2月4日の「世界対がんデー」に向けてSDGs NewsLetter Vol.03を発信します。

2022年1月25日発行
東洋大学

東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.03
東洋大学は“知の拠点”として地球社会の未来へ貢献します

国や地域を問わずに提供できる
がん幹細胞を標的とした次世代がん予防法

 
 本ニュースレターでは、東洋大学が未来を見据えて、社会に貢献するべく取り組んでいる研究や活動についてお伝えします。
 今回は、食環境科学部食環境科学科の矢野友啓教授に、最新の発がん理論に基づく食品由来成分を活用したがん予防法や自然免疫の可能性について、お伺いしました。

 
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食環境科学部 食環境科学科
教授 矢野友啓

Point
1.最新理論に基づくがん予防・治療の3本の矢
2.コロナ禍で注目の自然免疫を高めるために
3.身近な食品由来成分ならではの可能性
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最新理論に基づくがん予防・治療の3本の矢
世界中でがんの治療法や予防法が研究され、さまざまな方法論があるなかで、先生は食品由来の機能性成分に注目されています。

 がん発生要因の3分の1は食品とされています。栄養疫学調査でも、高脂肪食や高たんぱく食は大腸がん、すい臓がん、乳がんなどの発生を促進することが示されていますし、日本人の食の欧米化との間にも相関関係が認められています。これらのことから、食は、がんの発生だけでなく、抑制にも関与するだろうと考えました。
 すでに実験室レベルでは食品由来成分の有効性が確認されていますので、詳しい機序も含めて明らかにすべく取り組んでいます。もちろん、特定の食品でがんが治るわけではありません。ただ、がん発生要因の3分の1を占める喫煙については、米国国立衛生研究所(NIH)の調査で、喫煙者に顕著に不足するビタミンEなどの栄養素をサプリメントで補うことで発がんリスクを低減できることが明らかにされています。これと同様に、食生活の不均衡による発がんリスクは食品由来成分の活用で低減できると考えています。また、食品由来成分であれば安全性が高く、抗がん剤の副作用を軽減させ、がん治療患者さんのQOL(生活の質)を向上できる可能性もあります。

食品由来成分はどのように、がんに作用するのでしょうか。

 最新のがん研究では、がん細胞にも多様な細胞に分化する「がん幹細胞」があることが分かっています。正常な幹細胞は外部刺激を受けて骨になったり臓器になったりしますが、がん幹細胞は不均一ながん組織を形成します。また、がん幹細胞はがん細胞の深い部分に分化しない状態で存在し、手術や抗がん剤治療などでがん細胞を除去しても取り切れないことがあり、それが後に分化・増殖することで再発すると考えられています。
そこで、我々は前立腺がんのがん幹細胞を標的に予防・治療法の「3本の矢」を研究しています。
 第1の矢は、がん幹細胞の低酸素適応に関与する転写因子HIF
(※1)の抑制。がん幹細胞は細胞の深い部分ならではの低酸素状態に強いのですが、HIFを抑制すると低酸素下で生き延びることが難しくなります。当研究室では世界に先駆けて、ビタミンEの一種であるデルタトコトリエノールにHIF抑制作用があることを見いだしました。
 第2の矢は、がん細胞の分化を促進して抗がん剤への耐性を下げる方法。我々は、大豆由来成分を使って前立腺がん幹細胞を分化誘導し、抗がん成分に対する感受性を上げることに成功しました。
 第3の矢は、人体に備わっている自然免疫の主役であるNK細胞(※2)の攻撃力の増強です。

 
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コロナ禍で注目の自然免疫を高めるために
免疫やNK細胞はコロナ禍で注目され、よく耳にしましたが、がんとどういった関係があるのでしょうか。

 NK細胞は、がん細胞やコロナウイルスに感染した細胞を異物として認識し、速やかに殺すことが分かっています。数年前まで、NK細胞はがん細胞全般を攻撃すると思われていました。ところが、乳がんを対象にしたとある研究報告では、通常のがん細胞よりも未分化の幹細胞を選択的に攻撃排除しているというのです。その文献を目にした我々は前立腺がんでも同様の効果があるのではないかと考え、検証に取り組み、その結果、前立腺がんにおいてもNK細胞が選択的にがん幹細胞を攻撃することを見いだしました。
 この自然免疫の力をがん治療や予防に生かしたいと考えています。カギになるのはNK細胞の活性化で、世界中の研究者が睡眠やストレスなど、さまざまな観点からNK細胞活性化の研究を進めています。我々は食品由来成分に注目し、ビタミンCやビタミンD、ビタミンAには何らかの関わりがあると見ています。ただ、治療や予防の観点で言えば、何か特定の栄養素だけで解決できるわけではなく、バランスの良い食生活はもとより、睡眠やストレスなども考慮しながら考えていくことが重要でしょう。

身近な食品由来成分ならではの可能性
科学の進展で、がんに対する認識や私たちの意識も大きく変わってきました。

 治らないがんが依然としてあります。当研究室では、低酸素適応に関与する転写因子HIF(※1)の抑制、がん幹細胞の分化誘導による抗がん成分への感受性増大、そして、NK細胞(※2)活性化によるがん幹細胞への攻撃力増大という三つのアプローチを通して、がんを100%コントロールできる時代の実現に貢献したいと考えています。どの予防・治療法が適しているかはがん種や症状などによって異なると思いますが、一番可能性を感じているのがNK細胞です。特定の食品にしか含まれない成分となると、国や地域によっては確保が難しいのですが、自然免疫は誰にでも備わっているものですから、その力を引き出すことができれば、世界中の人々が恩恵に預かれます。
 コロナ禍では国によるワクチン調達力の差が問題になりました。NK細胞の研究によって自然免疫を生かすことができれば、途上国の感染拡大リスクを低減し、健康増進に貢献できる可能性があります。NK細胞はそれだけすそ野が広い研究テーマだと思っています。
※1 低酸素誘導性因子(hypoxia-inducible factor:HIF) 
※2 ナチュラルキラー(natural killer)細胞

 
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▲写真右:矢野教授とともに研究を行う関大河さん
(食環境科学研究科 食環境科学専攻 博士前期課程2年)

 
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矢野 友啓(やの ともひろ)
東洋大学 食環境科学部食環境科学科 教授

専門分野:医療系薬学、病態医科学、生活科学
研究キーワード:がん予防・治療法の構築、分子病態解析、食理学

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TOYO SDGs News Letter 
https://www.toyo.ac.jp/sdgs/

情報提供元: PRワイヤー
記事名:「 国や地域を問わずに提供できる がん幹細胞を標的とした次世代がん予防【東洋大学 SDGs NewsLetter Vol.03】