(画像=小林青果株式会社)
岩本 良一 ―― 小林青果株式会社代表取締役社長
大学を卒業後、1980年に小林青果株式会社に入社。入社当時は野菜専門の仲卸だったが、果実部門を設立することになり、責任者として果実部門を担当。営業の傍ら会社のシステム担当を任せられ、基幹システムの構築に携わり、労働時間の大幅短縮など働き方改革に取り組む。2021年代表取締役社長に就任し、現在にいたる。退任わずかとなる現在は、次の世代へ土台を残すべく新たな取り組みに力を入れている。
1946年に福岡県北九州市で青果小売業としてスタートし、その後1975年に小林青果株式会社を設立。創業以来70年以上に渡り、生産者と小売店舗の間をつなぐ仲卸事業を展開しています。また、仲卸事業だけでなく店舗事業も展開しており、現在九州エリアで9店舗を運営。2023年1月より新たにEC事業を立ち上げ。安全で安心できる食品だけでなく、作り手の思いや熱量、消費者の期待、販売店の信頼、すべての人の笑顔と心をつなげています。

これまでの事業変遷について

——まずは、貴社の歴史についてお伺いしたいと思います。昭和21年に創業されて以来、どのように事業が変遷してきたのでしょうか?

小林青果株式会社 代表取締役社長・岩本 良一氏(以下、社名・氏名略) 小林青果は1946年に福岡県小倉市(現:北九州市)で小売業としてスタートしました。その後、1960年に仲卸業として中央卸売市場に進出しました。1975年には北九州市の中央卸売市場が開設され、小林青果株式会社を設立しました。

私は1980年に新卒で入社し、1997年には佐賀に支店を開設しました。2015年には店舗事業部を設立し、スーパーマーケットの青果部門を担当していて、現在は10店舗の青果コーナーを運営しております。また、2023年にはEC事業を立ち上げ、楽天やヤフー、アマゾンで商品を販売しており、北九州市のふるさと納税の返礼品も取り扱っています。

——小売業からスタートし、卸業に転換された後、イオン系列のザ・ビックさんとの取り組みを始められたということですね。どのような経緯で始まったのでしょうか?

岩本 ザ・ビックさんから不採算店舗のテコ入れという話があり、我々が青果のプロとしてお手伝いすることになりました。最初はどれくらいできるか分からなかったのですが、試しに始めたところ、売上が大幅に伸びた店舗もあり、ザ・ビックさんには貢献できたと感じています。現在は9店舗を運営しており、これが我々の売上構成費の25%を占めるまでになっています。

——単なる数字の成果だけでなく、他に得られるものも大きいのではないでしょうか?

岩本 そうですね。本業は卸業ですが、小売店舗を展開することで、商品の動きやトレンドを直接把握できるようになりました。この情報は卸業にも大きなプラスとなり、商品の提案や商品化に活かされています。また、在庫処分も自社の売り場でおこなえるようになり、効率が向上しました。

——消費者から直接フィードバックを得られるのは大きな利点ですね。

岩本 はい。これまでBtoBの商売が中心でしたが、消費者の方と直接話す機会が増え、非常に参考になる意見をいただいています。これが我々の強みになっていると考えています。

自社事業の強みについて

——小林青果の強みについてお聞かせください。他社と比べた競合優位性や、これまでの実績について教えていただけますか?

岩本 私たちの強みとしては、まず卸業での長年の経験がありますので、ベテラン社員が多く、長い歴史の中で培った仕入れのチャンネルが多くあります。これにより、卸業では仕入れが命ですが、有利な仕入れが可能です。また、イオングループをはじめしっかりした取引先があり、大量に商品をさばけるのも強みです。

さらに、独自の産地開発もおこなっていて、九州を中心に優秀な生産者を探し、高品質の商品を提供しています。これにより、顔の見える商品も提案できます。

——強みでありながら、場合によっては弱点になる可能性もあると思います。ベテラン社員が多いことや、仕入れ先の世代交代について、どのように対策されていますか?

岩本 それは確かに課題です。新卒の募集に力を入れていましたが、朝が早い独特の労働環境もあって、初任給を高めに設定しても、なかなか良い人材が集まらない状況です。そこで、現在はスカウトに力を入れています。30代をターゲットに、専門のスカウト会社を通じて同業他社で活躍する人材を引き抜くようにしています。コストはかかりますが、将来の幹部候補として期待しています。

——特殊な労働環境についてもお聞きしたいのですが、朝が早いというのはどのような感じでしょうか?

岩本 そうですね。朝2時頃から出勤する人もいます。確かに特殊な環境ですが、その分やりがいのある仕事を提供し、給与面でも保証しています。私自身もこの会社に入ったとき、公務員の試験に落ちてどうしようかと思っていたところ、ゼミの先生に幹部候補生として高い給料で募集していると紹介され、入社しました。今もその環境は変わりません。

——生産者との関係についてもお伺いしたいです。ホームページを拝見すると、生産者紹介のページがあり、力を入れているようですが、どのような工夫をされていますか?

