■開発パイプラインの動向

1. BTK阻害剤の開発スケジュール
カルナバイオサイエンス<4572>の開発パイプラインの中で注目度の高い開発パイプラインとして、2つの非共有結合型BTK阻害剤(AS-0871、AS-1763)が挙げられる。非共有結合型とは薬剤の分子がBTKなどの標的となる分子と結合した後、時間の経過とともに結合した薬剤の分子が離れるタイプのことを指す。

現在の開発スケジュールについて見ると、炎症性免疫疾患(リウマチ、アレルギー疾患等)を対象とした「AS-0871」に関しては、2019年12月にオランダ当局にCTAを提出(2020年2月承認)、2020年前半より健常者を対象とした臨床第1相試験を開始する予定となっている。安全性に問題がなければ、適応疾患を決めて第2相試験に進むことになる。

一方、血液がんを対象に開発を進めている「AS-1763」に関しては、2020年内に欧州でCTA(臨床試験許認可申請)を提出し、承認が得られ次第、臨床試験を開始する予定である。抗がん剤の臨床試験は多くの企業で進められているため、被験者の登録に時間を要することが予想されるため、AS-0871のCTAで基盤が整っている欧州でのCTAに変更された。同社は2020年3月に、AS-1763の中華圏における開発・商業化の権利を中国バイオノバ・ファーマシューティカルズに供与する契約を締結しており、バイオノバ社が被験者をリクルートしやすい中国で臨床試験を実施すれば、AS-1763の開発のスピードアップにつながると考えられる。

2. 各パイプラインの概要
(1) BTK阻害剤「AS-0871」(対象疾患:炎症性免疫疾患)
「AS-0871」は炎症性免疫疾患(リウマチ、アレルギー疾患等)を対象に開発が進んでいる。その特徴は非共有結合型であること、高いキナーゼ選択性を持ち副作用リスクが低いこと、関節炎マウスモデルで高い治療効果が得られており、難病にも指定されている全身性エリテマトーデス※モデルでも効果が確認されていること、などが挙げられる。

※なんらかの原因によって種々の自己抗体を産生し、それによる全身性の炎症性臓器障害を起こす疾患で、自己免疫疾患の中では最も難病とされている。


同社が公表しているキナーゼ選択性プロファイルを見ると、「AS-0871」はBTK以外で阻害するキナーゼの種類がわずか2種類だけであり、副作用リスクの低いことが予想される。また、関節炎マウスモデルを使った試験では、溶媒群が投与後も関節炎スコアが高水準を維持したままだったのに対して、「AS-0871」投与群は関節炎スコアが溶媒群との比較において半分以下の数値まで低減する結果が得られている。

現在、自己免疫疾患をターゲットとして開発を進めている非共有結合型BTK阻害剤の競合としては、ブリストル・マイヤーズ・スクイブ の「BMS-986142」(臨床第2相試験終了)と、ロシュ/ジェネンテックの「Fenebrutinib(GDC-0853)」(臨床第2相試験終了)があるが、このうち「Fenebrutinib」に関しては臨床試験の結果が良好であったことから、今後、競合するものと同社では見ている。

なお、リウマチ用治療薬としては抗体医薬品でヒュミラなど数種類が、低分子治療薬ではトファシチニブ(JAK阻害薬、製造販売元:ファイザー)が販売されている。抗体医薬品に関しては薬価が高く、月に1~2回の通院による注射投与が必要なため、患者負担が経済的・身体的に重たいといった課題を抱えている。また、トファシチニブは薬効が高いものの、副作用が強いといったデメリットがあり、現在は抗体医薬品では効果のない患者にしか使用されていない。このため、副作用が少なく安全・安価な低分子治療薬の開発が望まれている。リウマチなどの炎症性免疫疾患の治療薬は世界で約6兆円規模の市場になっており開発競争も激しいが、「AS-0871」の開発に成功すればブロックバスターに育つ可能性は十分あると弊社では見ている。

(2) BTK阻害剤「AS-1763」(対象疾患:血液がん)
「AS-1763」は血液がんを対象に開発が進んでいる。その特長は、非共有結合型であること、高いキナーゼ選択性があり副作用リスクが低いこと、イブルチニブ耐性BTK(C481S変異型BTK)にも強い阻害活性を示すこと、リンパ腫モデルで強力な抗腫瘍効果が確認されていること、がん免疫モデルにも効果を発揮すること、自己免疫疾患にも適用拡大が可能なことなどが挙げられる。

血液がん治療薬としては、BTK阻害剤でイブルチニブが既に販売されているが、イブルチニブを投与し続けると、BTKの481番目のシステイン残基(C481)に変異が生じてイブルチニブ耐性BTK(C481S変異体)となり、治療効果が低下するとの報告が成されている。イブルチニブ耐性がつくことで阻害作用が弱まり、血液がん細胞が増殖するものと考えられる。同社が開発する「AS-1763」は非共有結合型で、野生型BTKだけでなくイブルチニブ耐性BTKに対しても強力な阻害作用があることがインビトロでの研究において確認されており、キナーゼ選択性に関してもイブルチニブと比較して影響を受けるキナーゼの種類が格段に少ないため、副作用リスクも低いことが想定される。ヒトの血液がんの一種であるリンパ腫の細胞(OCI-Ly10細胞)を移植したマウスで「AS-1763」投与群と薬物非投与群で腫瘍の大きさを測ったところ、薬物非投与群の腫瘍のサイズが23日後に約5倍になったのに対して、「AS-1763」投与群は同等から2倍の範囲に収まるなど、腫瘍の増殖抑制効果があることも確認されている。

がんをターゲットとして開発を進めている非共有結合型BTK阻害剤としては、米Sunesis Pharmaceuticals(サネシス・ファーマスーティカルズ )の「vecabrutinib(SNS-062)」(臨床第1b/2試験中)、Merckが買収したArQuleの「ARQ531」(臨床第2相試験中)、Eli Lillyが買収したLoxo Oncologyの「LOXO-305」等が挙げられる。このうち、同社が競合として意識しているのは、「ARQ531」「LOXO-305」(臨床第1b/2試験中)となる。試験データが確認できる「ARQ531」については優れた薬効を示す一方で、キナーゼ選択性が弱く副作用が強いもようで、キナーゼ選択性が強い「AS-1763」の優位点と考えられる。

血液がんの代表的な治療薬として、抗体医薬品ではリツキシマブ(商品名:リツキサン、開発元:バイオジェン)があり、2018年の売上規模は64億米ドル、BTK阻害剤ではイブルチニブが44億米ドルとなっている。「AS-1763」はイブルチニブ耐性BTKにも強い阻害作用を持つことから、開発に成功すればブロックバスターに育つ可能性は十分あると言える。ただ、競合する非共有結合型BTK阻害剤に対して、開発の進捗でやや後塵を拝しているのは否めず、早期の臨床試験入りが望まれる。同社は、2020年3月にAS-1763の中華圏における開発・商業化の権利をバイオノバ社に供与する契約を締結した。比較的多くの患者をリクルートしやすい中国でバイオノバ社が臨床試験を実施すれば、より多くの臨床試験データを収集・利用することができ、AS-1763の開発をスピードアップできる可能性がある。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 カルナバイオ Research Memo(4):炎症性免疫疾患対象のBTK阻害剤「AS-0871」の臨床第1相試験開始