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サウジは敵対するイランがミサイル技術を向上させていること(イランは中東で最大かつ最も多様なミサイルを保有していると言われているが、12月24日、イギリス外務省はイランによる16発の弾道ミサイル発射演習を非難する声明を発表した)に対抗する意図があるためだろう。バイデン政権は、2018年に殺害されたサウジアラビア人記者ジャマル・カショギ氏事件において、「ムハンマド皇太子の関与を理由に人権侵害の責任を問う」という立場を取り、また、サウジアラビアと敵対するイエメンの武装組織「フーシ」のテロ組織指定解除などを行い、サウジアラビアと一定の距離を置いている。
さらに昨年8月、米国の仲介によりイスラエルと国交正常化を果たし、親米寄りの姿勢を示していたUAE(アラブ首長国連邦)について、報道によると、「UAEは、米国からの購入を予定にしていた50機のF-35及び18機の無人攻撃機の購入計画の中段を通告した」と発表した。これは、UAEが中国のファーウェイ製5G通信ネットワークの導入を決め、米国が、技術情報の漏洩を危惧し、不信感を抱いたためではないかとみられている。このように、親米の姿勢を示してきたサウジアラビアやUAEにおける米国離れと中国への接近事案がいくつか報道されている。
イスラエルのニュースサイト「JNS」は12月16日、モサド元長官エフライム・ヘイルビー氏がイスラエル・中国交流促進会議の年次総会で、「イスラエルの経済は中国に大きく依存している(両国の貿易総額は180億4,500万ドル、イスラエルにとって中国は輸出で世界2位、輸入で世界最大の相手国である。JETRO 2018年統計)。中国は他の諸外国よりもイランに対し大きな影響力を持つ。今日、中国がウイーンでのイラン核合意間接協議に与える影響力は大きいものがある。イランの核開発を阻止し、イスラエルの安全をはかるためには中国の支援が不可欠だと発言した」と報じた。
イスラエルは、1948年の第1次中東戦争以来、米国と最も絆の強い同盟国であるが、イスラエル有力紙「ハーレツ」などによると、「北部ハイファでは、25年におよぶ港湾の運営・管理事業を中国政府系の上海企業が受注し、コンテナターミナルを完成させた」と報じた(同港には米海軍第6艦隊が停泊しており、米上院がイスラエルを批判している。)イスラエルは自国の生存のため、イラン核合意間接協議に暗雲が立ち込める中、あらゆる手段を駆使してイランの核開発を阻止したいという意思の表れではないだろうか。報道によるとイスラエルのエフード・オルメルト元首相(第16代、2006年から2009年就任)は、「エルサレム・ポスト」に対し、「イスラエルの生存がかかっている問題では、同盟関係を離れても独自に行動する自由がある」と主張している。
米CNNは、12月21日、米国のロバート・マレー・イラン担当特使が、イランの核開発の加速に危機感を示し、「このままのペースでイランの核開発が続けば、我々に残された時間は僅かである。イラン核合意の立て直しに向けた協議は停滞しており、イランが強硬姿勢を改めなければ、協議の打ち切りもありえると発言した」と報じた。ブリンケン国務長官も、12月21日の記者会見で、「イランが誠実に交渉に臨まない場合には、積極的に代替案や別の選択肢の検討を進める」と強調した。イランの強気の背景には「25年におよぶ経済、安全保障法包括協定締結や4千億ドルにのぼる融資計画」など、軍事・経済支援など中国の支援が見え隠れする。
イランの核合意の行方は今後、不透明・不確実さを増し、混沌とした情勢だ。米国、イスラエルおよびサウジアラビアなどの湾岸諸国対イランという単純な対立の構図は、変化を遂げ、中国の影響力拡大により、地域の同盟関係など力のバランスに地殻変動の兆候を見出すことができないだろうか。中東地域の平和と安定は、我が国にも大きな影響を及ぼすことを念頭にその行方をしっかり注視していかなければならないだろう。
サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。
写真:Abaca/アフロ
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