日本の伝統的発酵食品からの分離は世界初

2023年10月18日
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学

紀州なれ寿司からビフィズス菌を分離することに成功 日本の伝統的発酵食品からの分離は世界初

【本研究のポイント】
・約800年以上の歴史がある和歌山県の「紀州なれ寿司」を発酵する微生物の種類を解明
・熟成が進んだ「紀州なれ寿司」にビフィズス菌の生育を確認
・ビフィズス菌(Bifidobacterium pyschroaerophilum)の分離に成功
・分離したビフィズス菌を用いてヨーグルトとチーズの試作に成功
・日本の伝統的発酵食品からのビフィズス菌の分離は世界初

【研究概要】
 なれずしは日本全国に見られる自然発酵の寿司で、現在の寿司の原形といわれています。和歌山県の「紀州なれ寿司」は日本三大なれ寿司の一つといわれ、約800年以上の歴史があります。紀州なれ寿司は、サバを開き、1ヶ月以上塩漬けにした後、一晩水で塩を抜き、これを飯にのせ、葉(ダンチク)で巻き、樽に詰めて重石をして発酵されます。発酵日数は一週間前後が一般的です。
 東海国立大学機構 岐阜大学では、明治時代からなれ寿司を生産している、和歌山市の「弥助寿司」から、なれ寿司を入手し、発酵過程で中心となる微生物を分析しました。その結果、多様な乳酸菌が発酵に貢献していることを明らかにし、学術論文として発表しています(文献)。さらに、その多様な乳酸菌の中に、ビフィズス菌(注1)が含まれていることを確認しました。これまでに、ビフィズス菌が日本の伝統的自然発酵食品に存在するという報告はなく、分離された例はありませんでした。そこで、ビフィズス菌の分離に挑戦しましたが、ビフィズス菌は、他の乳酸菌と混在しており、分離は困難でした。そのため、ビフィズス菌だけを生育させるために、生育条件(温度、空気量、生育時間)を検討し、栄養源(糖やアミノ酸)の種類を変える等して10000件以上の検体を検査しました。その結果、ビフィズス菌の分離に成功し、Bifidobacterium pyschroaerophilumであることを遺伝子解析から明らかにし、Bifidobacterium pyschroaerophilum Yasuke株と名付けました。
  今後、本研究で分離したYasuke株が、日本の伝統食品を由来とするビフィズス菌を用いたジャパンブランドの発酵乳製品開発に利用されることが期待されます。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202310181274-O1-Izd1IbNU

【研究者コメント】岐阜大学応用生物科学部 教授 岩橋 均 
 ヨーロッパをブランドとしてきたウイスキーやワインは、現在ではジャパンブランドとして世界に認められています。将来、日本固有のビフィズス菌を利用したチーズなどの発酵乳製品が、ジャパンブランドとして世界に広まっていくことが期待されます。そして、今回分離したビフィズス菌Yasuke株は、ジャパンブランドの根拠となり、文化的な側面でも大きく貢献します。既に当研究室では、Yasuke株を用いて、ヨーグルトとチーズの試作に成功しています 。今後、Yasuke株を利用した多様な発酵乳製品の開発が期待されます。

 尚、本研究で分離されたBifidobacterium pyschroaerophilum Yasuke株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構・バイオテクノロジーセンター(NBRC)から、寄託が承認されています。NBRC株として、誰でも入手することが可能です。

【文献】
Miki Kubo, Ryo Niwa, Tomoki Ohno, Hitoshi Iwahashi
Variations in fungal and bacterial microbiome and chemical composition among fermenting Kishu-Narezushi batches.
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 86, 2022, 1705–1717, https://doi.org/10.1093/bbb/zbac165

【用語解説】
注1)ビフィズス菌:
乳酸菌の一種で、主に人間や動物の腸内に存在する代表的な善玉菌で、整腸作用だけではなく、病原菌の感染や腐敗物を生成する菌の増殖を抑える効果があると考えられています(厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト)。主に、ヒトや動物の腸管から分離されたものが、乳飲料に使われています。

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 紀州なれ寿司からビフィズス菌を分離することに成功