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ここで考える必要が出てきたのは、6月FOMCで示された通りのインフレ・金利環境になれば、実体経済にどのような影響がもたらされるか、という問いです。私が、この問に先立って考察すべきだと感じたのは、そもそもFFレートを名目の水準だけで考えてよいのだろうか、という点です。現在のFFレートの誘導目標は、5.00~5.25%ですが、直近(5月)でのコアCPI(エネルギー・食品を除くCPI)の前年同月比の水準は5.3%であり、これを用いて計算すると、実質FFレートはゼロ%程度となります。しかし、よく考えてみると、企業や消費者が資金を借り入れるにあたって、5.3%のインフレ率を前提にして借り入れを行うとは思えません。人々が気にするのは、足元のインフレ率で実質化した金利ではなく、将来期待されるインフレ率で実質化した金利です。
この点を念頭に、ミシガン大学の消費者調査における1年先のインフレ率についての期待値を使用する形で、名目のFFレートを実質化することにしました(図表2)。先行きについては、FOMCの想定と整合的な月次の見通しを算出しました。この際、ヒストリカルなデータからは、実際のインフレ率が低下してもミシガン大学の1年先期待インフレ率は2.8%くらいまでしか低下しない傾向がある点を踏まえて、期待インフレ率は2.8%よりも低下しないという前提を置きました(図表2⦅以下同様⦆の太い青色の点線)。同様に、5月時点でのNY連銀サーベイ調査で想定されるFFレートについても実質化を試みました(細い青色の点線)。
さて、こうして算出した実質FFレートがどれくらい景気抑制的かをみるうえでは、景気に中立的な金利と比べる必要があります。中立金利と聞いてまず頭に浮かぶのはFOMC参加者が想定する長期のFF金利ですが、これは2.5%であり、ここから、長期的に想定されるインフレ率(2%)を差し引くと、実質でみた中立金利は0.5%となります。6月FOMCで想定される実質FFレート(太い青色の点線)も、金融市場が見通す実質FFレート(細い青色の点線)も、共に2024年末までは0.5%をかなり超える水準にありますので、この図からは、高金利政策が景気に対してかなり抑制的に作用する可能性がうかがわれます。しかし、実質でみた中立金利を巡っては、様々な議論があります。実質中立金利については、NY連銀が試算するr*(アール・スター:経済が完全雇用とインフレ安定状態にある時の実現するとみられる実質金利水準)があり、実質FFレートに対してより適切な比較対象であると考えられます(橙色の実線)。6月FOMCで想定される実質FFレート(太い青色の点線)は2024年末時点でもr*(橙色の実線)よりもかなり高水準ではあるものの、金融市場が見通す実質FFレート(細い青色の点線)は2024年後半にはr*とほぼ同程度です。つまり、 実質ベースで金利政策の景気への影響を考えると、6月FOMCで想定される通りにFFレートが推移すれば、2024年後半の段階でも高金利によるかなりの景気下押し圧力がかかるとみられる一方、現在の市場想定通りにFFレートが推移する場合には、2024年後半には景気への下押し圧力は消滅する公算が大きいと判断されます。
以上の考察は、今後のFFレートが6月FOMCにおける想定通りに推移する場合には、2024年後半における米国景気の回復が想定しにくいことを示唆しています。これは、今後、①インフレがなかなか低下せずにFRBが高金利を継続させてしまうリスク、➁タカ派姿勢が維持されるなかで想定以上に景気が悪化するリスク―が引き続き重要であることを示しています。米国経済指標のなかでも、インフレ、雇用関連指標、ISMなどの景況感指標、FRB高官の発言にはこれまで通り注目していきたいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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MC2023-099
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