米インド太平洋軍PDIの内容は、2019年に米国の有力研究機関「戦略予算評価センター(CSBA:Center for Strategy and Budgetary Assessment)」が提唱した、「海洋圧力戦略(MPS:Maritime Pressure Strategy)」との共通性が指摘できる。この戦略は、米軍の正式な戦略ではないが、同研究所の研究が幾度となく米軍事戦略に取り入れられており、その影響力は無視できない。ASB(Air-Sea Battle)がその好例である。海洋圧力戦略は、米軍主要基地から東シナ海や南シナ海という中国との係争地が離れていることが前提にある。中国が、米軍兵力展開までの時間差を利用して既成事実を積み上げること阻止する事を目的に、いわゆる第一列島線上に対空、対艦(地)ミサイルのネットワークを構築、中国の艦艇及び航空機が西太平洋へ展開をけん制することを第一段階としている。そして、第二段階として、緊張がさらに高まり、中国が軍を西太平洋に展開する情勢になれば、第一列島線内に展開する潜水艦を中心とする兵力(インサイド戦力)と太平洋方面から投射する兵力(アウトサイド兵力)により、西太平洋への中国艦艇及び航空機の展開を阻止し、更には第一列島線に配備した長距離巡航ミサイルによる攻撃で、中国本土の反撃能力を低下させようとするものである。CSBAはこの体制整備にかかる費用として80~130億ドルと見積っている。デービッドソン海軍大将のPDIはそれよりも高額であり、第一列島線の兵力に加え、グアムを中心とする第二列島線の防御能力向上も含んでいるためと考えられる。