*10:31JST 李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(2)【中国問題グローバル研究所】 ◇以下、中国問題グローバル研究所のホームページ(※1)でも配信している「李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(1)【中国問題グローバル研究所】」の続きとなる。


◆反腐敗運動はアメリカに潰されないための軍事力強化が目的
2012年11月8日に、胡錦涛は第18回党大会の初日に中共中央総書記として最後の演説をし、「腐敗を撲滅しなければ、党が滅び、国が亡ぶ」と言った。党大会閉幕後の一中全会(中共中央委員会第一回全体会議)で、中共中央総書記に選ばれた習近平は、胡錦涛と同じ言葉「腐敗を撲滅しなければ、党が滅び、国が亡ぶ」をくり返した。

胡錦涛政権時代には、どんなに胡錦涛が腐敗撲滅を実行しようとしても、腐敗を蔓延させたのが江沢民自身なので、チャイナ・ナインの多数決議決で否決され、実行できなかった。その無念さを胡錦涛は習近平に託し、習近平はそれを受けて反腐敗運動に徹した。このとき胡錦涛は習近平にある交換条件を出している。もし反腐敗運動を徹底してくれるなら、チャイナ・セブンには習近平にとって運営しやすい人を選んでいいと言ったのだ。だからチャイナ・セブン内での権力闘争はない。

ときは2012年。

世界を見渡せば、2010年には中国のGDPは日本を抜いて、世界第二位に躍り出ている。何としても腐敗の巣窟となっている軍を近代化しなければアメリカに潰される。習近平が三期目を狙ったのは、「アメリカに潰されたくない」という強い思いと、トウ小平に復讐してやるという怨念があったからにちがいない。そのことは『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』で詳述した。

改革開放は、習近平の父・習仲勲が16年間の監獄生活から解放されて、執念のように深センで創り出した遺産である。だから2012年11月に中共中央総書記になると、習近平は真っ先に深センに行っている。

今年三期目の中共中央総書記になったあとは、新チャイナ・セブンを引き連れて延安に行った。そこは習仲勲が1930年代に創り上げた革命根拠地で、長征の果てに行き場を無くした毛沢東を迎えた地だ。あのとき延安がなかったら中華人民共和国は誕生していない。習仲勲があの延安の革命根拠地を命懸けで作り上げていなかったら、中華人民共和国は存在していないのだ。

そこに長年にわたる思いを込めて、父の仇を討ってやるという執念に燃えるのも、自然ではないだろうか。李克強の存在とは、いかなる関係もない。


◆習近平のせいで李克強が「天下を取り損ねた」という事実はない
たとえば10月28日の時事通信社は<天下取り損ねた政治スター 権力闘争敗北で影響力低下 李克強氏>(※2)というタイトルで報道し、冒頭に【中国の李克強前首相は、いずれ頂点に立つのではないかと注目を集めたことのある「政治スター」だった。運命を狂わせたのは習近平国家主席の政権運営で、習氏が権力を固めるのに伴い、李氏の影響力は失われていった。抜群の実務能力を発揮し、上からも下からも慕われたが、たった一つ、権力闘争だけは苦手だった。】と書いている。

これもNHK同様に、事実歪曲というか、ほぼ「捏造に近い」と言っても過言ではない。日本全国、李克強を英雄視するのに余念がないが、李克強ほどガチガチの共産主義思想に燃えたエリートも少なかったというほど、彼は生粋の共産主義者。「李克強だったら、中国は中国共産党による一党支配体制をやめた」という勘違いを日本国民に植え付けるのは、一種の「罪悪だ」とさえ筆者の目には映る。

その李克強の運命は2007年に「江沢民と胡錦涛との間の権力闘争」によって決まったのであり、その瞬間に「天下を取るのは習近平」と、江沢民一派が決定したのである。

このたびの中共中央および国務院が出した李克強に関する2500字を超える訃報では「李克強同志は反腐敗運動に非常に積極的であった」と褒め称えている。

拙著『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』にしつこく書いたように、李克強が2023年3月の全人代で退任するのは、憲法に基づいた規則に従っただけのことだ。習近平が三期目に残るためには、国家主席に関して、あれだけ大騒動して憲法改正を行っているではないか。

国務院総理に関して憲法改正を行っていない段階で、李克強が二期10年で国務院総理の座を去るのは当然のことで、失脚ではない。

李克強はむしろ、実に立派に国務院総理の任務を成し終えたのだ。それを「失脚」とか「敗北者」のように位置付けるのは、李克強に対しても失礼であり、かえって彼の尊厳を傷つけることに気が付いているだろうか。習近平を貶(けな)すために李克強を利用するのは、死者に対する冒とくでさえある。

このように、李克強の死は、天安門事件を招いた胡耀邦の死とは完全に異なる。

但し、今年8月6日のコラム<中国政府転覆のためのNED(全米民主主義基金)の中国潜伏推移>(※3)に書いたように、「第二のCIA」と呼ばれているNEDは、ゼロコロナの時もネットを使って中国の若者に呼び掛け、「白紙運動」を実行させるのに成功している。この詳細は『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』に書いた。

今回も、NEDがどれだけ巧妙に暗躍できるかは、中国のネット検閲との闘いとなるだろう。

11月2日に李克強の火葬が執り行われ、半旗を掲げて弔意を表すことになっている。

政治問題と関係なく弔意を表す人は当然数多くいるだろう。

以上が客観的ファクトだ。あとは読者とともに推移を観察していきたいと思う。

この論考はYahoo(※4)から転載しました。


写真: ロイター/アフロ

(※1)https://grici.or.jp/
(※2)https://www.jiji.com/jc/article?k=2023102701075&g=int
(※3)https://grici.or.jp/4509
(※4)https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/831523dea8b81f88ae7248eff3c4e829c27aeb3b


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情報提供元: FISCO
記事名:「 李克強の死と、天安門事件を招いた胡耀邦の死との違い(2)【中国問題グローバル研究所】