リロケーションは、長期間自宅を離れる際にその間だけ賃貸に出すことで家賃収入を得ながら資産を維持する運用手段として注目されています。しかし、一般的な賃貸とは異なる点も多いため、事前にしっかりと理解しておくことが重要です。

本コラムでは、リロケーションの基本的な仕組みから、具体的な契約形態、費用や税金、そして知っておくべき注意点まで、不動産投資初心者にも分かりやすく解説します。

リロケーションとは?

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リロケーションとは、転勤や海外赴任などで長期間自宅を離れることになった場合、その期間だけ自宅を賃貸住宅として貸し出す仕組みのことをいいます。一定期間空き家になる自宅を貸し出すことによって、家賃収入を得ながら資産を維持したり、住宅ローンの返済に充てたり資金を確保する手段として注目されています。

2000年(平成12年)3月1日に施行された「良質な賃貸住宅などの供給の促進に関する特別措置法」によって「定期借家制度」が導入されました。一般的な賃貸借契約の場合には「普通借家契約」が用いられますが、普通借家契約では、契約期間が定められていても、借主(入居者)は契約終了前に契約の更新を申し出ることができ、原則として貸主(家主)はこれを拒否できません。

一方で、「定期借家契約」は賃貸借契約に期間が定められており、その期間が終了すると更新ができず、借主は退去しなければならないという特約を設けた契約形態です。リロケーションでは、この定期借家契約を用いることで、貸主は転勤や海外赴任の終了後に自宅へ戻すことができ、借主とのトラブルを防ぐことが可能です。

リロケーションの主な契約形態

リロケーションには、大きく分けて「代理委託方式」と「転貸借方式」の2つの契約形態があります。それぞれの方式にはメリット・デメリットがあるため、自身の状況に合わせて最適なものを選ぶことが重要です。それぞれの概要を解説します。

①代理委託方式

代理委託方式とは、貸主と借主で直接賃貸借契約を結び、賃貸管理業務をリロケーション会社に委託する方法です。オーナーが入居者と直接賃貸借契約を結び、そのうえでリロケーション会社に契約手続きや入居者対応、家賃回収などの賃貸管理業務を委託します

この方式では、あくまでオーナーが「貸主」であるため、入居者との間でトラブルが発生した際にはオーナーが責任をもって対応しなければなりません。ただし、賃貸管理業務はリロケーション会社が行うため、オーナーの実務的な負担は大幅に軽減されます。

代理委託方式は、トラブル対応や契約内容の確認などある程度の知識と経験が必要ではありますが、管理コストを抑えつつ賃料収入を得たい人におすすめの方法です。

②転貸借方式

転貸借方式とは、オーナーがリロケーション会社に物件を貸し出し、その会社がさらに第三者である入居者に物件を貸し出すという形式です。この場合、リロケーション会社は入居者との関係において「貸主」となるため、入居者との契約交渉やトラブル対応、家賃の徴収など、賃貸運営全般を貸主としての責任をもって行うことになります。

転貸借方式は、管理手数料は代理委託方式より高めになる傾向がありますが、オーナーの手間やリスクをより軽減できる点が魅力です。

サブリース契約とマスター契約について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

【関連記事】マスターリースとは?サブリースとの違いやメリット・デメリットについて理解しよう

リロケーションの運用方法

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リロケーションは、物件を賃貸として運用する上での入居者管理や家賃回収などの業務負担が発生するため、リロケーション会社に管理を委託して運用することが一般的です。リロケーションを始める場合、まずリロケーション会社との間で運用形態を決定し、その後の入居者募集、賃貸管理業務へと進んでいきます。

代理委託契約または転貸借契約を結ぶ

リロケーションの運用を開始するにあたり、まずはリロケーション会社と「代理委託契約」または「転貸借契約」のいずれかを結ぶことになります。代理委託契約と転貸借契約の特徴は前述したとおりですが、どちらの契約形態が最適かは、オーナー自身の「管理への関与度合い」や「得たい収益」、「リスクの許容度」によって異なります

管理手数料を抑えて少しでも多くの収入を得たい、かつトラブル時には直接対応することも厭わないという人には「代理委託方式」が適しているでしょう。一方で、管理の手間をできるだけ省きたい、トラブル対応に煩わされたくないという人には、管理手数料がやや高めになるものの「転貸借方式」の方が向いているといえます。

