この数年で数量を大きく伸びてきたのがハイニッケルを中心とする車載用LIB用材料で5,800百万円(セグメント内での構成比29%)となっている。戸田工業<4100>は1990年代の磁気テープに代表される磁性酸化鉄市場の黄金時代からの急激な市場縮小に対し、既存事業の技術を生かしLIB用正極材料の研究に着手、2000年に四酸化三コバルト(Co3O4)を出発原料としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)事業を開始した。その後、買収等で2002年にニッケルコバルトアルミン酸リチウム(LiNiCoAlO2)、2007年にNi(OH)2/CoOx、2008年にはスピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)を事業化、同時にArgonne National Labからリチウムリッチのニッケルコバルトマンガン酸リチウム(Li-Rich NCM)のライセンスを取得し、LIB用正極材料3成分系の事業化を迅速に行った。また米国ミシガン州に工場建設を始め、2010年に伊藤忠商事<8001>と前駆体・正極材料製造のJV、2015年には欧州化学大手BASFと日本を拠点にLIB用正極材料を展開するBASF戸田バッテリーマテリアルズ(同)(以下、BTBM)を立ち上げ、NCA、NCMなど様々な正極の研究開発、製造、販売を行うこととし、2017年にはハイニッケル系正極材料生産設備を大幅増強した。LIB用材料事業は、BASFとの合弁会社であるBTBM(BASFジャパン66%、同社34%出資、持分法適用会社)により運営、BTBMの2022年12月期の売上高は21,644百万円(前期比28.1%増)であった。なお、2022年7月20日には、年間45GWhのバッテリーセル製造に必要な生産量を確保するために、ハイニッケル正極材料の生産能力を2025年までに6万トンに引き上げることを発表している。2022年12月19日にはドイツBASF本社がBTBMからトヨタ自動車<7203>とパナソニックホールディングス<6752>の合弁会社であるプライムプラネットエネルギー&ソリューションズ(株)(以下「PPES」)へ納入を開始するとの開示があった。LIB用材料事業は車載対応で多額の先行投資を必要とし、減損処理、投資損失、市況の乱高下などから収益推移の重しとなっていたが、ここに来て投資効果が現われ、収益を稼ぎ出す事業に変わってきている。