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標準報酬月額(※)×18.300%=厚生年金保険料
(※)賞与がある場合は「標準賞与額」を用いる。
上記の「標準報酬月額」は、原則として毎年4月~6月の平均支給額によって決まります。企業型DCに加入する場合は、掛金を天引きした後の金額が基準となるため、掛金が多いほど受給額の減少幅も大きくなります。
なお、企業型DCには事業主負担分に掛金を上乗せできる「マッチング拠出」と呼ばれる制度もあります。マッチング拠出分については、加入者自身の資産から掛金を拠出するため、厚生年金保険料(将来の受給額)には影響しません。
標準報酬月額とは、1ヵ月の総支給額を28の等級に分けたものです。通常は4~6月の平均支給額の平均で算出し、この標準報酬月額をもとに厚生年金保険料が決められます。
この解説だけでは分かりづらいため、以下では東京都における保険料額表(令和5年度分)の一部を見てみましょう。
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額 (円以上~円未満) | 厚生年金保険料 (全額) | 厚生年金保険料 (折半額) |
---|---|---|---|---|
17 | 200,000円 | 195,000~210,000円 | 36,600円 | 18,300円 |
18 | 220,000円 | 210,000~230,000円 | 40,260円 | 20,130円 |
19 | 240,000円 | 230,000~250,000円 | 43,920円 | 21,960円 |
20 | 260,000円 | 250,000~270,000円 | 47,580円 | 23,790円 |
21 | 280,000円 | 270,000~290,000円 | 51,240円 | 25,620円 |
(参考:全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」)
4~6月の平均支給額(報酬月額)が235,000円の場合は、標準報酬月額が240,000円の19等級にあたります。19等級の厚生年金保険料を見ると、全額は43,920円であるため、被保険者と会社が毎月21,960円ずつ折半することになります。
このように、厚生年金保険料は標準報酬月額が基準となりますが、企業型DCの掛金が給与から天引きされると、その分だけ支給額が減ったものとみなされます。掛金によって標準報酬月額が下がるので、それに伴って厚生年金保険料の支払いも減少します。
企業型DCに加入すると、実際に厚生年金はどれくらい減るのでしょうか。ここからは2つのパターンに分けて、支払い額・受給額をシミュレーションしていきます。まずは結論から見ていきましょう。
<ケース1>
受給額:7.1万円減額
条件設定:35歳で月収30万円、60歳で定年、毎月5万円の掛金を拠出(東京都)
<ケース2>
受給額:7.5万円減額
条件設定:45歳で月収50万円、65歳で定年、毎月5万円の掛金を拠出(東京都)
それぞれのケースごとに、厚生年金の受給額がどのくらい減るのか計算していきます。
<条件設定>
35歳で月収30万円、60歳で定年、毎月5万円の掛金を拠出(東京都)
まずは、東京都の保険料額表(令和5年分)を参考に、掛金の拠出による厚生年金保険料の変化から見ていきましょう。
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額 (円以上~円未満) | 厚生年金保険料 (全額) | 厚生年金保険料 (折半額) |
---|---|---|---|---|
20 | 260,000円 | 250,000~270,000円 | 47,580円 | 23,790円 |
21 | 280,000円 | 270,000~290,000円 | 51,240円 | 25,620円 |
22 | 300,000円 | 290,000~310,000円 | 54,900円 | 27,450円 |
(参考:全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」)
企業型DCへの加入前は22等級ですが、掛金を拠出すると報酬月額が50,000円下がるため、20等級になることが分かります。したがって、厚生年金保険料の減額分は以下のように計算ができます。
<厚生年金保険料の減額分>
22等級の折半額-20等級の折半額=厚生年金保険料の減額分
