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以上の動きを受けて、グローバル金融市場の動揺が続いています。投資家はリスク回避的な行動を強めており、S&P500種指数は2月19日につけたピークから、3月11日までの間に9.3%下落しました。この間のS&P500種指数についてセクター別の動きをみると、景気の弱さを受けて一般消費財・サービスセクターの下落が目立っているほか、もともと高値警戒感が強かったテクノロジーセクターの株価が下がる傾向が続いています(図表2)。米国の中小型株は景気懸念の高まりを受けて、大型株以上に下落してきました(図表3)。その一方、ヘルスケアや生活必需品などデフェンシブ系のセクターの下落幅は限定的でした。
米債券市場では、景気悪化を意識したリスク回避の強まりが長期金利の低下につながっており、10年物米国債金利は、3月11日には4.28%を記録しました。これに呼応する形で、ドルは日欧の主要通貨に対する下落トレンドを継続させています(図表4)。ドルの下落は、ドルの長期金利の低下だけではなく、日欧の独自材料を反映していると考えられます。日本銀行がよりタカ派的なスタンスに変化しているとの市場の期待が円高圧力を生んだと考えられます。その一方、欧州通貨については、中長期的な財政赤字の増加が金融市場で強く意識されるようになったことが欧州通貨高に向けての圧力をもたらしたと思われます。特に重要なのが、ドイツの財政スタンスが積極化する兆しが出てきたことで、ドイツをはじめとする欧州主要国の長期金利が急上昇し、それがユーロ高につながったとみられる点です。2月末の首脳会談でトランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が口論になりましたが、その後の3月4日、ドイツのメルツ次期首相は、ドイツ憲法を改正することで国防および安全保障支出を財政支出の制限から除外する意向を表明しました。メルツ氏は、今後10年で交通やエネルギー網、住宅などの優先分野に投資する5000億ユーロ規模のインフラ基金を設定することで主要政党が合意したとも言明しました。これによってドイツの長期国債金利が急上昇するとともに欧州主要国の長期金利にも波及し、ユーロ高がもたらされました。
グローバル金融市場をみるうえで今後重要なのは、トランプ政権が4月初めに公表するとみられる主要貿易相手国・地域への相互関税措置の詳細です。この点と、足元での米国景気減速懸念が強まりやすくなっている点を踏まえると、今後の1~2カ月は株式市場におけるダウンサイドリスクが顕在化しやすいと考えられます。私は、2月27日発行の当レポートにおいて、「トランプ政権の追加関税に関する米国以外の株式市場における見通しが楽観的過ぎるように思えてならない」との見方をお伝えしました。その後、追加関税に伴う株式市場へのマイナス材料はある程度顕在化したとは思われますが、株価に織り込まれた追加関税の評価はまだ楽観的過ぎると考えられ、引き続き注意が必要です。
ただ、年央にかけては、グローバル金融市場についての不透明感が徐々に後退していくと想定されます。トランプ政権による各国・地域向けの追加関税政策の詳細が4月初旬に明らかになると、金融市場におけるある程度の動揺は避けにくいでしょう。しかし、その後の「ディール」を視野に入れた米国と他国・地域との交渉が進むにつれ、株式市場においてそれを織り込む動きが広がり、不透明感が後退していくとみられます。米国景気については、連邦政府職員の雇用解雇の動きが短期的に景気への下押し圧力になることは避けにくいとみられます。ただ、雇用統計に基づけば、2月末における米国連邦政府全体の雇用者数は300.7万人であり、非農業部門の雇用者数全体の1.9%に過ぎませんでした。また、非農業部門の1月における求人数は774.0万人と、2022年の初めから続く求人数の減少トレンドには歯止めがかかりつつあります。さらに、ISMサービス業指数中の雇用サブ指数は、2月に53.9ポイントを記録しましたが、これは2021年12月以来の高い水準でした。これらの統計は、米国の労働市場がまだ比較的タイトであることを示唆しています。トランプ政権が実施する諸政策による動揺が落ち着いてくれば、景気は拡大トレンドに戻り、株価の回復につながっていくと見込まれます。
木下 智夫
グローバル・マーケット・ ストラテジスト
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