かかる観点から、2019年6月に明らかにされた「ASEAN OUTLOOK ON THE INDO-PACIFIC:AOIP」を見ると、玉虫色との印象はぬぐえない。ASEANの「自由で開かれたインド太平洋」への取り組みは、新たなスキームを提供するものではなく、既存のASEANを中心とした各種メカニズムを活用し、多くの国々の参加を求めることにより、インド太平洋の平和と安全を確保することを目指している。AOIPには、米中が先端技術等において鋭く対立し、インド太平洋が米中覇権争いの最前線にあるという見方は皆無である。ASEANの域外貿易最大相手国は中国であり、更には、カンボジア、ラオス及びミャンマーのように中国と政治的結び付きが強い国も存在する。このような中で、ASEANとして米中どちらにつくかという選択を行うことは難しいことは理解できる。しかしながら、ASEANがこのまま玉虫色の方針を続ける限り、ASEANの地盤沈下は避けられないであろう。
ASEANが一体性を維持することは、日本の安全保障上も重要な意味を持つ。南シナ海の領有権を巡っては、「二国間の話し合い」を主張する中国と、「多国間の枠組み」を主張するASEANとの間で対立していた。2018年11月のASEAN中国首脳会議で、実効性の欠ける「行動宣言(Declaration Of Conduct:DOC)」から、拘束力のある「行動規定(Code Of Conduct:COC)」に3年以内に格上げすることが合意された。COCの交渉状況は公表されていないが、中国がCOC制定に同意した背景には、ASEANが一体となって交渉の場を提供し、中国としてこれを無視することはできないと判断したためであろう。