27,450円-23,790円=1ヵ月あたり3,660円
次に、厚生年金の受給額は「報酬比例年金額+経過的加算+加給年金額」で計算されます。このうち、経過的加算と加給年金額は対象外となる人もいるため、今回は考慮しないものとします。
受給額の中心となる報酬比例年金額については、以下のように計算されています。
2003年3月以前:標準報酬月額の平均額×加入月数×7.5/1,000
2003年4月以降:標準報酬月額の平均額×加入月数×5.769/1,000
2005年に22歳で入社してから月給が変わらないものと仮定して、厚生年金の受給額がどのぐらい変化するのかを計算してみましょう。
<企業型DCに加入しない場合>
標準報酬月額の平均額×加入月数×5.769/1,000=受給額
30万円×(12ヵ月×38年間)×5.769/1,000=年間78.9万円
<企業型DCに加入する場合>
以下は、13年間は企業型DC未加入、25年間は企業型DCに加入で計算。
{(13年間×30万円+25年間×26万円)÷38年間}×加入月数×5.769/1,000=受給額
27.3万円×(12ヵ月×38年間)×5.769/1,000=年間71.8万円
<企業型DCに加入した場合、いくら受給額が減ったのか>
78.9万円―71.8万円=7.1万円
上記の通り、企業型DCに加入したことで受給額は年間7.1万円ほど減りました。
<条件設定>
45歳で月収50万円、65歳で定年、毎月5万円の掛金を拠出(東京都)
こちらのパターンも同じ流れで、厚生年金の支払い額・受給額をシミュレーションしてみましょう。まずは、保険料額表から保険料の変化を見ていきます。
等級 | 標準報酬月額 | 報酬月額 (円以上~円未満) | 厚生年金保険料(全額) | 厚生年金保険料(折半額) |
---|---|---|---|---|
25 | 440,000円 | 425,000~455,000円 | 80,520円 | 40,260円 |
26 | 470,000円 | 455,000~485,000円 | 86,010円 | 43,005円 |
27 | 500,000円 | 485,000~515,000円 | 91,500円 | 45,750円 |
(参考:全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」)
<厚生年金保険料の減額分>
27等級の折半額-25等級の折半額=厚生年金保険料の減額分
45,750円-40,260円=1ヵ月あたり5,490円
次に、2005年に20歳で入社してから月給が変わらないものとして、厚生年金の受給額を計算してみます。
<企業型DCに加入しない場合>
標準報酬月額の平均額×加入月数×5.769/1,000=受給額
50万円×480ヵ月(※)×5.769/1,000=年間138.4万円
(※)厚生年金の上限加入月数。
<企業型DCに加入する場合>
以下は、25年間は企業型DC未加入、20年間は企業型DCに加入で計算。
{(25年間×50万円+20年間×44万円)÷45年間}×加入月数×5.769/1,000=受給額
47.3万円×480ヵ月×5.769/1,000=年間130.9万円
<企業型DCに加入した場合、いくら受給額が減ったのか>
138.4万円―130.9万円=7.5万円
こちらのパターンでも、企業型DCへの加入によって受給額が年間7.5万円ほど減りました。
企業型DCに加入すると、以下の社会保障にも影響する可能性があります。
1~3級の障害状態となった場合に、過去の報酬等や国民年金の加入期間に応じた年金を受け取れる制度です。標準報酬月額を基準に年金が計算されるため、企業型DCに加入すると受給額が減ります。
厚生年金保険の被保険者が死亡した場合などに、その遺族が年金を受け取れる制度です。障害厚生年金と同じく、被保険者の標準報酬月額から受給額が計算されます。
けがや病気で出勤できない場合に、標準報酬月額に応じた手当金が支給される健康保険制度です。加入期間によって受給額の計算方法は変わりますが、いずれのケースでも加入者本人の標準報酬月額が基準になります。
出産を理由に休職をした場合に、健康保険から手当金が支給される制度です。休職前の標準報酬月額を基準に、1日あたりの手当金が計算されます。
離職や失業をした場合に、雇用保険を通して手当金が支給される制度です。受給額は離職日の直前6ヵ月間に受け取った賃金から計算されます。
産後パパ育休を取得した場合に、雇用保険を通して給付金を受け取れる制度です。育児休業開始前6ヵ月間の総支給額で受給額が決まるため、企業型DCの影響を受けます。
