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冨田:これまでの事業戦略について教えていただけますか?
ファーストアカウンティング株式会社 代表取締役社長・森 啓太郎氏(以下、社名・氏名略):当社は2016年に設立し、AI技術で経理業務を自動化する事業を展開してきました。コンピュータービジョンを中心とした文字認識技術によるサービス開発を行い、多くの大企業のお客様や会計ベンダーに提供しています。また、生成AIなどの最新技術を研究し、世界の学術会議で論文発表を行い、新サービスの開発も行っています。
冨田:事業を展開する上で苦労したことはありますか?
森:資金調達に苦労した時期がありました。ある時、名刺をおしゃれに制作したら1億円を投資いただけるという話がありました。そのご提案を受けた当初は資金が足りなかったため、その事業の実施も検討しました。しかし、資金のために当社の注力領域から外れた業務を引き受けると、道を逸れてしまうと感じたためその申し出を断り、自分達のできる範囲で事業展開をすることに専念しようと決意しました。結果的に、自分たちの信念にこだわって事業を進めたことで着実に成長ができていると考えています。
冨田: 経営判断をする上でどのような点を最重視されていますか?
森:基本戦略に沿った判断をすることを重視しています。
すなわち、上記3つの戦略の円が交わり、ナンバーワンになることができると判断した場合のみ、マーケットに挑むのです。大きな市場で勝てない領域に進出しても、継続して事業を展開することはできないと考えています。
冨田:ナンバーワンを取れる可能性がある領域においては、さらに事業を拡大していくということでしょうか?
森: はい、そうです。ただし、その領域が当社の戦略に沿っていることが大前提です。もし、戦略に沿っていない分野であれば、たとえナンバーワンになれる可能性があっても進出しません。ただ、ナンバーワンになりたいだけではなく、実際に成長することができるのかを慎重に判断しています。
冨田:社長自身のルーツや強みについて教えていただけますか?
森:アメリカのグローバルIT企業である、アカマイ・テクノロジーズ合同会社で働いたことが大きな強みになっています。日本法人立ち上げに参画し、12年間働いていました。そのため、エンタープライズサイズの企業に関して価格モデルをどのように設定すれば上手くいくのかなどを熟知しています。
その経験から、起業の際も私の中で明確なビジネスモデルを描けていたので、特に恐れることなく今まで進むことができました。
冨田:日本のエンタープライズ企業をターゲットとするビジネスはハードルが高いと言われますが、この点についてはどのように考えていますか?
森:実際、難しいと思います。大企業はリスクを抱えるのを嫌うので、中小企業からの提案は避ける傾向があります。かなり慎重に判断をされる方が多いです。
また中小企業においても同様です。資金繰りに苦労している企業が多いため、サービスの品質だけでなく、企業の財務状況も考慮する必要があります。
冨田:そのような状況下で、どのように事業を拡大されてきたのでしょうか?
森:2点意識したことがあります。
1つ目は、各パートナー企業のビジネスモデルを理解することです。世の中に似たような商品は多くあるため、パートナーそれぞれのニーズを満たす提案をすることを意識しました。各パートナーの規模感や課題を把握し、プラットフォームが適しているかを見極め、事業を拡大してきています。
2つ目は直販も並行して行うことです。しっかりとサービス説明しなければ、エンタープライズの人には響かない人が多いのです。
どちらの場合も相手の立場に立ち、どうやったら必要性を感じてくれるのかということを徹底的に考え抜いてきました。
冨田:素晴らしいですね。今後もこの領域で拡大されていくのでしょうか?
森:そうですね。エンタープライズの方々と仕事をするのがとても楽しく、多くの刺激をもらっています。
冨田:戦略的にも感情的にもエンタープライズ向けに特化していることが伺えました。
冨田:今後どのようなテーマに関わっていきたいと考えていますか?
森:日本における会計の自動化に貢献していきたいと考えています。
現在はリーガルテック(法律関連のITサービス・ツール)が当たり前のように普及しています。これと同様に、アカウンティングテック(経理・財務部門のITサービス・ツール)も一般化していくと考えています。
冨田:なぜアカウンティングテックが普及すると考えているのでしょうか?
森:企業価値を高めるためにアカウンティングテックが必要不可欠だからです。今の時代では多くの企業が、その企業価値を高めることをマーケットから強く要求されています。
経理や財務を理解している人財は企業価値の向上に不可欠であるため、 社員の方々が経理や財務の実務作業に時間を使うのは非常にもったいないと思います。このような状況から、会計における自動化の需要はもっと高まっていくと考えています。
冨田:今後の未来構想を教えていただけますか?
森:企業価値向上における、人材の適材配置に貢献したいと考えています。現代ではAI技術が進歩したことで、人間が行っていた作業をAIで代替することが可能になりました。そのため、ルーチンワークや入力作業などは社員ではなくAIに任せるべきだと思います。
余談ですが、実は最近、イギリスの博物館巡りをして、産業革命時代の起業家やエンジニアについて学びました。彼らは、様々な植民地に製品を送る工場を建設し、多くの技術革新を起こしました。同様に、我々も現在、イノベーションの入り口にいると感じています。
冨田:産業革命と同じことが起こっているというのは面白いですね。
森:はい。産業革命時代には、様々な技術革新が起こりました。同様に、現在はAI革命の真っ只中だと考えています。そして当社の提供するアカウンティングテックもAI革命の一つだと言われるように事業を拡大していきます。
冨田:最後にZUU onlineユーザーへ一言お願いします。
森:当社は安定して利益を出すことができ、今後も成長していく企業です。売上の8割強がサブスクリプション型であるため、リスクは非常に少ないです。景気変動などが起きても、私たちが出している売上や営業利益率は、簡単には揺らがないと考えています。
また上場後も増収を続けており、上場企業の上位になるまで成長したいと考えています。
冨田:成長意欲が高くて素晴らしいですね。
森:そうですね。上場はボクシングのゴングのようなスタートだと考えています。上場してからが大切だと考えているので、上場後のお祝い関連の飲み会はほとんどお断りさせていただきました(笑)これからも成長に向けて貪欲に進んでいきます。
冨田:なるほど、企業が成長しなければならないという強い意志が感じられますね。本日は貴重なお話をありがとうございました。