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腫瘍溶解性ウイルス製剤の競合としては複数あるが、唯一製造販売承認されたものとして米Amgenの「T-VEC」(IMLYGICTM)があり、2015年10月にメラノーマを適用疾患として米国で承認されている。開発中のものではタカラバイオ<4974>の「HF10」が国内でメラノーマを対象に免疫チェックポイント阻害剤との併用による第2相臨床試験を実施しているほか、米国でもメラノーマ(第3、4ステージの切除可能なメラノーマ)を対象とした抗PD-1抗体との併用療法による第2相臨床試験が進められている。日経新聞の報道(8月12日付)によれば、2018年内にも国内で承認申請を行う予定とされている。
特に、ここ最近では臨床試験の結果から抗PD-1抗体との併用療法での開発が有効との認識が広まっており、腫瘍溶解ウイルスの開発企業に対する関心が高まっており、企業買収や共同開発契約も活発化している。2011年に「T-VEC」の開発元である米BioVexをAmgenが1,100億円で買収したのを皮切りに、直近では2018年2月にMerckが「CAVATAK(R)」の開発元であるオーストラリアのViralyticsを423億円で買収している。「CAVATAK(R)」はメラノーマ、前立せんがん、肺がん、膀胱がんを対象に第1/2相臨床試験を進めるバイオベンチャーだ。
このため、弊社ではテロメライシンについても総額で数百億円規模のライセンス契約が2019年にも締結される可能性が高いと見ている。食道がんを対象とした腫瘍溶解ウイルスの開発を進めているのは同社のみであるほか、アデノウイルス(=テロメライシン)ががんの転移原因になるがん幹細胞に対しても効果があることが確認されていること、放射線療法との親和性が高い※ことなど様々な長所を持つためだ。実際、岡山大学の臨床研究結果が発表されて以降、詳細なデータを確認したいとの要望が国内外の大手製薬企業から相次いでいる。同社では今後、複数企業と交渉を進め、2019年春までにライセンス契約を締結したい考えだ。
※放射線療法はがん細胞の遺伝子を破壊することで、がん細胞を死滅させる治療法となるが、放射線照射後のがん細胞の表面が、アデノウイルスを付着しやすくなるように改質されること、また、がん細胞の遺伝子修復機能を抑制する働きを持つ「E1B遺伝子」をアデノウイルスのみが持っていることなどが、放射性療法との親和性が高い理由となっている。
2. テロメスキャン
(1) 概要
テロメスキャンは、アデノウイルスの基本構造を持ったテロメライシンにクラゲのGFPを組み込んだ遺伝子改変型アデノウイルスとなる。テロメラーゼ陽性細胞(がん細胞、炎症細胞など)に感染することでGFPが発現し蛍光発光する作用を利用して、がん転移のプロセスに深く関与するCTC(末梢血循環腫瘍細胞)を高感度に検出する。検査方法としては、患者の血液を採取し、赤血球の溶血・除去を行ってからテロメスキャンを添加しウイルスを感染させる。感染により蛍光発光したGFP陽性細胞を検出、CTCの採取といった流れとなる。これまでPET検査などでは検出が難しかった直径5mm以下のがん細胞の早期発見や、転移・再発がんの早期発見のための検査薬としての実用化を目指しているほか、検出したCTCを遺伝子解析することによって個々の患者に最適な治療法を選択する「コンパニオン診断」※のツールとしても将来期待されている。
※患者によって個人差がある医薬品の効果や副作用を投薬前に予測するために行なわれる臨床検査のこと。薬剤に対する患者個人の反応性を遺伝子解析によって判別し、最適な治療法を選択できるようにする。新薬の臨床開発段階でも用いられる。
テロメスキャンF35はテロメスキャンに違う型のアデノウイルス遺伝子を組込み、感染率の向上とがん特異性を高めた改良型のテロメスキャンとなる。それぞれの特性には一長一短があり、テロメスキャンは蛍光体の発光輝度が高く検出がしやすいものの、白血球にも反応し若干発光するため、前段階で白血球を取り除く工程が必要となる。一方、テロメスキャンF35はがん細胞のみを発光させるため、白血球を取り除く工程は不要となるが、発光輝度が若干弱いといった難点がある。
