本研究成果のポイント ・糖尿病を悪化する悪玉“セレノプロテインP”を低下させる新規RNAを発見しました。 ・新規RNAは、セレノプロテインPタンパク質を低下させる活性を持つことから、L-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)と命名しました。 ・L-ISTを増加させる食品由来成分として、緑茶に含まれるエピガロカテキンガレートを同定しました。
概要 私たちが着目している“セレノプロテインP”は、体にとって必要なタンパク質ですが、増えすぎるとインスリンの効果を弱めて血糖値を増加させる作用があることから、糖尿病で増加するセレノプロテインPは病態を悪化する“悪玉”であることが分かっています。そのため、セレノプロテインPを一定に保つことが健康を維持する上で重要と考えられます。同志社大学生命医科学部の三田雄一郎助教、同大学院生命医科学研究科の野口範子教授と東北大学大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授のグループは、セレノプロテインPと似た構造を持つ機能未知の遺伝子CCDC152を発見しました。本研究から、CCDC152遺伝子はRNAとして作用し、セレノプロテインPタンパク質を下げる機能を持つことが明らかとなりました。この機能から、CCDC152をL-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)と命名しました。さらに、糖尿病予防効果が知られている緑茶成分エピガロカテキンガレートがL-ISTを増加させ、セレノプロテインPを下げる作用があることが分かりました。今後、L-ISTを増加させることにより、生活習慣病を予防・治療する新たな戦略開発が期待されます。 本研究は、文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(A)や新学術領域(生命金属科学)、AMED 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業により実施しました。この研究成果は、日本時間の2021年6月18日(金)午前9時5分に英国科学誌『Nucleic Acids Research』にオンライン掲載されました。
研究の概要 同志社大学生命医科学部の三田雄一郎助教、同大学院生命医科学研究科の野口範子教授、東北大学大学院薬学研究科の斎藤芳郎教授らの研究グループは、SeP遺伝子の配列についてデーターベースを用いて解析した結果、SePと似た構造を持つ遺伝子CCDC152を発見しました。CCDC152遺伝子は、その存在は知られていましたが、その機能は知られていませんでした。CCDC152遺伝子の機能について調べるため、SePを発現する肝臓由来HepG2細胞への作用を解析しました。HepG2細胞にCCDC152遺伝子を発現させた結果、SeP mRNA量は変化しませんでしたが、SePタンパク質の発現量を減少させることが分かりました。SePタンパク質を低下するメカニズムを詳細に解析した結果、CCDC152はRNAとして作用し、SeP mRNAに結合して、SePタンパク質の合成を抑制することが分かりました。これらの結果から、CCDC152遺伝子はSePタンパク質の合成(翻訳)を抑制するRNA分子として機能するため、L-IST(Long Non-coding RNA-Inhibitor of Selenoprotein P Translation)と命名しました。最後に、L-ISTを増加させる化合物を探したところ、緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCg)がL-ISTを増加させる作用があり、SePタンパク質を低下する作用があることが分かりました。
【論文題目】 Title: Identification of a Novel Endogenous Long Non-coding RNA that Inhibits Selenoprotein P Translation Authors: Y Mita, R Uchida, S Yasuhara, K Kishi, T Hoshi, Y Matsuo, T Yokooji, Y Shirakawa, T Toyama, Y Urano, T Inada, N Noguchi, and Y Saito Journal: Nucleic Acids Research DOI: 10.1093/nar/gkab498