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アサーティブコミュニケーションは、自分が考えている意見を正確に相手へ伝えるためのコミュニケーション手法です。ただ、そのプロセスにおいては、相手の意見や立場を踏まえる必要があり、ただ自分の主張をぶつけるだけのやり方ではないという点が評価されています。
「アサーティブ」という言葉には「強引な」「断定的な」といった意味が含まれていますが、実践においては、必ずしもこういった態度をあらわにしないという点が、アサーティブコミュニケーションの特徴です。
「自分の意見を伝える」と聞くと、相手を屈服させたり、反対を押し切って激しく主張するような印象を与えますが、宥和的(ゆうわてき)な手法がないわけではありません。平和的に物事を改善するための手法として、アサーティブコミュニケーションは必要とされています。
アサーティブコミュニケーションは、単なる人間関係の改善だけでなく、ビジネスの側面でも重要視されているコミュニケーション技法です。ビジネス面で期待されているアサーティブコミュニケーションの効果としては、以下の3つが挙げられます。
1つ目は、社内コミュニケーションの活性化です。お互いの立場を尊重しつつ、自分の意見を発信できるアサーティブコミュニケーションが社内で浸透すれば、自由闊達な議論を交わしながら、お互いをリスペクトし、より積極的なコミュニケーションが期待できます。
一部の人間に発言権が偏り、周囲がそれに反対できない、あるいは同調してばかりの組織では、客観性のある意思決定ができず、メンバー間に亀裂が発生し、プロジェクトや経営そのものが傾いてしまう恐れがあります。一方で、議論に対してメンバー全員が消極的な組織では、有意義な意見交換ができず、やはりプロジェクトを良い方向へ導くことはできません。
アサーティブコミュニケーションは、そのような社内コミュニケーションにおける不和を解消し、チームの分裂やワンマン経営の回避に効果を示します。また、お互いに意見を持ち、発信し合える関係性を構築することで、これまでに出てこなかったようなアイデアや提案が生まれることも期待できるでしょう。
2つ目のメリットは、生産性の向上です。アサーティブコミュニケーションは、社内における情報共有を効率化し、スムーズに業務を遂行できる人間関係の構築に効果が期待できます。
お互いにやりたいことやできること、現在の忙しさなどを気を遣うことなく共有し合える関係を築き、適材適所の人材配置や、仕事の割り振りを行えるようになります。
コミュニケーションが消極的になってしまうことのデメリットとして、お互いのステータスが把握できず、偏った業務の割り振りや、得意とする業務に配置できないことが挙げられます。率直な意見を傷つけることなく伝えられるアサーティブコミュニケーションの実践は、こういった不和を解消する手助けをしてくれるので、社内の生産性向上へ大いに貢献してくれるでしょう。
業務ツールの導入や、社内のワークフローを改善しても、今ひとつ確かな成果を得られなかった場合、アサーティブコミュニケーションの実践が功をそうしてくれる可能性は十分にあるといえます。
3つ目のメリットは、メンタルヘルスケアへの貢献です。自分の意見を主張できない、一方的な意見ばかりが通ってしまう環境は、そこで働く従業員に対し、強いストレスを与えかねません。
業務が非効率である理由や、退職の理由として人間関係の不和を挙げる人は少なくありませんが、その問題を紐解いてみると、そもそも現場でのコミュニケーションがうまくいっていなかった、というケースも多いです。
アサーティブコミュニケーションの実践は、そんな従業員間の不和を解消し、ストレスフリーな働き方を実現できる可能性を秘めています。メンタルヘルスへの配慮は精神的な病への注目が進む今日において、非常に重要な取り組みです。働き方の多様化とともに、現場へ順応するための負担も大きくなっている昨今では、精神面のケアに力を入れることも重視されています。
アサーティブコミュニケーションを理解する上では、まず自分がどのような態度で相手と接しているかを、客観的に理解することが大切です。自分自身のコミュニケーションの傾向を理解することで、どのように改善していけば良いかの指針を立てられるからです。
アサーティブコミュニケーションの立案者でもある心理学者のジョセフ・ウォルピ氏は、自己表現のあり方を、以下の3つのタイプに分類しています。
アグレッシブは、自分が感じている気持ちや、抱えている意見をなりふり構わず伝えてしまうという自己表現の姿勢を指します。自分の意見を伝える上で、アグレッシブ傾向の強い人は相手の心情や立場を踏まえることなく、ただただ自分の意見を押し通すことを念頭においているため、コミュニケーションにおいて亀裂を生み出してしまいやすい傾向にあります。