常時介護が必要な家族がいる場合に、休職時の生活を保障する制度です。介護休業開始前6ヵ月間の総支給額を基準に、毎月の受給額が計算されます。
会社員が確定拠出年金に加入する場合は、iDeCoと企業型DCのどちらを選べば良いのでしょうか。ここからは、確定拠出年金のタイプを選ぶ基準について解説します。
企業型DCの対象商品は、会社から委託を受けた金融機関で取り扱われている銘柄です。加入者自身では金融機関を選べないため、運用したい銘柄が見当たらないかもしれません。 商品によってリスクは変わるので、「目当ての銘柄を取引できるか」は事前に確認しておきましょう。
標準報酬月額が65万円を超えると、厚生年金の等級や保険料は変動しなくなります。 そのため、多くの月収を受け取っている方は、掛金上限額が多い企業型DCを選ぶことで節税効果が高まります。 月収から掛金を差し引いたときに等級が下がる場合は、厚生年金の支払い額・受給額が減少します。
企業型DCに加入している方が転職をする場合、運用資産を6ヵ月放置すると国民年金基金連合会に移管されます。期限までに転職先の企業型DCに切り替えれば、この自動移管を防ぐことはできますが、企業型DCの切り替えでは所定の手続きが必要です。
この手続きが面倒に感じる方は、最初からiDeCoに加入することを検討してみましょう。
手数料の面から考えると、会社員にとっては企業型DCのほうが最適でしょう。企業型DCでは、加入時手数料や運営管理機関手数料などが原則会社負担なので、支出を抑えながら老後資金を蓄えられます。
前述の通り、企業型DCの掛金によって厚生年金保険料が減ると、将来受け取れる年金が減ってしまいます。年金の受給額を減らしたくない方は、厚生年金に影響しないiDeCoへの加入を検討しましょう。
ここからは、iDeCoを選ぶ主なメリット・デメリットを紹介します。
iDeCoで拠出した掛金は、全額が小規模企業共済等掛金控除の対象になります。また、運用時のリターンは非課税であり、受給時にも所得控除(退職所得控除または公的年金等控除)が適用されるため、加入している間は節税効果を期待できます。
また、iDeCoでは加入者本人の勤務先が変わっても、加入が制限されることはありません。職業によって毎月の掛金上限額は変わりますが、仮に給与所得者から自営業者になったとしても、引き続き掛金の拠出や運用ができます。
その他、厚生年金の受給額に影響しない点もiDeCoを選ぶメリットです。
iDeCoで積み立てた資産には払出し制限があり、受給は原則として60歳以降になります。最初の掛金拠出から10年未満のケースでは、加入期間の短さに応じて受給開始時期が延長されます。さらに掛金が給与から天引きされないため、紐づける口座に資産を残しておく必要があります。
最近では、退職金や給与等を前払いで受け取るか、企業型DCに拠出するかを選べる会社もあります。この仕組みは「選択制確定拠出年金(選択制企業型DC)」と呼ばれますが、会社員にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
企業型DCには節税効果があり、以下のタイミングで所得控除や非課税措置を受けられます。
<企業型DCの節税効果>
拠出時:全ての掛金が所得控除の対象になる(※)。
運用時:全ての運用益が非課税になる。
給付時:一時金には退職所得控除、年金には公的年金等控除が適用される。
(※)マッチング拠出を利用して、従業員自身が掛金を負担した場合。
企業型DCには拠出時・運用時・給付時の税制優遇があるため、効率的に資産を形成できる可能性があります。
企業型DCで積み立てた資産は、原則60歳になるまで受給できません。退職金や給与とは違い、自由に使えるお金とはならないので、慎重に利用を検討する必要があります。
また、前述の通り厚生年金の受給額が減ってしまうリスクにも注意が必要です。 加入前には支払い額と受給額をシミュレーションし、どれくらいの金額になるのかを確認しておきましょう。
iDeCoで厚生年金が減ることはありませんが、企業型DCには将来の受給額が減ってしまう可能性があります。収入によっては受給額が減らない場合もあるので、本記事のようにシミュレーションを行なってみましょう。
※税務の詳細はお近くの税理士や公認会計士にご相談ください。
※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。
The post iDeCoで厚生年金が減る?企業型確定拠出年金はどれくらい減額? first appeared on Wealth Road.