◆この数日、秋雨前線の影響で東京は10月並みの肌寒さとなった。そんな天候とは裏腹に相場のほうは熱気を帯びてきた。菅首相が自民党総裁選に出馬しないとの報を受けた先週末、日本株は急伸した。この材料は政治リスクを後退させただけでなく、このところ鬱積していた閉そく感を吹き飛ばすきっかけになったのだろう。キーワードは「変化への期待」だ。

◆変化 ‐ 今思えばその予兆は少し前から見られていた。横浜市長選で菅首相が推した小此木氏が大差で敗れても株式相場は上昇で応えた。昨年9月から11ヶ月も連続して月内最終営業日は前日比マイナスで終えてきた日経平均が、8月末は大幅高となった。先週末に急騰を演じた日本株市場は「変化」の兆しを敏感に感じていたのだろう。

◆このタイミングでの菅首相の退陣はまったく予想できなかったが、それでも僕はこの政権に対する「違和感」を発足当時から少しだけ持っていた。昨年の著書で以下のように述べている。世界が格差是正のための再分配政策を掲げる政治に傾く中で、日本だけが真逆の新自由主義の政治家がトップについた。これは世界の政治の潮流に逆行する動きであると。

◆コロナ禍に見舞われた世間は、なにを差し置いても「公助」を求める。菅政権はコロナ対応の稚拙さが失点になって内閣支持率を落としたのはほぼ間違いないが、そもそも当初のスタンス、すなわち「自助」を基本とする新自由主義がコロナの時代に合わなかったということかもしれない。 主義自体の良し悪しよりも、政権の命脈はそれが時代に合うか合わないかである。コロナ禍で首相になった菅さんの場合、ツキがなかったといえばそれまでなのだけど、「ツキも実力のうち」‐特に政治家は‐ ではなかろうか。

◆自民党総裁選の行方は混とんとして見当がつかない。世論調査で「次の総裁にふさわしい人」のトップは河野さん、僅差で石破さんが続く。だが、僕の仮説「政権の命脈は主義主張が時代に合うか合わないか」が正しいとするなら、今の時代に合うのは再分配政策を重視する岸田さんということになる。ただ、仮にそうなった場合、マーケットは大丈夫か?おそらく大丈夫だろう。トリプルブルーのアメリカで株価は連日の高値更新なのだから。


マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:9/6配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)


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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【新潮流2.0】:時代に合わなかった新自由主義(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)