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今週は金融市場の注目が集中する中で、日米の金融政策会合が開催される週となりました。日銀の7月会合では、私の想定通り、利上げが実施されました。今回決定された長期国債の買入れ額減額幅はほぼ市場の予想通りでしたが、利上げについては市場の見方が分かれていたことから、市場想定に比べてタカ的であったと判断できます。今後については、10月会合における再利上げと、2025年における2回の利上げを予想します。
7月30~31日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、これまで以上にFRB(米連邦準備理事会)が利下げに対して前向きになっていることを示したと考えられます。
日米の金融政策会合を受けて、米国市場では、株高・債券高の動きが表面化しましたが、日銀の利上げもあって為替市場では円高ドル安が進行しています。急速な円高を受けて日本株には下落圧力がかかっています。今後については、米国市場では、利下げの恩恵を受ける銘柄に物色が広がると想定されます。為替については、足元の急速な円高は早晩落ち着くものの、両国の金融政策を反映した緩やかな円高が続くと予想します。日本株については、足元の円高による影響が落ち着けば、内需関連株が注目される形での株高トレンドに戻ると見込まれます。
今週は金融市場の注目が集中する中で、日米の金融政策会合が開催される週となりました。一言で要約するなら、日銀は市場予想に比べてタカ派的、FRB(米連邦準備理事会)はほぼ市場予想通りにハト派化したと言えます。本稿では、想定される今後の政策・市場の動きを含めて両会合のポイントをまとめてみたいと思います。
まず、日本銀行ですが、7月30~31日に開催された金融政策決定会合において、3月会合に続く利下げに踏み切るとともに、長期国債のグロス買入れ額の減額幅を決定しました。利上げについては、事前のエコノミスト予想での見方が大きく分かれる中、政策金利(無担保オーバーナイト物コール・レートの誘導目標)が従前の0.0~0.1%から0.25%へと引き上げられました。「今回の会合で利上げを議論する」という報道はあったものの、金融市場において利上げが完全に織り込まれていたわけではありませんので、今回の利上げはタカ派的であったと判断できます。
この利上げは、5月初旬以来、私が予想していた通りの結果となりました。振り返ってみると、4月会合以来、日銀の政策はよりタカ派的なスタンスに変化しました。特に重要なのは、第1に、4月の展望レポートにおいて、当該展望レポートで示された「経済・物価の見通しが実現し、基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば、金融緩和度合いを調整していくことになる」ことが示された点でした。日銀は今回の7月会合で公表した展望レポートにおいて、GDPの改定や政府によるエネルギー補助金の影響を除き、4月の展望レポートで示した見通しを踏襲しました。景気や物価が想定通りに動いたことで、日銀の利上げが実施されたことになります。第2に、植田総裁が4月、6月の両会合における記者会見において、「2025年度後半から2026年度にかけて短期政策金利がおおむね中立金利程度まで引き上げられている」という想定を示した点も重要でした。直近の講演等で、日銀は現在の自然利子率の推計値がおおむね「-1.0~+0.5%」の範囲内にあるとの見方を示していますが、これにインフレ目標である2%を加えると、名目での中立金利は「+1.0~+2.5%」のレンジにあることになります。
これらをふまえると、植田総裁は、中期的には政策金利が大きく上昇することになる、という見方を示していたことになります。今回の7月会合での記者会見において、植田総裁は、今回の利上げが、「政策金利が中立金利よりもかなり下にある中での(政策)調整」であったと発言することで、従来の立場よりもさらにタカ派的な立場を明らかにしました。これらの点と、植田総裁が現時点での基調的なインフレについて、「2%にはもう少し距離がある」と発言した点をふまえると、日本の景気が今後多少なりとも改善を続ける限り、次回展望レポートが公表される10月会合での25bp(=0.25%)の利上げが実施されると見込まれます。2025年については、私は、賃金と物価の好循環が緩やかに継続するという前提で、2回の利上げが実施されると予想します。
一方、日銀が7月会合で決定した長期国債の月間買入れ額の減額幅はおおむね市場の見方通りでした。日銀は、今後、毎四半期に4000億円程度ずつ買入れ額を減額していき、これを2026年1~3月期まで続けると決定しました。日銀が現在保有する長期国債の残高を維持するためには月間で6兆円程度の買い入れが必要となりますので、今回の決定をもって日銀は量的引き締め政策(QT⦅Quantitative Tightening⦆政策)に乗り出すことになります。長期国債の月間買入れ額は、現行の5.7兆円から2025年4-6月期には4.1兆円、2026年1-3月期には2.9兆円にまで減額されます。日銀が債券市場参加者会合などを通じたヒアリングをもとにして慎重に減額幅を決定したこと、そして、2025年6月に中間評価を行って必要に応じて買入れ額を調整することを決めたことに対しては、国債金利の過度の上昇を回避しようとする政策として高く評価したいと思います。
