「人生最大の買い物」とも言われるマイホームですが、さまざまな事情から売却という選択をすることもあるでしょう。また、売却を考えていない人でも、
「いま自分の家はいくらくらいで売れるのだろう」
と調べてみたくなることもあります。
そんなときに、一見、便利に思えるのが「不動産一括査定サイト」です。無料で利用できる上に、一度に複数の不動産会社の査定を受けることができます。
ですが、利用する上で注意していただきたいこともあります。今回は、不動産一括査定サービスの注意点と上手な使い方をお伝えします。
注意1 査定額と実際に売れる価格は違う
家を売りたいと考える人がいちばん気になるのは、やはり「いくらで売れるのか」ということでしょう。大切な家を売るのであれば「できるだけ高く売りたい」と考えるのは当然のことです。
そんなときに便利に思えるのが「不動産一括査定サイト」です。無料で利用できる上に、一度に複数の不動産会社の査定を受けることができます。
「だったら、一括査定サイトで複数の不動産会社に査定してもらい、最も高い査定額を出した会社に売却を依頼すればいい…」
そう考えた人は、ちょっと待ってください。大切なことを見落としてしまっています。
それは
「査定額はあくまでも査定額であり、実際に売却できる額とは違う」
ということです。
もしあなたが不動産会社の担当者だったら、たくさんのライバルの中から自社を選んでもらうためにはどうしたらいいと思いますか?
やはり、まずは「他社より高い査定額を出すこと」を考えるのではないでしょうか?
できるだけ高い査定額を出してほしいと考えるのは人間の心理として当然ですが、査定額と実際に売れる価格は違うということを忘れないでください。
注意2 「査定」は不動産会社の営業活動でもある
家を売りたい人は、不動産会社の査定を受けて、いちばん高く売ってくれそうな会社と契約することでしょう。そう考えると、「査定」は不動産会社の営業活動でもあると言えます。
ですから、できるだけ高い査定額(もちろん相場からあまりかけ離れ過ぎない範囲で)を出して契約を取ろうとするのは当然の行動ではないでしょうか。
一括査定サイトの場合であれば、すでにライバルがいることが明らかなので、そうした傾向が強くなるという側面があることは否定できません。
中には、契約を取るために、「少々の無理」がある査定額を出してしまうケースがあるかもしれません。
もしも相場よりも高い価格で家を売りに出したらどうなるか
買い手は当然、「少しでも安く買いたい」と考えていますから、普通に考えれば買い手はつきませんね。その場合、通常は販売価格を下げることになります。
それでも売れなければ、また販売価格を下げて…を繰り返し、結局は、相場通りの「適正価格」に落ち着くことになります。
売り主からすれば、期待した価格で売れない上に、売却できるまでに無駄な時間を過ごさなければならないことにもなってしまいます。
注意3 「囲い込み」に要注意
ここが一番大切なところですが、もしかしたら不動産業者による「囲い込み」にあってしまうかもしれない、ということです。
以前の記事でお話ししたことがあるので、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、改めて「囲い込み」についてご説明しておきましょう。
売買取引を仲介する不動産業者の収入は、売買契約が成立した際に支払われる仲介手数料です。たとえば、不動産業者であるA社がマンション売却の依頼を受けた場合を考えてみましょう。
A社は、不動産流通機構が運営する「レインズ」というネットワーク・システムに物件情報を登録して、買い主が現れるのを待ちます。
レインズとは、不動産会社が物件情報を共有するシステムで、ここに物件情報を登録しておけば、別の不動産会社(仮にB社とします)が買い主を連れてきてくれるのです(図1参照)。
図1
ですが、このようにして取引が成立した場合、A社に入ってくるのは売り主からもらう仲介手数料だけです。こうした取引は不動産業界では「片手取引」と呼ばれています。
ビジネスである以上、たくさんの収入があったほうがいいのは当然です。そこで、一部の不動産会社は、自社で買い主を見つけて、売り主と買い主の双方から仲介手数料を受け取る「両手取引」を行おうと考えます。
ですが、少しでも高く売りたい買い主と、少しでも安く買いたい買い主の利益は相反します。
ですから両手取引は、利益を極大化するという企業の論理には合致していますが、「消費者の利益」を考えた場合、問題があると言わざるを得ません。
そして、この「両手取引」を実現するために、非常に残念なことなのですが、一部の不動産会社がやっていること、それが「囲い込み」です。
この例でいえば、B社が買い主のために問い合わせをしてきても、
「すでに商談中です」
「買い手が決まりそうです」
