■中長期の成長戦略

1. 筋肉質な企業体質への転換、中長期の成長基盤の構築
冨士ダイス<6167>は前中計において、受注増への対応と将来の社会変革への準備を行う事を基本コンセプトとして標榜してきた。具体的に(1)成長力・収益力の強化、(2)顧客ニーズの変化への柔軟な対応、(3)海外展開、(4)新製品開発・新技術開発の4つを重要施策としていた。しかし事業環境において米中摩擦、コロナ禍による世界的な混乱が生じたため、同社はリーマンショック時以上にダメージを受けかねない状況に陥った。2021年3月期中間決算発表時には2021年3月期業績予想で営業赤字転落予想を開示する業況に追い込まれた。幸い下期に自動車販売の急回復があり、結果として営業利益でも黒字を維持出来たものの、中計に対して大きく乖離した結果で終わった。

このようななかで、新社長の下、新たな中期経営計画(2021-2023年度)が示された。前中計では顧客ニーズの変化への柔軟な対応という点で成果が出ていると判断しているが、その他3つの重要施策での成果が不十分との認識を示した。そこで今回の基本コンセプトは「筋肉質な企業体質への転換、中長期の成長基盤の構築」とし、具体的に重点施策として、(1)生産性向上・業務効率化、(2)次世代自動車への対応・拡販、(3)新成長エンジンの創出、(4)海外事業の強化、を掲げている。また今回の中期経営計画はその位置付けとして、2026年度(2027年3月期)に売上高200億円達成をターゲットとし、そのフェーズ1と捉えるとしている。

実際、今回の中計の目標数字について2024年3月期予想でも売上高17,000百万円、営業利益1,490百万円となっており、売上高ピークの2019年3月期の18,356百万円に達しない予想となっている。会社側では2018年3月期から2019年3月期にかけては、自動車の環境対策関連で新工場立ち上げに伴う売上計上があり、鉄鋼用ロールでも新工場立ち上げ時にまとまった注文があったものが、その後中国ローカルの製品に置き換わったなどの影響等から、売上の回復が見込めない製品群があるためとしている。そのため、今回の中計は2027年3月期に目標とする売上高20,000百万円、営業利益2,500百万円達成に向けてのフェーズ1として足固めの時期としている。

2. 次世代自動車への対応・拡販
同社の業容拡大を見ていくうえでは、最大需要先の自動車産業向けの対応が非常に重要となり、新中計でも重要施策として次世代自動車への対応・拡販を掲げている。具体的にはモーター関連、電池関連に注力、材料開発等による積極的な試作品の投入を行う。既に次世代自動車向けでは車載燃料電池用金型が販売開始となっている。またモーターコア用抜き金型では従来から放電加工性に優れたフジロイVシリーズを多くの顧客に提供しているが、電磁鋼板の薄板化に伴い、耐摩耗性と耐チッピング性(表面疲れによって欠けなどを起こしにくい)を向上させた新材種TVG46を開発、2019年には従来使用されている材料と比較して長寿命化につながるかどうか客先にて連続使用試験が行われている。また素材開発面では過給器(ターボチャージャー)用摺動部材として銅基焼結合金を開発している。自動車用過給器は当初は高出力を得る目的で搭載されていたが、最近は燃費向上を目的にエンジン軽量化(小排気量化)に伴うエンジンの出力低下と排ガス浄化機能を両立させるダウンサイジングターボが主流となってきた。このような動きのなかで小排気量のエンジンほど回転速度の上昇率が大きく、排気温度も上昇しやすいため、燃費向上を求めても高温に耐えられ、潤滑油に含まれる硫黄による腐食進行に耐える素材が必要とされていた。これに対し、青銅(耐焼き付け、摺動特性に優れるが耐硫化腐食性が弱い)、高力黄銅(高腐食性あるが耐摩耗性が弱い)など、一長一短の状況で、しかもコスト高が問題となっていた。同社はこれに対し、硫化腐食しにくいZn量が40%程度の黄銅合金基材に自己潤滑性を持つ化合物を分散させた銅焼結合金を開発した。現在、客先での実用に向けた耐食性、耐摩耗性及び高面圧の摺動試験が行われている。また同素材は産業機器用、コンプレッサ用、家電用、OA機器用の摺動部品として従来の含油軸受等を用いる他の用途代替が可能な点も注目される。

3. 新成長エンジンの創出
同社は自動車産業向け以外でも市場ニーズを先取りした高付加価値製品の開発に注力している。残念ながら、コロナ禍が1年半にも及び、新製品開発・新技術開発の進捗がこの1年は停滞した状況となっているが、潜在成長力も大きく、フェーズ2となる2026年度には量産化されるものも多いとみられる。

