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厚生年金保険や健康保険の受給額は、加入時の標準報酬月額によって決まります。そのため、選択制DCへの拠出で標準報酬月額(等級)が下がると、毎月の保険料や受給額も減額されます。
また、雇用保険の基本手当や給付金は、直近の賃金日額をもとに受給額が計算されます。選択制DCに拠出すると、賃金日額のベースになる給与が下がったものとみなされるため、受給額の減額は避けられません。
マッチング拠出と比較した場合、選択制DCではどれくらい年金が減るのでしょうか。ここからは同等の条件を設定して、マッチング拠出と選択制DCのシミュレーションを行いました。なお、報酬月額が変わると計算が複雑になるため、退職まで昇給・減給はないものとして計算します。
<シミュレーションの条件>
居住地:東京都
退職年齢:65歳(在職中の受給なし)
年金の受給年齢:65歳(繰下げや繰上げなし)
厚生年金保険の加入時期:2010年~2058年
昇給や減給:なし
想定される給与:毎月30万円
1年間の賞与:100万円
毎月の拠出分:2万円
通常、老齢厚生年金の受給額は以下の式で計算されます。
<老齢厚生年金の受給額の計算式>
受給額=報酬比例部分+経過的加算+加給年金
報酬比例部分=平均標準報酬額(※)×5.481/1,000×加入月数
(※)標準報酬月額と標準賞与額の総額を、加入期間で割った金額。
経過的加算や加給年金は標準報酬月額で受給額が変わることはないため、本シミュレーションでは考慮しません。わかりやすく比較をするために、通常の老齢厚生年金に限定して比較を行います。
<マッチング拠出の場合>
マッチング拠出は標準報酬月額に影響しないため、退職までの平均標準報酬額は以下のように計算できます。
<平均標準報酬額の計算>
(標準報酬月額の総額+標準賞与額の総額)÷加入期間=平均標準報酬額
(30万円×12ヵ月+100万円)×48年間÷576ヵ月=38万3,333円
(※小数点以下は切り捨てて計算、以下同様。)
次に、受給額の算出に用いる報酬比例部分を計算します。
<報酬比例部分の計算>
平均標準報酬額×5.481/1,000×加入月数=報酬比例部分
38万3,333円×5.481/1,000×576ヵ月=121万204円
したがって、65歳から1年間に受けとれる厚生年金は、121万204円に経過的加算と加給年金を加えたものになります。
<選択制DCの場合>
選択制DCの拠出分は報酬月額から差し引くため、標準報酬月額は28万円(30万円-2万円)になります。したがって、退職までの平均標準報酬額は以下の通りです。
<平均標準報酬額の計算>
(28万円×12ヵ月+100万円)×48年間÷576ヵ月=36万3,333円
次に、老齢厚生年金の報酬比例部分を計算します。
<老齢厚生年金の報酬比例部分の計算>
36万3,333円×5.481/1,000×576ヵ月=114万7,063円
1年間の受給額は114万7,063円に経過的加算と加給年金を加えたものになるため、マッチング拠出とは年間6万3,141円(121万204円-114万7,063円)の差が生じました。
マッチング拠出は社会保険料に影響しませんが、拠出額によって毎年の所得税・住民税は変わります。加入者自身で拠出した掛金については、その全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になるためです。
実際にどれくらい所得税・住民税が安くなるのか、以下の条件でシミュレーションを行います。
<シミュレーションの条件>
毎月の給与:30万円(年間360万円)
1年間の賞与:100万円
毎月の掛金:2万円
適用される控除:基礎控除、給与所得控除
所得税率:2024年5月時点のもの
住民税率:一律10%(※均等割は考慮しない)
一般的な会社員を想定した場合、所得税と住民税は以下の式で計算できます。所得税の税率については、国税庁のウェブサイト(※)で公開されています。
<所得税の計算式>
(課税所得金額×税率)-控除額=所得税
<住民税の計算式>
課税所得金額×税率=住民税
(※)参考:国税庁「No.2260 所得税の税率」
上記の課税所得金額は、年収から各種控除を差し引いて計算します。
<課税所得金額の計算>
年収-各種控除=課税所得金額
(360万円+100万円)-(48万円+55万円)=357万円
したがって、このケースにおける所得税・住民税は以下の通りです。
<所得税・住民税の計算>
