- 週間ランキング
国立大学法人東海国立大学機構 岐阜大学
生体分子モーターによって駆動される分子シャトル運動における
理論予測と実験結果の不一致の理由を解明
細胞内には力発生や物質輸送を担う分子機械(生体分子モーター(注1))が存在します。近年、この生体分子モーターを細胞外に取り出して、工学利用することが目指されています。なかでも生体分子モーターによって駆動される分子シャトルは、マイクロスケールでの物質輸送や計算などに応用することが試みられています。岐阜大学工学部の新田高洋准教授、工学研究科のMay Sweetさん、Samuel Macharia Kang’iriさんらの研究グループは、この分子シャトル運動における従来の理論予測と実験結果との不一致の原因を解明しました。
本研究成果は、2022年2月23日(水)(日本時間)にScientific Reports誌のオンライン版で発表されました。
【発表のポイント】
・生体分子モーターは細胞内で力発生や物質輸送を担う分子スケールの機械である。この生体分子モーターを細胞外に取り出して分子シャトルを構成し、物質輸送や計算などに応用することが試みられている。
・分子シャトルの運動特性は物質輸送や計算の効率を左右するが、その理論予測と実験結果との間には約50倍程度もの不一致がある。
・本研究は、シミュレーションを用いて、分子シャトル運動についての理論予測と実験結果との間の不一致の原因を明らかにした。
・本研究から得られた知見は、分子シャトルを利用したデバイスの設計に役立ち、高性能なデバイスの開発に寄与することが期待される。
【研究背景】
生体分子モーター・キネシンは細胞内に存在する分子スケールの機械で、同じく細胞内に存在するタンパク質フィラメントである微小管の上を、人が二足歩行するように運動します。このキネシンと微小管を細胞外に取り出して、分子シャトルをつくることができます(図1)。この分子シャトルを利用することで物質輸送や計算を行わせることが試みられています。これらのデバイスの性能を左右する重要な因子は、分子シャトルの運動方向の揺らぎです。この方向揺らぎについての理論予測が行われていますが、実験による測定結果と50倍程度の違いがあります。そこで本研究では、シミュレーションを用いて、この不一致の原因を調べました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202202227659-O5-j26EQ5w7】
図1 分子シャトルの概念図
【研究成果】
シミュレーションにより、外力下での分子シャトル運動を再現しました(図2)。分子シャトルの各部分の方向揺らぎを計測すると、両端から1~2μm程度の部分が大きく揺らいでいることがわかりました(図3)。これは微小管上でのキネシンの結合間隔よりも長く、キネシンが結合している微小管部分も揺らいでいることを示しています(図4)。このことは従来の理論の仮定とは異なり、分子シャトルの運動方向を考慮する際にキネシンの柔軟性を無視できないことを示しています。本研究により、理論予測と実験結果の不一致は、理論では考慮されていなかった生体分子モーター・キネシンの柔軟性を考慮することにより解決できることを示しました。
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202202227659-O6-cQIP2Kt2】
図2 外力下での分子シャトル運動のシミュレーション
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202202227659-O7-2XkxQV6n】
図3 分子シャトルの角度揺らぎ
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202202227659-O8-q09yC11Y】
図4 分子シャトル運動の模式図
【今後の展開】
本研究により、分子シャトル運動の詳細なメカニズムが明らかとなりました。これにより、分子シャトル運動のより正確な予測や制御を可能にし、生体分子モーターを利用したデバイスの開発に寄与することが期待できます。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
タイトル:Linking path and filament persistence lengths of microtubules gliding over kinesin
著者:May Sweet, Samuel Macharia Kang’iri &Takahiro Nitta
DOI番号:10.1038/s41598-022-06941-x
論文公開URL:www.nature.com/articles/s41598-022-06941-x
【用語解説】
(注1)生体分子モーター:
生体内に存在するタンパク質の一種で、筋肉の収縮などを担うミオシン、細胞内物質輸送などを担うキネシンなどがある。アデノシン三リン酸という物質を分解するときに得られるエネルギーを利用して、力発生や運動を行う。
【研究者情報】
新田高洋(にった たかひろ):論文責任著者
岐阜大学工学部電気電子・情報工学科応用物理コース 准教授
May Sweet (メイ スイート):論文筆頭著者
岐阜大学大学院工学研究科
Samuel Macharia Kang’iri (サミュエル マシャリア カンギリ)
岐阜大学大学院工学研究科