医療・化粧品分野では分析デバイス(マイクロ流路)用成形金型が評価用サンプルでの対応まで進んでいる模様である。これは超硬合金直彫り加工技術を活かし超硬合金に限らず、鉄・非鉄合金を含めた素材に対し、微細な流路形状を複数配列するもの。流路配列のピッチ精度(位置度)1µm、輪郭精度(輪郭度)5µmを達成している。マイクロチップは金型によるナノインプリント転写が出来ればコストダウンが可能となり、血液検査などの予防医学、POCT(診療現場で迅速に行う臨床検査)での利用が見込まれ、大きな市場が生まれる可能性がある。現在、大学へのサンプル提供、性能評価をはじめ、成約するケースも散見されてきた。またマイクロウエル(平板で多数の窪みがあるプレート)にも対応でき、ウイルス検査のためのウイルス分離用検体処理でも需要が見込める。

環境・エネルギー関連では熱伝導率550W/m.kと業界最高の熱伝導率(銅タングステン合金の3倍水準)を誇る高熱伝導素材(FHT:ダイヤモンドと銅の複合材料)を開発、放熱対策が急務な先端半導体回路基板の放熱基板を2019年より販売している。ヒートシンク、ヒートスプレッダー以外でも光通信用部品、高周波用部品パッケージなどに利用可能であり、数量効果も期待でき、潜在成長力が大きい製品と言える。エネルギー分野では、高圧合成法を用いた水素・酸素発生触媒がある。超硬合金の粉末冶金技術を応用、酸素発生触媒(Z005XX)の開発に成功した。電極に粉末を塗布することで水を電気分解するアルカリ水電解に対し、優れた触媒作用を持つ。従来使われてきたRuO2のようなレアメタルを含まず、CaやCu、Fe等で構成される触媒であり、安価かつ高性能、耐久性も優れるとのことで、将来の水素社会到来に向け、水素燃料製造に大きな期待がかかる。現在、評価サンプルとして様々なニーズを探っている。

その他では、5Gを睨み、微小なレンズエレメントを複数配置した超硬合金製マイクロレンズアレイ用金型も手がけている。光利用効率向上、集光、光拡散を制御でき、大容量5G通信での適用が可能としている。部材供給では従来から強みを持つ光学ガラス用超硬金型に加える形で、次世代自動運転、防犯監視カメラ等向け赤外線レンズ用金型の性能評価を実施中である。赤外線レンズ素材は通常のガラスと比較して熱膨張率が大きいため、従来のバインダーレス超硬合金製の金型と比較して熱膨張率が赤外線レンズ素材に近い耐酸化性硬質サーメットを開発、自動運転などで多用されるADAS(先進運転支援システム)向けなど潜在需要が大きい分野として注目される。また高圧発生装置用素材供給においては人工ダイヤモンドなどの合成に利用される、遅れ破壊しない超硬合金を開発、研削加工に使うダイヤモンド研削砥石なども内製化しており注目度が高い。

このほかにも加工工程の削減、加工時間短縮、型レスによる直接モノづくりが可能になる、3Dプリンターを利用した間接積層造形技術の開発を進めており、複雑製品の同時造形や粉末歩留り100%による省資源、省エネ促進を目指している。

このように、次世代自動車、先端半導体、5G通信、先端医療向け等、潜在市場が大きい分野に多くの開発品の具体化が進んでおり、次期中計での同社収益を支える事業として期待が持てる。

4. 海外事業の強化
同社はこれまで、少量多品種生産、受注生産直販システムを売り物として、国内での確固たる顧客基盤のもとで成長を享受してきたが、今後は海外子会社、輸出の両輪で売上拡大を目指す。2021年3月期の海外売上高は前期比2.3%減の2,609百万円と国内向けよりも落ち込みが少ないが、同社が得意としている超精密、耐摩耗性能を必要とする顧客は国内発注で実際は海外利用の事例も多く、実質的には2ケタ減となった模様である。同社は2020年4月には海外事業管理部を設け、海外子会社での付加価値の高い製品群の強化、巨大市場の中国マーケットを含め、新規市場への日本からの輸出拡大を目指したが、コロナ禍の影響で実質的に海外強化は1年遅れた形となっている。新製品群なども立ち上がってくるなかで、中国市場などを如何に取り込んでいけるかがポイントとなろう。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 岡本 弘)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 冨士ダイス Research Memo(5):業務効率化、成長分野の新製品開発、グローバル展開を推進