また、自分の意見が通らなければ感情的になったり、反論についても耳を貸さないなど、強硬な立場を取るのもアグレッシブ傾向の特徴です。相手を恫喝するような態度で萎縮させ、イエスマンで固めてしまう気性があり、健全な組織活動を阻害するだけでなく、ハラスメントまがい、あるいはそれに該当する態度を平気でとってしまいます。
アグレッシブ傾向の強い人がアサーティブコミュニケーションを習得する場合、自身の感情をコントロールする術を身につけたり、相手の立場を受け入れるためのインプットに力を入れたり、攻撃的な気性の要因となっているコンプレックスや、私生活における問題を解消したりすることに力を入れる必要があるでしょう。
ノンアサーティブは、アグレッシブとは真逆の態度で、受け身な姿勢に徹する点が特徴的な傾向を指しています。自らの意見を相手に伝えることはなく、相手の主張や行動を常に優先し、言い争いや余計なトラブルを過度に回避しようとする意識が強いのが特徴です。
争いを回避しようという傾向そのものは評価されるべきですが、意見を求められても曖昧な回答ばかりだったり、言い訳が増えてしまったりと、メンバーの一員として責任のある言動を求めることが難しい傾向であるとも言えます。
また、ノンアサーティブ傾向の人は、自分の意見をうまく伝えることができなかったり、気持ちを外に表さずに抱えてしまうことが多く、ストレスを抱えて精神疾患に罹ってしまったり、意図しない争いに加担させられたりするなどのリスクを抱えています。
他者の意見や周囲の空気をすべて受け入れるのではなく、自分なりの考えを伝えようという姿勢を持つことが必要です。
アサーティブは、相手の主張や意見に耳を傾けつつ、自身の意見も丁寧に伝えられる行動傾向です。アサーティブコミュニケーションにおいては、このアサーティブに類する行動規範と習慣を身につけることが求められます。
言いたいことをただ言うだけでなく、相手の立場に配慮しながら、感情的な口論を回避できるよう言葉の使い方にも気を配ったり、建設的な議論を促すような提案方法を実践するなど、思慮の深さが垣間見られる立ち振る舞いが求められます。
相手の意見に耳を傾けるというのは単なるパフォーマンスにとどまらず、その意見を真摯に受け止めた上で、議論を前進させていく態度も求められます。これによって健全な意見交換や情報共有を推進し、組織内で納得ができる解決策を導くことが可能です。
上記のような行動傾向を踏まえ、アサーティブコミュニケーションを実践するためにはどんなポイントを意識する必要があるのでしょうか。コミュニケーションを改善する上での指標を、ここで確認しておきましょう。
1つ目のポイントは、誠実さです。コミュニケーションにおける本質は、結局のところ、「目の前の相手に対して、どれだけ誠実であることができるか」に帰結します。
誠実なコミュニケーションというと抽象的に感じますが、重要なのは自分の気持ちに素直であると同時に、相手を傷つける意図をあらわにしないことです。良いと思うことには良いと言い、違和感を覚えたことや誤りを発見した際には、その気持ちを正直に伝えるという、自分の心に嘘をつかない姿勢です。
アグレッシブ傾向の強い人は、自分の気持ちに素直すぎるところがあるため、素直な気持ちを柔らかい表現に変える努力が必要でしょう。逆に、ノンアサーティブ傾向の強い人は、自分の気持ちに対してもっと素直になり、気持ちを伝えることに意識を向けなければなりません。
2つ目のポイントは、率直であることです。素直に意見を伝えることはもちろん、余計なひと言を言って場の空気を乱したり、すぐに自分の意見を変えたり引っ込めたりしないという態度が、アサーティブコミュニケーションの実現を促します。
率直な態度というのは、あくまで自分が主体となって意見を伝え、議論を重ねる姿勢を尊重することにあります。ノンアサーティブの傾向がある人は、曖昧な意見の伝え方や、議論を避けるような態度において率直性に欠けているため、ストレートな態度を心がける必要があります。
3つ目のポイントは、対等です。相手が誰であろうと、対等な立場であることを主張すると共に、相手にもそのことを理解してもらう必要があります。部下と上司のような上下関係や、お客様と自分という関係性は、容易に対等な立場を崩壊させ、一方的な関係へと陥らせてしまう可能性が高いと言えます。
アサーティブコミュニケーションにおいては、相手と「私」が対等な関係であることが前提です。相手を見下すわけでもなければ、過度に持ち上げて認識しないという意識が求められ、普段の自分がどのようなポジショニングを行っているのかを鑑みたうえで、適切に対応する必要があります。横柄でも卑屈でもない接し方を、自分なりに試みましょう。
