給与から天引きされている社会保険料・雇用保険料や税金(所得税・住民税)などは、万単位の馬鹿にならない金額となり、これらが引かれることで手取りがずいぶん少なくなります。
しかし天引きされた分が実は会社が滞納していて、倒産までした…なんて考えると働いているほうも心配になりますね。
給与明細など証拠書類の保存はしておくべきですが、過度に不安になることもありません。逆に事業運営している方は気を引き締めてください。
滞納は企業の責任
従業員のほうは、天引きされた時点で納付の責任を果たしたと言えます。企業が滞納したからといって、従業員の健康保険証が取り上げられるようなこともありません。
ただし、控除したということを立証できるのは給与明細ですので、万が一のため保存しておく重要書類と言えます。
逆に事業運営する立場であれば、従業員に対する責任は重くなります。企業が税や保険料を滞納もしくは延滞した場合、延滞金は全て企業が支払うべきものとなりますし、万が一財産の差し押さえをくらうのも企業です。
社会保険・雇用保険は労使で負担しますが
これらの保険に関しては、給与控除分+事業主負担分をまとめて企業が納付します。滞納したからと言って、年金機構やハローワークが個人に直接求償するようなことはありません。
ただし厚生年金に関しては、年金機構側の記録体制の問題で、実務的には年金納付記録へ影響している恐れはあります。
平成19年に施行された厚生年金保険特例法で、従業員が給与明細等の証拠を提出することにより、年金記録脱漏に対して救済されることになりました。
なお、年金機構やハローワークは、個人の記録に関してはいくら払ったかではなく、どの程度賃金をもらっていたか(雇用保険の場合は離職前の決められた期間だけ)の記録を残します。
この記録に基づき、従業員の厚生年金額や失業給付額が決まります。
所得税の源泉徴収制度は企業にとって厳しい制度
税務署の場合、従業員(場合によっては取引先も)より源泉徴収した所得税(源泉所得税)滞納への厳しさは当然ながら、徴収漏れも法人税以上に厳しいと言えます。
源泉所得税や消費税は、他者から預かっているものだからです。
税務調査の際に、源泉所得税の調査も行い、年末調整の資料はこの際に確認されます。ここで誤った年末調整を指摘され、追徴課税される恐れはあります。
また調査以外でもお尋ねがきっかけで年末調整やり直しになることもあります。(参考 「あなたの奥さん、扶養じゃないのでは?」夫の勤務先がなぜわかるのか?)
また個人と請負契約している場合でも実態は雇用契約でないか、といった点も調査されます。
場合によっては労働基準監督署以上に切り込んでくるところで、偽装請負摘発目的で税務署へのタレコミを勧める人もいます。
なぜかといえば請負業者に1か月20万円払ったとしても、講演料などで無ければ源泉所得税を天引きし納付する必要はありませんが、実質雇用契約の偽装請負と判断されれば、20万円の給与に対する源泉所得税を納める必要が出てくるからです。
マイナンバー制度に連動し勤務先の納付責任を強化する方向へ
住民税の特別徴収も源泉徴収と似ていますが、自治体に指示された金額を天引きし納付するだけです。
ただし年末調整後に給与支払報告書を提出する際に、本人による納付(普通徴収)という形にすると報告する企業も多かったのが実情です。
しかし平成27年度以降、法律に則って特別徴収を徹底させる自治体が相次いでいます。
特別徴収も普通徴収も自治体に渡る額は同じですが、給与から天引きさせることで取り損ねを防ぐことや、企業側に納付の責任をもってもらうことを強化しているのです。
さらに厚生労働省や年金機構も社会保険の未加入業者に厳しくなり、加入要件に当てはまる限りは社会保険料の納付も厳しく求められています。
これは、年金保険料収入をあてにする国の事情はもちろんのこと、未加入業者と加入業者間の公正な競争を促す意味合いもあります。
実質利用者負担の例
話は少しそれますが不動産賃貸や宿泊施設で、光熱費や受信料を所有者が支払って賃料や宿泊料に転嫁するのであれば、この場合も実質利用者負担です。
ただ誰が責任をもって光熱費や受信料を相手に支払うのか(債務者の問題)は、遅延損害金や財産差押の問題もあるので、本来いい加減に扱うことはできないはずです。
特に受信料の場合は、放送法で契約義務者が決められていますが、その解釈をめぐっては法廷で係争中です。
最後に
経営者から見れば息苦しさも覚えますが、マイナンバー管理の一環で進んでしまいましたし、納付義務の公平性、また労使関係で見た場合の「弱者=労働者保護」が重要視される時代になりつつあります。
事業運営するなら納付の資金確保し、使い込みを防がないと厳しくなってくるでしょう。(執筆者:石谷 彰彦)
情報提供元: マネーの達人