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第3のサプライズは、米国の貿易赤字額が比較的大きい東南アジア、南アジアの主要国への追加関税率がかなり高めであったことです。ベトナムには46%、タイには36%、インドネシアには32%、インドには26%、マレーシアには24%の追加関税率が課されることになりましたが、これは、米国のこれらの国々に対する貿易赤字額の大きさを踏まえたものであるとみられます(図表2)。また、ベトナムやタイが中国メーカーの対米輸出拠点として多く活用されている点も、その背景に挙げられます。これらの諸国のGDPに対する対米貿易黒字額は比較的大きいことから、景気には相応の悪影響が出るとみられます(図表3)。
今回公表された米国による10%のベース追加関税措置と主要貿易相手国に対する追加関税措置は、米国景気に対して、これまでの金融市場の想定を上回る短期的な下押し圧力をもたらすと考えられます。手元のデータを使い、一定の前提を置いてラフな推計を試みると、これまでトランプ政権が公表した措置を含めた追加関税措置により、米国の実効関税率が20%ポイント程度上昇する可能性があることがわかりました。これによる米国のインフレ率への押上げ効果は2%ポイント程度とみられますが、その多くが7-9月期までに顕在化するとみられます。この分析が正しいとすると、2月における米国の個人消費支出デフレーター上昇率は前年同月比で2.5%でしたので、一連の追加関税措置により、このインフレ指標が7-9月期には4%台半ばまで上昇することになります。私は米国景気についての見方を当レポートの先週号(「グローバル景気・市場についての見方を変更」)で下方修正しましたが、今回の公表された追加関税措置によるインフレ率の上昇が消費者の購買力の低下をもたらすことを考慮すると、4-6月期と7-9月期の米国の成長率は0%台にまでに低下する可能性が高くなります。米国経済が景気後退に陥るリスクは上昇したと言わざるをえません。
今回発表された相互関税措置はグローバル金融市場に大きな動揺をもたらしており、当面は金融市場のボラティリティーが大きくなると見込まれます。金融市場における今回の相互関税措置の市場インパクトをみるうえでは、米国景気への下押し圧力が強まる点と追加関税を課せられた個別国の景気・企業業績見通しが下方修正される点が重要となります。今回の相互関税措置は、米国経済に対しては短期的にインフレ圧力と景気悪化圧力をもたして「スタグフレーション」のリスクを高める一方、米国以外の国には、デフレ圧力と景気悪化圧力をもたらすとみられます。
足元では米10年国債金利が4.06%まで下落し(日本時間で4月3日正午の執筆時点、以下同様)、グローバルにドル安の動きが強まっています。日本では、10年国債金利が1.40%を割っていますが、米国の長期金利の低下幅が日本の長期金利の低下幅を上回っていることで、1ドル=147円台半ばまでの円高ドル安が進行しています。今回の米政権の追加関税措置の影響を世界で最も早く織り込む主要市場となった日本株市場では、日経平均株価が前日比で3%弱下落しています。輸出関連銘柄が、米中景気の悪化や円高を織り込む形で下落しているほか、長期金利の低下によって金融株にも下押し圧力がかかっています。他のアジア市場では、現時点(日本時間で4月3日正午)では、中国と並んで非常に高水準の追加関税措置が課されることになったベトナム株の下落幅が大きい状況です。これは、グローバルにみて対米貿易黒字がGDPに占める割合の大きさが、年初来の株価を左右する状況下、ベトナム株については、米国向け輸出に対する経済のエクスポージャーが非常に大きいにもかかわらず株価が強めの動きをしてきたためと思われます(図表4)。
今後については、①追加関税を課されることになった各国・地域の政府による報復措置、②今回の米国による追加関税措置に含まれなかった一部品目(薬品、半導体など)についての追加関税の動向、➂米国と貿易相手国による、追加関税軽減のための「ディール」の動向―に注目したいと思います。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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