の本社周辺に約10,000坪の土地を保有していますが、ここでは都市開発を進める予定で、2025年5月には「越中島グランドビジョン」を発表する予定です。東京都・江東区と協議を進め、デベロッパーとの共同事業を計画しています。これにより、地域の価値を高める“まちづくり”を目指しています。

——次に食品事業についてお聞かせいただけますか?

河原田 食品事業では、2023年10月に㈱ショクカイがグループ入りしました。冷凍食品の卸売をおこなうファブレス企業で、産業給食業界でトップシェアを持っています。今後は、ヤマタネグループとのシナジーを生かし、スーパーや外食産業への展開を強化し、収益を拡大していく予定です。

コメ卸の事業については、生産者の高齢化が進んでいるため、産地を支えるための事業展開を進めています。具体的には、生産地におけるカーボンクレジットの導入や農業におけるIoT技術の活用などを進めているほか、9月には㈱ブルーシード新潟という農業生産法人を設立いたしました。

——物流事業についても教えてください。

河原田 物流事業では、食品事業とのシナジーとして、コメ卸売事業のSCMマネジメント高度化による価値創造や、コールド物流(温度管理が必要な商品を生産から消費地まで一貫して低温状態に保つ物流)への参入を検討しています。スーパーのチルド・冷凍商品の輸配送や仕分け業務をおこなう㈱シンヨウ・ロジを買収し、コールド物流の基盤を整えています。

また、静脈物流(消費者から生産者へと流れる物流)も強化しています。循環型社会に対応するため、商品回収とリサイクルをおこなったビジネスモデルを構築しています。これらの取り組みを通じて、物流事業の成長を図っていきます。

メディアユーザーへ一言

——メディアユーザーに向けて一言お願いします。

河原田 私たちの企業は100年続いているという歴史があります。オールドエコノミーを代表する企業群の1つとして、どのように変わっていくかが重要だと考えています。特に最近では、さまざまなベンチャー企業と資本業務提携を結び、社会課題の解決に向けて動き出しています。これは、オープンイノベーションに挑戦していると言えるでしょう。

100年続く企業が内側からイノベーションを起こすのは非常に難しいため、社会課題解決型のベンチャー企業と組むことで、オープンイノベーションを推進し、我々のビジネスモデルを変革しようとしています。本社に隣接する越中島公園(東京都江東区)で開催した創業100周年記念式典では約2,500発にもおよぶ花火を打ち上げましたが、これも新しいチャレンジの一環です。

このように、100年続いた企業がオープンイノベーションや社会課題解決に特化して進化していく姿に注目していただきたいと考えています。この進化が成功すれば、ジャパントラディショナルカンパニー(JTC)にも明るい未来が訪れるでしょう。我々はその先駆者となるべく、引き続きチャレンジしていきます。

>>株式会社ヤマタネ100周年サイト

氏名
河原田 岩夫
社名
株式会社ヤマタネ
役職
代表取締役社長
情報提供元: NET MONEY
記事名:「 100年企業の進化と多様な事業展開とは? 物流・食品・情報・不動産へ —— 株式会社ヤマタネ