手元でおおまかに計算すると、2024年7月以降の1年間における日銀保有のネット長期国債保有残高の減少額は15兆円程度となります。また、2026年4-6月期の国債買入れ額がすでに公表されている同年1-3月期の額と同じであるとすると、2025年7月以降の1年間での日銀保有のネット長期国債残高の減少額は32兆円程度と計算されます。日本政府による年間のネット長期国債発行額が30兆円台半ばとみられることをふまえますと、日銀以外の投資家が、2024年7月以降の1年間においてネットで購入する必要のある長期国債は50兆円程度、2025年7月以降の1年間については60~70兆円です。2024年7月以降の1年間については長期国債市場の需給を均衡させる長期金利は現在の水準からやや上昇する程度と見込まれるものの、2025年7月以降の1年間については、長期金利が大幅に上昇するリスクがあるとみられる点には、注意したいと思います。私は、2025年6月に実施予定の中間評価において日銀が当初の買入れ計画を増額修正する可能性が高いと考えています。
7月30~31日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、金融市場の大方の予想通り、FF金利の誘導目標が5.25~5.50%で据え置かれました。金融市場で最も注目されたのは、今回の会合において次回の9月会合における利下げが示唆されるかどうかという点でした。この点については、金融市場は今回のFOMCでのFRBのコミュニケーションが想定通りにハト派化したと受け止めた模様です。第1に、これまではインフレのリスクを強調していたFOMCの声明文では、インフレのリスクだけではなく、景気減速のリスクが言及され、両面のリスクが示される形となりました。この点は、FRBの判断が利下げに傾きつつあることを示唆していると言えます。第2に、パウエル議長が、記者会見において、「米国経済が利下げが適切となるポイントに近づいている」と述べるとともに、「インフレが迅速にあるいは想定通りに低下し、経済成長がある程度の強さを維持する場合には、9月に利下げを実施する可能性が出てくる」と述べたことは、これまで以上にFRBが利下げに対して前向きになっていることを示したと考えられます。これらの展開を受けて、金融市場は、9月会合における利下げの可能性についての確信を深めたと考えられます。これまでの想定通り、年内における複数回の利下げを予想します。
日米の金融政策会合は両国の金融市場に大きな影響をもたらしました。7月FOMC会合がハト派的と受けとめられたことで、米国金利先物市場では、年内の利下げ回数についての織り込みが3回弱まで上昇しました。米10年国債金利は前日の4.140%から7月31日には4.032%まで低下しました。株式市場では、長期金利が低下したことでテクノロジー銘柄が買われ、NASDAQ総合指数は前日比で2.64%上昇しました。FRBによる利下げがより強く意識されたことで、消費や公益事業関連銘柄も上昇しました。
為替市場では、日銀の利上げとFRBのハト派化がけん引して急速な円高が進行しました。ドル円レートは、7月30日の152.77円から、8月1日午前11時現在で148円台まで上昇し、円高方向への動きが続いています。日本の債券市場では、日銀の政策決定によって、10年国債金利が7月30日の0.996%から7月31日には1.050%に上昇しました。その後、米国の長期金利低下を受けて、8月1日午前11時現在では、1.027%に低下しました。日本株市場では、7月31日の日経平均株価は、日銀の会合がややタカ派的であったものの、日本企業が米国による追加的な対中半導体関連輸出の対象にならないとの観測記事が出たこともあって、前日比1.49%上昇しましたが、急速な円高が嫌気される形で8月1日午前10時45分時点では前日終値比で3.29%下落しています。
今後については、米国市場では、今週末までに公表されるアマゾン・ドット・コムやアップルの決算が市場の短期的なセンチメントを決定づける展開になると見込まれますが、その短期的なインパクトが織り込まれた後は、利下げの恩恵を受ける銘柄への物色が引き続き広がっていくとみられます。一方、米国債券市場については、短期的には、今週末公表される7月分雇用統計が重要です。
ドル円為替レートについては、日米の金融政策を受けた急速な円高のモメンタムの行方が短期的に重要となりますが、日本側の材料はほぼ出尽くしており、いったん市場が落ち着いた後、10月の日銀決定会合までは、米国側のインフレやFRBの動きが方向性を決めていくと考えられます。私は、米国のインフレが低下傾向を続けるとの見方に立ち、米国の利下げや日銀の利上げによる、緩やかな円高が進行する可能性が高いとみています。2024年末時点でのドル円レートとしては、1ドル=145円程度を見込んでいます。
最後に、日本株市場については、現在の円高の動きが一服すると、民間消費や設備投資が緩やかな拡大に転じることが内需関連株にプラス効果をもたらしていき、それが日本株主要指数の緩やかな上昇につながると見込まれます。円安に歯止めがかかったことで、外国人投資家による日本株の購入姿勢が積極化する可能性も注目されます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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