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2022年は米国の長期金利が大きく上昇してドル高となる中、多くの新興国では海外投資家がポートフォリオ投資資金を引き揚げる動きが表面化しました。インドにおいても、2022年前半には外国機関投資家がインド株式をネットで売却しましたが、2022年後半には買い手に転じ、2023年入っても4-6月期、7-9月期はネットでの買い手となりました(図表4)。今年の夏以降、10月まで米国の長期金利が大きく上昇したことで、多くの新興国では主要株価指数が比較的大幅に下落する事態となりましたが、SENSEX指数の7~10月における4カ月間の騰落率は-1.3%にとどまりました。株価の下落幅が限定的であったのは、外国人投資家がインド株に対して前向きなスタンスを維持したことがあったと考えられます。インド株式市場の時価総額は新興国の中では中国・香港市場に次ぐ規模に成長しており、2023年10月末には3.74兆ドルを記録しました(図表5)。景気が好調を続ける中、米中対立の強まりという地政学的な環境の変化もあって、グローバル市場の中でのインド株式市場の存在感が増したことが、インド市場への資金流入を呼ぶという好循環が生じています。この結果、SENSEX指数の1年先の企業収益見通しをベースにしたPER(株価収益率)は直近時点(11月23日)で21.0倍と、2008~2022年の15年間における平均PER(17.5倍)をかなり上回っています。それでも、①今後中期的にインド経済に高成長が見込めるという期待感がグローバル市場で強いこと、➁2024年は米国の景気減速に伴ってドル安傾向が続くとみられることで、グローバル市場において新興国市場への資金配分が増加することみられること―をふまえると、当面はインド株式市場に投資妙味があると見込まれます。
インド市場をみるうえでの短期的な注目点としては、第1にインフレ動向が挙げられます。インドのCPIのウエイトにおいては、飲食料品が45.86%を占めていることから食料品の価格の動きが他国に比べて重要です。前年同月比でみたヘッドラインCPI上昇率は、2023年3月にインド準備銀行(RBI)がインフレ目標レンジの上限としている6%を下回り、4~6月は4%台に低下しました(図表6)。しかし、7~8月はトマトの価格が高騰したことでインフレ率は再びRBIの目標上限を上回りました。9~10月はトマトの価格が落ち着いたことで5%程度まで低下しましたが、10月に天候不順の影響からタマネギの価格が急騰し始めたことから、11~12月は再び6%に近づく見通しです。天候不順による野菜の価格変動は基調的なインフレとは関係ありませんが、RBIとしては野菜価格の高騰が消費者のインフレ期待に及ぼすリスクを考慮しなければなりません。このため、政策金利の初回の引き下げは2024年4-6月期に実施されると見込まれます。ただし、インフレについてのリスクとしては上振れリスクが下振れリスクより大きいことから、インフレ動向次第ではRBIの利下げが市場想定よりも遅れるリスクがあり、その場合には株式市場への悪影響があると考えられます。
もう一つの注目点が、2024年4~5月に実施されるとみられる下院の総選挙の行方です。インドの総選挙は、非常に公正に開票されることで知られており、投開票の公正さを期すために全国で同じ日に選挙が実施されず、地域ごとに段階的に実施されます。現在の各種世論調査では、モディ首相が率いるインド人民党(BJP)が優勢ですが、次回の選挙では、野党がインド国民会議(INC)を中核に26政党からなるインド国家開発包括同盟(INDIA:Indian National Developmental Inclusive Alliance)を立ち上げて選挙戦を闘う見通しであり、現段階ではまだ先を見通しにくい状況です。11月中にマディヤ・プラデシュ州など5州において地方議会の選挙が実施され、その開票作業が12月3日に始まります。来年の総選挙の行方をみるうえで、与党BJPへの投票がどのような結果になるかが注目されます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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