どのような展開や結論に収まったとしても、最終的には自分の責任のもとでもたらされた意思決定である、という意識を持つことも、アサーティブコミュニケーションにおいては重要です。
自分は意思決定に関わっていないから、自分の気に入らない意見が通ったからといって、責任を他人に押し付ける態度は回避しなければなりません。自分で責任を取り切る覚悟を持つためにも、アサーティブコミュニケーションを実践し、納得がいく結論を導く必要があるでしょう。
アサーティブコミュニケーションを実際に試してみる場合、どのように実践を重ねていけば良いのでしょうか。具体的な実践例について、上司と部下の立場から見てみましょう。
まずは、上司の立場から考えるアサーティブコミュニケーションです。上下関係が組織の中で固まっている場合、上司が気をつけるべきは、まず立場の弱い部下の視点に立って考えることです。
高圧的な態度や、部下に責任を丸投げにする態度は、コミュニケーションを阻害する要因となり得ます。また、意見を求める際にも、相手が自分と比べて弱い立場にあることを踏まえ、意見交換を行うべきでしょう。
ただ問題を提起したり、改善の必要性をぶつけるだけでなく、「この発想は良い視点だと思うから、もう少し現実的な予算のスケールに落とし込んでみて」「資料の共有が全員に行き渡ってなかったみたいだから、共有リストを確認してみて」など、部下の提案や行動そのものを受け入れている態度を示し、そこからどうすればベターな結果を得られるかを伝えることが重要です。
自分が意図しなくとも、上司という立場は部下にとってアグレッシブな態度と認識されるケースは多いものです。アサーティブコミュニケーションを実施する際には、アグレッシブさを回避する言動を心がけましょう。
部下の立場からアサーティブコミュニケーションを考える場合、ノンアサーティブとなってしまう行動を慎むことが、改善へ大いに貢献すると期待されます。
経験や知識においては、部下よりも上司のほうが豊かなので、その点を踏まえて受け身な態度に甘んじてしまうことが多いものです。しかし、誠実さや率直さを重視するアサーティブコミュニケーションにおいては、ただ上司の意見を受け入れるだけではなく、そこに誠実に向き合っていることを言動で示す必要があります。
「予算の幅を広げないと、このプロジェクトは採算が合わなくなってしまうと思うのですが、いかがでしょうか」「共有リストの確認、承知しました。ただ、共有先のアドレスが古くなっている可能性もあるので、最新の共有先も事前にいただいておいて良いでしょうか?」など、指示に対してイエスマンであるだけではなく、自分なりに主体的に業務と向き合い、より良い改善効果をもたらそうとしている意図を伝えることが必要です。
アサーティブコミュニケーションは、以下の「DESC法(デスク法)」と呼ばれるトレーニングを地道に続けることによって、自然と実践できるようになります。それぞれの内容について確認しましょう。
描写のトレーニングは、主観の混じらない、客観的な事実だけを描写する練習です。自分や相手の感情や意見を排除し、「そこに何があるのか」ということだけに集中します。
事実に対して素直に表現できる描写力を磨くことで、誠実で素直な表現を身につけられるようになります。
表現のトレーニングは、描写において得られた客観的な事実に対して、主観的な意見も交えながら相手に伝える練習です。
ただ客観的事実を述べるだけでは相手を慮らない態度となってしまいかねませんが、相手の立場やこちらの意図を踏まえた意見の伝え方を磨けば、誠実な態度として認識してもらえる表現力を身につけられます。
提案のトレーニングは、現状抱えている問題に対するソリューションを相手に伝える練習です。提案というのは命令ではないため、相手の目線に立ち、「こんなアイデアはどうだろう」とフラットに伝える姿勢が重要です。
相手にNOと言える余地は残しつつも、正当性のある意見を伝えることが、提案のポイントです。
選択のトレーニングは、提案を投げかけた相手がそれに対して好意的なのか、否定的なのかを踏まえながら、更なる選択肢や提案を投げかけるという練習です。
提案というのは却下されるという前提も踏まえたオピニオンであるため、必ずしも受け入れられるとは限りません。相手の反応を見ながら、冷静に「じゃあこうしましょう」と言える姿勢や、発想力を持っておくことが重要です。
アサーティブコミュニケーションは、組織内の風通しを良くするだけでなく、生産性の改善にも役立つコミュニケーション手法として、積極的に採用したい技術です。
実践においては、まず自身の行動の傾向を把握し、それに合わせた改善施策を実践する必要があります。実現に向けたトレーニングや、ケーススタディを確認しながら改善を行い、円滑なコミュニケーションを実現できるようになりましょう。