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株投資で10万円をいかに増やせるか? 実際にやってみました~第3回~
ここで、内部統制を説明する前に、PBRについて再度触れてみます。
PBR(Price Book-Value Ratioの略称)は、株価純資産倍率のことで、株価水準を測定する重要な指標です。
この計算式は、会社が保有している純資産額を発行株式総数で割り1株当たりの純資産額と株価を比べた投資尺度のことです。
純資産額とは、会社が株主から集めたお金(資本)や営業活動によって得た利益などの合計額のことです。
株価は1株当たりの価格なので、純資産額も1株当たりで求めます。
PBRが1倍ということは、仮に企業が解散する際、借入金や買掛金などの負債を債権者に返済してもなお財産(純資産)が残っている場合、株主は、その財産を持ち株数に応じて分配を受ける権利があります。
ただし、株主は債権者とならないので、企業の解散によって財産が残らなければ投資したお金は戻ってこないリスクはあります。
例えば、現在の株価が150円、1株当たりの純資産額が200円の場合、PBRは0.75倍(150円÷200円)となります。
つまり、現在の株価は、株式市場において企業価値以下の水準で取引されている状況です。
この銘柄は割安株と呼ばれ、絶好の投資対象と言われますが、その一方で、これに該当する上場企業は株式市場において上場する価値が問われることになります。
この状況において、東京証券取引所(東証)は、今回上場維持基準の一つとしてPBR1倍割れを改善するための経営努力も上場企業に求めています。
経営の土台は、ガバナンスと内部統制ですが、この2つは相互に関連しています。
ここでは「内部統制」という聞き慣れない言葉がでてきますが、企業が上場するために必要な審査基準の一つでもありますので、その内容にフォーカスして説明をしていきます。
内部統制とは、例えば、内部統制をPCやスマホに例えた場合、それらはハードウェアとソフトウェア(OSやアプリ等)の両方がないと動きません。
企業においても、事業活動を行うためには、人や部門などの組織としての「ハード」とそれを動かすための規程や手続きなどのルールとしての「ソフト」の両面が必要となります。
このように、内部統制は、すべての企業や国・地方の役所などその規模に関わらず存在しますが、それは、ただ存在しているだけでなく、いかに「正しく機能しているか」が最も重要となります。
内部統制が正しく機能しているかをチェックするためには、
・ 統制環境
・ リスクの評価
・ 統制活動
・ 情報と伝達
・ 監視活動
これら5つの要素を用いて評価するのが一般的ですが、ここでは、過去または最近の事例を基に、考えられる内部統制上の不備について以下に挙げていきます。ここで紹介する企業はいずれも非上場の会社です。
主な事例:中古車の修理代を故意に破損を加え保険会社に保険金を不正請求していた件
すべての要素において内部統制が機能していないと考えられますが、最も問題がある要素は、「売上・利益を最優先する企業風土のため特に経営層が非合法的な行為も厭わないほどの目標を設定している」ことです。
内部統制上の最高責任者は社長であり経営層なので、「部下がやったことで、社長は知らなかった」は通用しません。
この会社は、まるで言論の自由がない何処かの北の国のように統制機能が「重大な欠陥」と評価せざるをえず、企業の存在価値そのものが疑われます。
主な事例:新入社員が上司から長時間残業を強いられ過労により自殺した件
内部統制上の問題がある要素は、コンプライアンス遵守の認識が低い企業風土であること、労働時間管理についてのガイドラインや手続き等の仕組みが形骸化していること、人事部門や内部監査部門などの監視活動も不十分などの要素が考えられます。
この企業は、パワハラ問題の他にも東京五輪・パラリンピックに関する汚職事件にも関わるなどの不祥事も起こしています。
また、広告という現代的でクリエイティブなイメージとかけ離れた旧態依然とした企業体質が見て取れます。
企業不祥事は、どこの企業にも大なり小なり起こりうることです。
問題発覚後は、自浄作用を働かせ、いかに早く内部統制の不備を改善する体制を構築して確実に実行していくことが問われます。
内部統制が正しく機能しているかについては、単に事業活動だけでなく、企業の社会貢献活動にも大きく関わってきます。
実際、投資家はこれらの環境問題や人権問題に取り組む企業を投資先として選ぶ際の判断基準としています。
企業の目的は利益を追求していくことですが、2000年以降には、株主・従業員・消費者・取引先・地域住民等を含めた利害関係者(ステークホルダー)などの利益にも配慮した企業活動が求められてきています。
その一つが、CSRと呼ばれる企業の社会的責任で、主に社会貢献活動や環境問題への取り組みを重視した活動です。
また、この発展したかたちがESGやSDGsです。
まず、ESG(Environment・Social・Governanceの略称)は、環境・社会・ガバナンス(企業統治)の文字を合わせた用語で、企業が継続して成長していくために必要な要素という考え方です。
SDGsは、「持続可能な開発目標」というテーマで、世界中のすべての人が持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標で、ジェンダー平等の達成、生産的で完全な雇用の促進、不平等の是正、自然環境の維持と保護など17個の具体的な開発目標を挙げています。
この取り組みは、今や世界的規模になっており、日本においても、企業だけでなく国や自治体にも広がっています。
まず、PBR1倍割れの対策については、内部統制が機能していることが最低条件ですが、その上で、上場企業が求められている主な改善策を以下に挙げてみます。
株主還元には、自社株買、増配などの方法があります。
自社株買いについては、発行済株式数が減るため1株当たりの利益が上昇するのでそれを好感して株価上昇が期待できます。
また、増配は1株当たりの配当金が増額されるのでこれも株価を押し上げる効果が期待できます。
ここでは、技術的な株価対策ではなく、経営の意識改革や投資家向けの企業情報の開示などの経営努力や改善に向けた具体的な取り組みが経営者に求められています。
例えば、銀行からの借入金や社債発行に伴う支払利息および株主への配当金などの資本コストや自社の株価に対する意識が不足している上場会社に対しては、資本コストや株価に対する意識改革の必要性を挙げています。
会社経営を監視する仕組みのコーポレートガバナンスについては、指名委員会や報酬員会などの委員会を設置している会社は多いけれど、中身が形式的で不十分な企業も多く、委員会の活動状況の開示や改善を求めるとしています。
また、国内外のステークホルダーに対する企業情報の開示に消極的な企業が散見されることから、広報活動については、会社説明会や対話の実施、海外向けには英文で開示する書類の作成などの積極的な実施が求められています。
ここまで、PBR1倍割れの上場会社が改善すべき事柄について述べてきましたが、経営の土台にあるのは内部統制です。
究極的な言い方をすれば、その企業で働く社員が幸福感を持てない会社は、内部統制が機能していない証拠です。
したがって、内部統制が正しく機能していれば、その企業は魅力的な会社として評価されPBR1倍割れの改善も大いに期待できるはずです。(執筆者:CFP、1級FP技能士 小林 仁志)
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