テロメスキャンに関しては2015年11月にペンシルベニア大学発のベンチャーであるLiquid Biotechと北米市場でのライセンス契約を締結し、テロメスキャンF35については2014年12月に韓国WONIKと韓国市場におけるライセンス契約を締結している。
(2) 開発状況
テロメスキャンの開発状況に関しては、胃がんのPTC検査薬として岡山大学消化器外科系と、膵臓がんのPTC検査薬として大阪大学消化器外科とそれぞれ共同研究を進めているほか、2017年11月には順天堂大学呼吸器内科とテロメスキャンの実用化を目的としたCTCの検出法開発及びシステム構築のための共同研究契約を締結、また、2018年8月からは島根大学医学部付属病院と子宮頸がん検査薬としての臨床研究を開始している。
子宮頸がんはHPVウイルスの感染が発症原因となるが、HPVはCTCにのみ存在するため、テロメスキャンで採取したCTCを調べることで、子宮頸がんの診断が可能となる。従来、子宮頸がん検査は子宮頸部の細胞を採取する必要があったため、受診率も高くなかった。テロメスキャンによる血液検査で診断が可能となれば、受診率の向上と早期発見により、医療費全体の削減にもつながる効果が期待されている。
大阪大学と進めている膵臓がんを対象とした臨床研究ではパイロット試験が実施され、テロメスキャンの精度の高さが確認されている。現在、本試験に向けて評価項目についての協議を進めている段階にある。また、順天堂大学との共同研究では、テロメスキャンの課題であったCTC検出工程の時間短縮(従来比10分の1)に取り組んでいる。従来は顕微鏡で目視によりCTCを採取しており、1回の検査で2~3時間を要していたが、これを機械で自動化することで10分程度に短縮できれば、検査薬としての利便性も格段に向上する。同プロセスでCTCが採取できることを確認できれば、臨床試験を実施した上で薬事承認を目指していくことになる。また、薬事承認を得られれば、順天堂大学内にCTC検査センターを設ける構想もある。
一方、米国では子宮頸がん検査の臨床研究のほか、2018年内にペンシルベニア大学を中心に10施設で非小細胞肺がんの検査薬としての臨床試験も開始する予定となっている。また、膵臓がんについての検査ニーズもあり、現在協議を進めている段階にある。テロメスキャンのアッセイ及び受託検査についてはライセンス供与先であるLiquid Biotechが担当することになる。
なお、韓国についてはWONIKがテロメスキャンF35の製造販売承認に向けた開発を進めているが、製造したウイルスの品質改善に向けたテコ入れを同社で進めていく予定になっている。
(3) 競合状況
テロメスキャンのターゲット市場となるCTCの検査市場では、現在米VeridexのCellSearchシステムが唯一欧米市場で販売承認を受けており、既に乳がん・大腸がん・前立腺がんのCTC検出において使用されている。また、同業他社もCTC検査機器の開発にしのぎを削っており、開発競争が激しい市場となっている。しかし、これらの検査システムはEpCAM(上皮細胞接着分子)と呼ばれる細胞表面マーカーを検出する方法を用いており、その細胞表面マーカーの発現が低いと言われている肺がん細胞等の検出が困難であるという欠点がある。
一方、同社のテロメスキャンでは肺がん細胞を始めとするほとんどのがん種において、CTCの検出が可能なほか、生きているCTCや悪性度の高い間葉系がん細胞を捕捉することも可能となっている。また、がん転移後のCTCを分析することで患者ごとに最適な治療法を選択できるといった長所も持つ。ペンシルバニア大学で実施したCTCの検出率比較においても、7種のがん疾患のうち5種において検出率に顕著な優位差が出ているとの調査結果が発表されており、今後の共同研究等により実用化に向けたデータを蓄積していくことで、新たなライセンス契約の締結や、テロメスキャンの販売拡大を目指していく。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)
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