公的年金が独身税だと思う理由と、負担を軽減する手段(繰上げ受給、複業、業務委託)
少子化対策の財源を確保するため、公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療など)の保険料に上乗せして、2026年4月から子ども・子育て支援金が徴収されます。徴収額は加入する公的医療保険の種類や収入によって変わりますが、加入者1人あたりの平均額は月450円程度になる見込みです。
独身の方は子ども・子育て支援金を負担しても、直接的な恩恵を受けられないので、SNSなどでは独身税という通称で呼ばれています。ただ個人的には公的年金(国民年金、厚生年金保険)の方が独身税だと思う理由や、この負担を軽減する手段は次のようになります。
国民年金の被保険者は3つの種別に分かれる
公的年金の保険料を納付した期間や、保険料の納付を免除された期間などの合計が原則10年以上ある場合、65歳になると国民年金から老齢基礎年金が支給されます。厚生年金保険の加入者にも老齢基礎年金が支給されるのは、厚生年金保険の加入者は一部の方を除き、厚生年金保険と国民年金に同時加入しているからです。
また国民年金の被保険者(加入者)は、保険料の納付方法や職業などによって、次のような3つの種別に分かれます。
【第1号被保険者】
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満のうち、第2号被保険者や第3号被保険者に該当しない自営業者、農業者、無職の方などは第1号被保険者になります。この第1号被保険者だけは他の種別と違って、月1万7,510円(2025年度額)となる国民年金の保険料を、各自が納付書や口座振替などで納付するのです。
【第2号被保険者】
会社員などの厚生年金保険の加入者は、上記のような老齢基礎年金の受給資格期間を満たした65歳以上の方などを除き、20歳未満や60歳以上も含めて第2号被保険者になります。
【第3号被保険者】
年収130万円未満などの所定の要件を満している、20歳以上60歳未満の第2号被保険者の配偶者は、届出によって第3号被保険者になります。
厚生年金保険が独身税だと思う理由
月給から控除される厚生年金保険の保険料は、例えば入社した時に決定しますが、次のように月給の金額で大きく変動します。
・月給が10万円の場合:月8,967円
・月給が20万円の場合:月1万8,300円
・月給が30万円の場合:月2万7,450円
・月給が40万円の場合:月3万7,515円
また厚生年金保険の保険料の一部は、第2号被保険者と第3号被保険者の国民年金の保険料に変わるため、これらの方は直接的に国民年金の保険料を納付する必要はありません。こういった仕組みのため、配偶者が第3号被保険者に該当する厚生年金保険の加入者は、1人分の厚生年金保険の保険料を納付すると、2人分の老齢基礎年金を受給できるのです。
一方で独身の厚生年金保険の加入者は、配偶者が第3号被保険者の方と同額の保険料を納付しても、1人分の老齢基礎年金しか受給できないため、保険料の対価が少ないのです。事業主が申出書を年金事務所に提出すると、厚生年金保険の保険料の納付が免除される、次のような2つの免除制度があります。
(A)産前産後休業期間中の保険料免除制度
出産の日(出産の日が出産の予定日後の時は出産予定日)以前42日から出産の日後56日までの間で、妊娠または出産を理由として労務に従事しなかった期間を対象にした免除制度です。
(B)育児休業等期間中の保険料免除制度
満3歳未満の子を養育するための、育児休業等期間を対象にした免除制度です。これらの免除を受けた期間は、厚生年金保険の保険料を納付したという取り扱いになります。また財源は厚生年金保険の保険料になるため、これらの免除の恩恵を受けられない独身の方は、財源のための保険料を負担するだけなのです。
こういった点や上記のように保険料の対価が少ない点から考えると、独身の方は直接的な恩恵がない制度のために保険料を余計に負担しているので、厚生年金保険は独身税だと思うのです。
国民年金が独身税だと思う理由
国民年金も2019年4月から産前産後期間の免除制度が始まったので、第1号被保険者は届出によって、出産予定日または出産日が属する月の前月から4か月間の保険料の納付が免除されます。この免除を受けた期間は厚生年金保険と同じように、保険料を納付したという取り扱いになります。
また産前産後期間の免除制度の財源に充てるため、制度の開始時に国民年金の保険料が月100円ほど引き上げされています。そのため第3号被保険者という制度がない国民年金も、産前産後期間の免除制度の恩恵を受けられない場合は独身税だと思うのです。
負担した保険料を多く取り戻せる「繰上げ受給」
2023年の日本人の平均寿命は、男性が81.09歳、女性が87.14歳になるため、高水準を維持しています。ただインターネットで検索してみると、日本人の独身男性の平均寿命は約67歳というデータがいくつも見つかるため、特に男性は独身だと寿命が短くなる傾向があります。
そのため独身男性が年金を繰上げ受給すると、65歳から受給した時よりも負担した保険料を多く取り戻せる可能性があるため、繰上げ受給は公的年金という独身税の負担を軽減する手段なのです。繰上げ受給した時の1月あたりの減額率は0.5%でしたが、誕生日が1962年4月2日以降の方は、法改正によって0.4%になりました。
これにより60歳まで繰上げ受給した時の減額率は、30%(0.5%×12月×5年)から24%(0.4%×12月×5年)に低下したので、以前より不利ではないのです。
厚生年金保険に加入しないようにする「複業・業務委託」
国民年金の加入上限は60歳、厚生年金保険の加入上限は70歳になるため、後者の方が10年ほど加入する期間が長いのです。また公的年金に長く加入するほど負担する保険料が増えるため、60歳以降は厚生年金保険に加入しないようにする次のような2つの手段は、公的年金という独身税の負担を軽減するのです。
2024年10月以降は次のような5つの要件をすべて満たすと、加入上限の70歳まで厚生年金保険に加入する必要があります。
(1)労働時間が週20時間以上
(2)賃金月額が8万8,000円(年収だと約106万円)以上
(3) 2か月を超えて働く予定がある
(4)学生ではない
(5)従業員が51人以上の会社などに勤務している
今後の法改正によって(2)と(5)は撤廃される見込みなので、将来的には(1)の週20時間以上がポイントになりそうです。この週20時間以上というのは1つの会社での労働時間になるため、週20時間未満の労働を複数の会社で実施する複業であれば、厚生年金保険に加入しないのです。
今のところは週20時間未満だと雇用保険にも加入しませんが、2028年10月からは労働時間が週10時間以上などの要件を満たすと、雇用保険に加入するようになります。また会社に雇用されないで働く業務委託なども、一般的には労働時間の長短にかかわらず、厚生年金保険に加入しないのです。
ただ労災保険や雇用保険に加入できなくなったり、労働基準法の保護を受けられなくなったりする点には、注意する必要があります。
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