それぞれのメリット・デメリットを十分に比較検討した上で、自分の状況に合った最適な契約形態がどちらかを慎重に検討しましょう。

入居者募集業務

賃貸物件として自宅を貸し出すためには、入居者を募集する必要があります。リロケーションにおける入居者募集業務は、基本的には専門知識を持つリロケーション会社が代行して行います。

ただし、契約形態によって業務をオーナーの代理人として行うのか、契約当事者として行うのかという点で違いがあります。「代理委託方式」ではリロケーション会社がオーナーの代理として動く一方で、「転貸借方式」では契約当事者として行います。

物件の魅力を最大限に引き出すための写真撮影や物件情報の作成、各種ポータルサイトへの掲載、内見の調整、入居希望者の審査など、多岐にわたる業務をリロケーション会社に委託することで、迅速かつ適切な入居者を見つけることが期待できます。

賃貸管理業務

入居者が決まった後の賃貸管理業務も、リロケーション会社が対応してくれます。具体的には、家賃の回収や滞納時の督促、入居者からの設備に関する問い合わせ対応、修繕の手配、契約更新手続きなどが含まれます。

なお、入居者募集業務と同様に、契約形態によって業務をオーナーの代理人として行うのか、契約当事者として行うのかという点で違いがあります。そのため、リロケーション会社は「代理委託方式」ではオーナーの代理人として、「転貸借方式」では契約当事者として対応することになります。

オーナーが遠隔地にいても、賃貸経営における煩雑な管理業務をリロケーション会社に任せることができ、大きな手続きの負担もなく運用することが可能です。特に、トラブル発生時においてもリロケーション会社が間に入り、円滑な解決に向けて尽力してくれるため、精神的な負担も軽減されるでしょう。

リロケーションで必要な費用と税金

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リロケーションを行う際には、リロケーション会社に支払う費用や、家賃収入にかかる税金について理解しておく必要があります。ここでは主なコストのうち、リロケーション会社に支払う費用と家賃収入に関する税金について解説します。

リロケーション会社に支払う費用

リロケーションを利用する際には、リロケーション会社に対して様々な費用が発生します。主なものとしては、管理委託申込料や毎月発生する管理手数料、契約締結時に発生する契約事務手数料、そして契約更新時に発生する契約更新料などがあります。

これらの費用はリロケーション会社や契約内容によって異なりますので、事前にしっかりと確認し、見積もりを取ることが重要です。費用と提供されるサービス内容を比較検討し、納得のいくリロケーション会社を選ぶようにしましょう。

家賃収入に関する税金

リロケーションによって得た家賃収入は、税法上「不動産所得」として扱われ、課税の対象となります。そのため、会社員など本業で給与所得を得ている人であっても、不動産所得が20万円を超える場合は、家賃収入を含めた所得を毎年確定申告する必要があります。不動産所得の計算では、家賃収入から必要経費を差し引いた額が課税対象となり、この経費には管理手数料や修繕費、固定資産税、火災保険料などが含まれます。

適切に経費を計上することで、課税額を抑えることも可能です。しかし、申告を怠ると延滞税など追徴課税の対象になる可能性があります。早めに準備を進めるとともに、不安な場合には税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

リロケーションで知っておくべき注意点

リロケーションは、気軽な不動産投資である一方、運営にあたっては注意すべきポイントもいくつかあります。メリットだけではなくデメリットも把握した上で、適切に準備を進めるようにしましょう。

住宅ローンの返済中は金融機関の許可が必要

リロケーションを行う際、対象の物件において住宅ローンが残っている場合は、必ず事前に融資を受けている金融機関の許可を得る必要があります

住宅ローンは原則として「自己居住用」を目的とした住宅に対して貸し出されるものであり、無断で第三者に貸し出すことは契約違反とみなされ、残額の一括返済を求められる可能性もあります。

したがって、リロケーションを検討している段階で現在借り入れている金融機関へ相談し、事前の承諾を得ておきましょう。許可が下りるかどうかは個別の相談内容を踏まえた金融機関ごとの判断となるため、手続きには時間的な余裕を持つことが大切です。