岩本 生産者との関係では、たとえばみかんの場合、大きさや等級が異なる商品を一括で仕入れ、まんべんなく販売するのが難しいです。量販店には売りやすいサイズを納品しますが、残った商品を街の小売店や自社店舗で販売するなど、上手にさばくことが重要です。直接生産者と取引する際には、この点が非常にポイントになります。

ぶつかった壁やその乗り越え方

——経営の壁にぶつかった経験や、その乗り越え方についてお聞きしたいのですが、社長就任後、一番困難に感じたことは何でしたか?

岩本 以前は社員の仕入れ能力や販売能力が売上に大きく影響し、個人プレーが当たり前でした。価格を優先し、利益率を犠牲にしてでも大量に販売することが良しとされていました。しかし、時代が変わり、その薄利多売のようなやり方は効率が悪くなっていきました。

——その変化にどのように対応されたのですか?

岩本 現在は個人の能力をカバーするためにチームで動くスタイルに変えています。生産者、市場、仲卸が共同で一つの商品を量販店に提案し、量販店も産地に足を運び、生産者と直接話すことで、流通に関わる全ての人が一つのチームとして動くようにしています。これにより、長期的な取引が可能になり、信頼関係が築かれています。

——社員の強みを生かしながら、新しい組織体制を整えているとのことですね。 2020年に就任されたということですが、それまでの経営は御一族の方が引き継いでおられましたが、同族外から初めて社長になられたわけですが、何かご苦労はありましたか?

岩本 これまでの社長を見てきた経験があるので、特に大きな問題はありませんでした。組織やシステムも整っていましたし、私の後も同族外の人間が事業を継承できるような仕組みを作り上げています。これにより、事業の継承がスムーズにおこなえると思います。

——スムーズな事業承継の秘訣について、少し詳しく教えていただけますか?

岩本 同族経営から一般的な会社経営に移行するとき、一番の課題は株の移動です。私が社長になるのも株の移動が理由で一年遅れました。そこで、役員持株会と社員持株会を設立し、役員がほぼ均等に株を持つようにしました。社員にも少しでも株を持ってもらい、モチベーションを高める形を取りました。この仕組みにより、株の移動がスムーズになり、事業の継承が円滑に進むようになりました。

今後の経営・事業の展望

——5年後、10年後を見据えたときに、どのような展望を描いていらっしゃいますか?

岩本 まず、卸の方ですが、長年スーパーへの納品を続けてきましたので、昨年、関東のスーパーが九州に進出した際に、そこの納品を担当することになりました。九州での出店計画が今後続く予定なので、新しい店舗がオープンするたびに売上が大きく伸びるという状況です。

また店舗展開については、ウェルシア九州が、もともと薬局ですが、生鮮食品を配置するような新しい形態の「ウェルシアプラス」を増やす計画があり、青果コーナーを担当します。実は最近一店舗がオープンしましたが、非常にうまくいっています。今後も、福岡や佐賀地区において1年以内に7、8店舗がオープンする予定で、小林青果がテナントとして青果売り場を運営することになっています。

——卸売りの利益率についてですが、課題はありますか?

岩本 卸売りの利益率は低いです。しかし、小売りに進出したことがポイントであり、小売りの方が利益率が高く、そこで卸売りをカバーしています。これはバランスよく回っていると思います。ただ、人件費や資材の高騰、大手の量販店からの要望で経費がかかる部分があり、それを商品にコストを乗せきれていない部分があります。しかし、他社との競合もあり、利益を取りづらい状況です。しかし、小売りをしっかりしておけば、その分利益を稼げるので、小売りをやっていてよかったと思っています。

——投資については、どのような方向性を考えていらっしゃいますか?

岩本 設備については、仲卸として冷蔵庫が非常に重要です。特にお盆や年末年始には多くの在庫を抱えるので、冷蔵庫が必要です。年々冷蔵庫を増やしており、仲卸の中では恵まれている方だと思いますが、維持費がかかります。

また、新規事業としてECサイトを立ち上げました。アドバイス会社と契約して運営していますが、まだ十分な販売力がありません。ECサイトの仕組みは整いましたので、今後は自社で運営できるようにしたいと考えています。ECサイトのPR活動も進めており、メディアとつながりを持てるようにしています。経費はかかりますが、徐々に成果が上がってきており、企業価値を上げるために頑張っています。

ZUU onlineユーザーへ一言

——記事をご覧いただいている方々へ向けてコメントいただければと思います。

岩本 私たちは現在、商工会議所に所属しており、地域の支援活動に力を入れています。特に、経済的に厳しい子育て世帯など対して、地域のNPO法人を通し、無償で商品を提供する取り組みを進めています。全国にはさまざまな理由で生活に困難を抱えている方々がまだまだ存在するのが現状ですので、このフードバンク活動を広げていきたいと考えています。他の企業さんにも同様の取り組みをしていただければ、非常に嬉しく思います。

また、ECサイトでは、直接取引している生産者からの高品質で美味しい果物や野菜を取り扱っています。特に九州の美味しい果物や野菜をもっと多くの方に知っていただきたいと思っています。価格帯は少し高めですが、それに見合った価値を提供していると自負していますし、実際、リピート注文も多くいただいております。お中元やお歳暮も承っておりますので機会があればぜひ、ご利用頂きたいです。

氏名
岩本 良一
社名
小林青果株式会社
役職
代表取締役社長
情報提供元: NET MONEY
記事名:「 EC事業で未来を切り拓く! 小林青果の新たな挑戦と地域貢献 —— 小林青果株式会社