と言って断ってしまうのです。これが「囲い込み」といわれる不動産業界独特の商習慣です(図2参照)。
図2
もし、この「囲い込み」にあってしまうと、その売却物件は不動産流通市場から完全に隔離されてしまいます。
これは、売り主にとっては、とてつもない機会損失です。しかも、買い手候補から問い合わせがあったかどうかを売り主が直接知ることはできませんから、もし囲い込まれてしまっても、売り主がそれに気づくことはまずないでしょう。
不動産業者が「売り物件」を扱いたがる理由
実は、不動産会社にとっては、「売り物件」はとても魅力的なものです。いったん物件を預かってしまえば、極端に言えば、「ただ待っているだけ」で他の不動産業者が買い主を連れてきてくれます。
しかも、倫理的な部分に目をつぶってしまえば、「両手取引」に持ち込んで大きな利益を上げることも可能だからです。
一般消費者は無料で使える一括査定サイトですが、当然、不動産業者は費用を負担して利用しています(一部、大手企業が自社で運営しているサイトもあります)。
そうした費用を負担しても、売り物件を預かることができれば、十分な利益を出せるということでしょう。
一括サイトが不動産会社の負担を増やしてる
ですが、ネット上には、30以上の一括査定サイトがあります。そして、多くの不動産会社(大手が中心です)は、ほとんどすべてのサイトを利用しているようです。
そう考えると、そのコスト負担はバカにならないものではないかと思われます。
一括査定サイトは便利なサービスですが、もしかするとそこでのコスト負担が一部の不動産会社にとって、「両手取引」や「囲い込み」といった商習慣と決別することができない原因の一部になってしまっているとも考えられるのです。
一括査定サイトをどう使えばいいのか?
一括査定サービスは、とても便利ですが、このように注意すべき点があることも事実です。
では、このサービスを上手に活用するにはどうしたらいいのでしょうか。3つのポイントをお伝えしたいと思います。
ポイント1 査定額は参考でしかないと理解する
上でも述べましたが、査定額は、あくまでも「査定」だということを十分に認識しておいてください。
不動産の価格は需給のバランスで決まります。査定額は不動産業者がその値段で買い取る場合を除いては、実際の売却価格とは異なるのです。
査定は不動産会社の営業活動である
売却案件を獲得するために、少々無理がある査定額が提示される場合もあり得ます。
一括査定サイトのなかには「最高価格で売却」といった売り文句を使っているところもありますが、高い査定額を出した不動産業者が、実際に高値で売却を決めてくれる会社だとは限らないのです。
ポイント2 不動産業者からの営業に気をつける
不動産一括査定だけの話ではありませんが、査定を依頼した瞬間から、業者の営業電話が鳴り止まずに困ってしまったという話はよく聞きます。
なかには、電話ではなくメールで査定額を通知してもらえるサービスもあるので、そうしたサービスを選択しましょう。
また、しつこい営業や、強引な営業があるかもしれませんが、自分の意思をはっきり伝えることです。あまりに強引な場合は、一括査定サイトの運営会社に連絡を入れて対応を求めるのも手です。
ポイント3 一般媒介契約を結ぶ
ここが一番大切なポイントです。
不動産の売却を仲介してもらうためには、不動産業者と媒介契約を結ばなければなりません。その形態には、
「一般媒介」
「専任媒介」
「専属専任媒介」
の3つの種類があり、それぞれの違いを図にすると、図3のようになります。
図3
「一般媒介」
「複数の会社に依頼可」という条件は、複数の不動産会社に競争させることで、条件のよい買い主を選ぶことを可能にします。これは売り主にとっては大きなメリットです。
ただし、一般媒介の場合、不動産会社がオンラインで共有しているレインズに物件情報を公開する義務がありません。
また、問い合わせ状況などについて、売り主へ報告する義務もないため、売り主が不動産業者へうながさねばなりません。
「専任媒介」、「専属専任媒介」
レインズへの登録義務がありますが、複数の会社に集客を依頼できないばかりか、「専属専任媒介」では売り主自らが買い手を探すことさえできないのです。
また、どちらの契約も一社に任せることになるため、「囲い込み」などにあう可能性が高くなるということもいえるでしょう。
私がオススメするのは「一般媒介」での契約です
高額な査定額を提示してきた業者には、
「囲い込み」は避けたいので「一般媒介」で契約できますか?
と言えば、業者に釘を刺すこともできます。
ただし、一般媒介契約の場合、レインズへの登録を促したり、報告を求めたりといった手間が必要になるかもしれません。
ですが、大切な資産を守るためには、不動産業者に任せきりにしてしまうのではなく、売り主自ら行動することが重要なのです。(執筆者:大友 健右)
情報提供元: マネーの達人