(357万円×20%)-42万7,500円=28万6,500円(所得税)
357万円×10%=35万7,000円(住民税)
28万6,500円+35万7,000円=64万3,500円(所得税+住民税)
マッチング拠出をする場合は、毎月の掛金が小規模企業共済等掛金控除の対象になります。したがって、所得税・住民税は以下のように計算できます。
<所得税・住民税の計算>
(360万円+100万円)-(48万円+55万円+24万円)=333万円
<所得税・住民税の計算>
(333万円×20%)-42万7,500円=23万8,500円(所得税)
333万円×10%=33万3,000円(住民税)
23万8,500円+33万3,000円=57万1,500円(所得税+住民税)
毎月2万円の掛金を拠出したことにより、所得税と住民税の合計額は7万円ほど安くなりました。
なお、選択制DCの掛金は会社負担となるため、小規模企業共済等掛金控除の対象ではありません。拠出分が給与(課税所得金額)とはみなされない影響で、同じ金額を賃金として受けとった場合に比べると、所得税と住民税が安くなります。
マッチング拠出は節税効果がある制度ですが、場合によっては家計を圧迫することもあります。ここからは、マッチング拠出を活用する際の注意点をご紹介します。
マッチング拠出の掛金には以下のルールがあり、勤務先によって上限額が変わります。
<要件1>
加入者の掛金が、事業者の拠出額を超えないこと
<要件2>
加入者と事業者の掛金累計額が、以下の金額を超えないこと
・他の企業年金がない:年間66万円
・他の企業年金がある:年間33万円
上記の「企業年金」とは、厚生年金基金や確定給付企業年金などの制度です。また、掛金の算出期間については、12月~翌年11月が基準になるので注意してください。
なお、企業型DC自体の掛金は、月額5万5,000円(年間66万円)が上限額です。仮に事業者がこの半額(年間33万円)を拠出する場合、マッチング拠出では年間33万円までの掛金を拠出できます(※他の企業年金がない場合)。
マッチング拠出で積みたてた資産は、加入者が原則60歳になるまでは引き出せません。そのため、毎月の掛金を増やしすぎると、日常生活に支障がでる可能性もあります。
前述のシミュレーションより、年収460万円、マッチング拠出の掛金を月2万円とした場合の手取り金額(※)は、378万8,500円(460万円-24万円-57万1,500円)です。以下では同じ年収で、マッチング拠出の掛金を月2万7,500円とした場合の手取り年収を計算してみます。本シミュレーションの手取り金額は、年収から掛金と税金を差し引いた額を想定しています。
<課税所得金額の計算>
年収-各種控除=課税所得金額
460万円-(48万円+55万円+33万円)=324万円
<所得税・住民税の計算>
(324万円×20%)-42万7,500円=22万500円(所得税)
324万円×10%=32万4,000円(住民税)
22万500円+32万4,000円=54万4,500円(所得税+住民税)
<手取り年収>
年収-1年間の掛金-税金=手取り年収
460万円-33万円-54万4,500円=372万5,500円
マッチング拠出の掛金を月7,500円増やすと、手取り年収は約6万円減る結果となりました。なお、実際の年収からは社会保険料も差し引かれるので、上記のシミュレーション結果は参考程度に留めてください。
マッチング拠出で厚生年金が減ることはありませんが、下がらない社会保険料が負担になる可能性もあります。特に手取り年収が少ない方は、拠出した分だけ標準報酬月額(等級)を減らせる選択制DCが望ましいかもしれません。
節税効果だけに目を向けると、家計を圧迫するリスクが高まります。マッチング拠出を活用する場合は、税金や社会保険料も含めた手取り収入をシミュレーションした上で、無理のない掛金を設定しましょう。
選択制DCとは違い、マッチング拠出で厚生年金の受給額が減ることはありません。ただし、日々の生活に支障がでる可能性もあるため、毎月の掛金は慎重に設定する必要があります。本記事のように細かくシミュレーションをした上で、マッチング拠出を無理なく続けられるような計画をたてましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は、2024年5月14日現在のものです。今後制度が変更になる場合もあります。
The post マッチング拠出で年金は減る?社会保険との関係性と節税効果 first appeared on Wealth Road.