■今後の見通し

2. 開発パイプラインの動向
カイオム・バイオサイエンス<4583>の開発パイプラインとしては、「LIV-1205」「LIV-2008/LIV-2008b」「抗セマフォリン3A抗体」などがあり、いずれも非臨床試験段階にある。また、基礎・探索研究段階の新規開発についても複数のプロジェクトを進めている。このうち、「LIV-1205」「LIV-2008b」については、ADCT社とADC開発用途でのオプションライセンス契約を締結しており、今後、本契約に移行するかどうかの結果待ちの状態となっている。また、「LIV-1205」「LIV-2008」については通常抗体としての導出活動を行うと同時に、自社で初期臨床段階までの開発を行い、パイプラインの価値を高めることで導出につなげていく戦略を打ち出している。資金的な制約もあるため、まずは「LIV-1205」の初期臨床開発から進めていく予定となっている。各パイプラインの概要と開発状況は以下のとおり。

(1)「LIV-1205」
「LIV-1205」は、肝臓がん等の難治性がんを標的としたファースト・イン・クラス※の治療用抗体候補で、がん細胞に発現するDLK-1と呼ばれる細胞膜タンパク質と結合することで、がん細胞の増殖活性を阻害する薬効が動物実験にて確認されている。DLK-1は正常な細胞では殆ど発現しないため副作用も少ないことが期待される。また、DLK-1は、幹細胞や前駆細胞のような未熟な細胞の増殖・分化を制御すると考えられている。

※新しい薬効として初めて承認される「画期的新薬」のことを指す。


また、「LIV-1205」については2016年10月に、米国国立がん研究所が運営する組織であるPediatric Preclinical Testing Consortium(小児がんのための非臨床試験組合、以下、PPTC)で行っている小児がんを対象とした非臨床試験の実施プログラムの中のプロジェクトの1つとして採択され、試料提供契約を締結した。今後、1年以上をかけて複数の小児がんの特徴を反映した動物モデルで抗腫瘍効果を評価していくこととなる。なお、PPTCでは小児がんを対象とした非臨床試験の実施プログラムで10年の実績があり、年間10~12個の新薬候補品の評価を多くの製薬企業と協力して実施している。今回の契約による業績への直接の影響はないものの、本プログラムへの採択が「LIV-1205」の初期臨床開発への重要な一歩になると同社では考えている。

(2) LIV-2008/LIV-2008b
「LIV-2008」は多くの固形がんを標的としたベスト・イン・クラス※1の治療用抗体候補となる。乳がんや肺がん等の固形がんに多く発現するTROP-2と呼ばれる細胞膜タンパク質と結合することで、がん細胞の増殖活性を阻害する働きを示す。異なるエピトープ※2を認識する2つの開発候補品(LIV-2008、LIV-2008b)がある。

※1 同一薬効、同一メカニズムの中で2番手以降であっても、最も優れている新薬のこと(薬効が強い、毒性が低い、安定性が高い等)を指す。
※2 抗体は抗原の特定の構造を認識して結合するが、その構造の一部分のこと。


TROP-2は、様々な固形がんで発現が増強することが確認されており、がん治療のターゲットとして注目されている分子の1つである。このうち、「LIV-2008」は動物モデルにおいて、単独でも複数のがん種に対し、顕著な腫瘍増殖阻害効果を示すことが確認されている。また、「LIV-2008b」は、標的抗原であるTROP-2に結合した後でがん細胞内に取り込まれるインターナリゼーション活性を有しているため、ADC(抗体薬物複合体)抗体としての開発も期待されており、現在、オプションライセンス契約を締結したADCT社で抗体の評価を行っている。また、「LIV-2008」については同社で通常抗体での導出活動を行っている。

(3)抗セマフォリン3A抗体
抗セマフォリン3A抗体については、抗原の生体での機能研究が進み、中枢、炎症、がんの転移、骨代謝、糖尿病合併症等との関連を示唆する論文が報告されている。同社では、アンメットニーズの観点から開発の可能性が高い疾患での評価及び導出に今後、フォーカスしていくと思われる。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 佐藤 譲)



<NB>

情報提供元: FISCO
記事名:「 カイオム Research Memo(7):パイプラインの導出活動を継続すると同時に、自社での初期臨床開発の準備を進める