住宅ローン控除を使えない

住宅ローン控除は、原則として本人またはその家族が居住する住宅に適用される制度であり、リロケーションによって自宅を第三者に貸し出している期間は、この控除の適用対象外となります。仮に住民票を残していても、実際に居住していない場合には住宅ローン控除を受けることはできません。

リロケーションを開始する前には、控除が停止された場合のシミュレーションも行い、キャッシュフローに問題がないかをしっかりと確認することが重要です。

入居者がすぐに決まるとは限らない

リロケーションでは物件を貸し出す期間があらかじめ決まっているため、入居希望者が限られます。一般的な賃貸物件と比べて入居者の募集に時間がかかることもあります。特に立地や築年数、間取りなどの条件が入居希望者のニーズに合わない場合、なかなか入居者が見つからず、空室期間が長引くリスクも考慮しなければなりません。空室が続けば家賃収入を得られず、リロケーションの目的である収益化が難しくなります。

そのため、リロケーション会社に依頼し、魅力的な物件情報の提示や的確なターゲットへのアプローチを行ってもらうことが効果的です。

一般的な賃貸物件より家賃設定は安くなる

貸出期間が限定されるため、毎月の家賃が周辺相場よりも安くなる傾向にあります。入居者にとっては短期間の居住という条件がネックになり、物件選びに慎重になる傾向があります。空室期間が長引かないように賃貸人は競争力を高めるため、相場よりやや低めの家賃で募集をかけるケースが一般的です。

したがって、リロケーションにおいては、収益性だけに注目するのではなく自宅を有効活用するという観点からバランスの取れた判断をすることが重要です。家賃設定については、地域の相場やリロケーション会社の意見を参考にしながら、適切な金額を検討するようにしましょう。

部屋や設備が損耗する

リロケーションでは、自宅に他人が住むことで部屋や設備の損耗が避けられない点にも注意が必要です。家具や設備が使われることによって汚れや傷がつくことは自然なことであり、特に長期間の貸し出しになるほど劣化のリスクは高まります。

こうした損耗に備えて、原状回復費用の取り決めや火災保険・家財保険への加入は必須です。しかし、たとえ第三者への貸し出しをせず、空室のまま放置したとしても湿気や害虫などによる損耗が進むため、必ずしも居住による使用が一方的に不利とは限りません。

損耗の程度は立地条件や入居者の使い方によっても変わるため、入居者との契約内容を明確にし、トラブルのない形で退去・修復が進められるよう準備しておくことが求められます。

リロケーションの始まりから終わりまでの流れ

(画像:PIXTA)

リロケーションを行う際には、いくつかのステップを踏むことになります。ここでは、一般的なリロケーションの始まりから終わりまでの流れを紹介します。

リロケーションの始まりから終わりまでの流れ
①リロケーション会社の比較・契約締結
②賃料・入居条件の設定
③入居者募集と賃貸借契約
④入居中の賃貸管理
⑤退去手続きと原状回復

まず、複数のリロケーション会社を比較検討し、賃貸に出す物件と自身のニーズに合った会社を選びます。提供されるサービス内容や費用、実績などを確認し、信頼できる会社を見つけることが重要です。

次に、選定したリロケーション会社と契約を締結します。この際、契約を締結する前に物件の状態や希望する賃貸条件などを詳細に伝え、認識の齟齬がないように確認しましょう。

契約締結後、リロケーション会社と協力して賃料や入居条件を設定します。周辺の相場や物件の特性を考慮し、適切な賃料を決定することが、スムーズな入居者募集への鍵となります。

賃料が決まれば、いよいよ入居者の募集が始まります。リロケーション会社が各種媒体を通じて入居者を募り、内見の案内や入居審査を行います。

入居者が決まれば、賃貸借契約を締結し、物件の引き渡しとなります。入居後は、家賃の回収や設備トラブルへの対応、定期的な巡回など、リロケーション会社がオーナーに代わって賃貸管理を行います。

そして、契約期間満了時には退去手続きを進め、物件の原状回復を行います。この際、物件の損耗状況を確認し、必要に応じて修繕を行うことで、もし次も賃貸に出す場合は入居者に気持ちよく利用してもらえるための準備をします。

このように計画的にリロケーションを進めることで、安心して自宅を貸し出すことができるようになります。

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情報提供元: manabu不動産投資
記事名:「 リロケーションとは?契約の方法や必要な費用、注意点などを詳しく解説