公的年金(国民年金、厚生年金保険)の一種として、国民年金から65歳になると支給される老齢基礎年金があります。

この老齢基礎年金を受給するためには、

  • 公的年金の保険料を納付した期間、
  • 国民年金の保険料の納付を免除(納付猶予、学生納付特例も含む)された期間

などの合計が、原則として10年以上必要になります。

各人に支給される老齢基礎年金は、公的年金の保険料を納付した月数などを元にして算出しますが、20~60歳までの40年間について、すべてが公的年金の保険料を納付した期間であれば、満額を受給できるのです。

公的年金は新年度が始まる4月に、賃金や物価の上昇率(下降率)を元にして、支給額を改定しているため、老齢基礎年金の満額は年度ごとに、金額が変わる場合が多いのです。

また2004年にマクロ経済スライドが導入されてからは、賃金や物価の上昇率から、スライド調整率(現役人口の減少と平均余命の伸びを元にして算出)を控除するため、インフレ時には年金の実質的な価値が下がります

2022年度の老齢基礎年金の満額は、前年度よりも259円減って、77万7,800円(月額にすると6万4,816円)になりました。

この2022年度の満額を元にして、公的年金の保険料を1か月未納にした時に、減額する老齢基礎年金を算出してみると、次のような金額になります。

77万7,800円÷480(20~60歳までの40年間の月数)=1,620円

逆に言えば20~60歳までの間に、公的年金の保険料を1か月納付すると、老齢基礎年金は1,620円くらい増えていくのです。

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国民年金の納付期間を5年延長する背景

国民年金に強制加入して、保険料(2022年度は月1万6,590円)を納付する必要があるのは、20~60歳までの40年間になります。

この40年間を5年延長し、20~65歳までの45年間にする改正法案

が、SNSなどで話題になっております。

新聞などの報道によると、政府は2024年までに結論を出し、2025年の通常国会に改正法案を提出したいようです。

SNSなどで問題にされているのは延長によって、国民年金の保険料の負担が99万5,400円(月1万6,590円×12か月×5年)くらい、増えてしまう点です。

一方で老齢基礎年金の満額は、9万7,200円(1,620円×12か月×5年)増えて、87万5,000円くらいになると推測されます。

政府がこのような改正法案を検討しているのは、スライド調整率による控除を続けていくと、2046年度には老齢基礎年金の給付水準が、2019年度より3割くらい下がるという試算があるからのようです。

つまり老齢基礎年金の給付水準の低下を防ぐために、国民年金の保険料を納付する期間を、5年延長するというわけです。

60~65歳までの間に利用できる任意加入と繰上げ受給

国民年金の保険料の未納を続けてきたため、原則10年となる老齢基礎年金の受給資格期間を、満たせない場合があります。

また20~60歳までの間に、公的年金の保険料の未納期間や、国民年金の保険料の納付を免除された期間などがあるため、満額の老齢基礎年金を受給できない場合があります。

こういった状態にある方のために、60~65歳まで国民年金に任意加入できる制度があります。

この制度を利用して国民年金に加入し、所定の保険料を納付すると、受給資格期間を満たせたり、満額の老齢基礎年金を受給できたりするのです。

任意加入以外にも60~65歳までの間に利用できる制度があり、それは例えば繰上げ受給です。

この繰上げ受給を選択した場合、通常なら65歳にならないと受給できない老齢基礎年金を、最大で60歳まで早めて受給できます。

ただ受給開始を1か月早めるごとに、老齢基礎年金の金額が0.4%(1962年4月1日以前生まれの方は0.5%)の割合で、減額するというデメリットがあります。

これに加えて繰上げ受給を選択した方は、任意加入できないというデメリットもあるのです。

将来的に65歳になるまで、国民年金に強制加入するようになると、任意加入との整合性がとれなくなるため、任意加入の改正や廃止が検討されると思います。

また任意加入と繰上げ受給の併用は認められていない、つまり国民年金に加入している間は、繰上げ受給を選択できない点から考えると、繰上げ受給についても改正や廃止が検討されるかもしれません。

あくまでも推測にすぎませんが、もし現実になれば負担増と同じように、問題になってくると思います。

負担増を避けるための2つの対策

国民年金の納期期間が5年延長されたとしても、負担増にならない方がおり、それは例えば60~65歳までの間に「厚生年金保険」に加入している方です。

その理由として、厚生年金保険の保険料を納付している間は、国民年金の保険料を納付する必要がないからです。

厚生年金保険に加入している方の、20~60歳までの配偶者(年収が130万円未満の方)は、所定の届出を済ませると、国民年金の保険料を自分で納付する必要がない、第3号被保険者になります。

この20~60歳という年齢要件の部分が、国民年金の納付期間が5年延長されるタイミングで、20~65歳に拡大されたとしたら、第3号被保険者も負担増にはならないのです。

そうなると負担増になるのは、自分で国民年金の保険料を納付する必要がある、自営業者やフリーランスなどになります。

また60歳で定年を迎えた後は、厚生年金保険に加入しないパート、アルバイト、嘱託などで働いている定年退職者なども、65歳までは負担増になります。

前者の自営業者やフリーランスなどが負担増を避けたい場合、収入が低下したら免除(全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除)の申請を、すぐに行うことだと思います。

老齢基礎年金の財源の半分は税金のため、例えば全額免除を受けて、保険料をまったく納付しなかった期間についても、1か月あたり810円(1,620円÷2)くらい老齢基礎年金が増えるのです。

一方で後者の定年退職者などが負担増を避けたい場合、厚生年金保険に加入することだと思います。

その理由としては、賃金月額が18万5,000円未満であれば、国民年金より厚生年金保険の方が、保険料が安くなるからです。

例えば賃金月額が8万8,000円(年収だと約106万円)の方が、厚生年金保険に加入した場合、保険料の負担は月8,052円になるため、国民年金の半分くらいで済みます。

また配偶者を第3号被保険者にできれば、その方は国民年金の保険料を納付する必要がないため、さらにメリットが増えるのです。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)

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情報提供元: マネーの達人
記事名:「 国民年金の納付期間が「5年延長される」と起こりうる問題2つ 負担増となる人とその対策も解説