コロナショックを受けた政策対応により、各国政府の債務残高は著増した。IMFは、2020年の政府債務残高が対GDP比で18.7%増加し、戦後最高水準に達すると予想している。政府債務の急増にともなって、金融市場への影響に関心が向かうのも、やむを得ないところであろう。

世界銀行のレポート「Debt Intolerance: Threshold Level and Composition(以下、当レポート)」は、財政の脆弱性を、政府債務の水準と構成の両方に依存すると指摘している。先行研究であるEbeke and Lu (2015)は、新興国における海外部門による債務の保有が金利を低下させるものの、ラグ付きの債務比率(対GDP比)が90%を上回る、あるいはラグ付きの短期債務比率(対GDP比)が21.5%を上回ると、金利を上昇させる影響を持つことを示した。また、Brzoza-Brzezina・Kotlowski(2018)は、純対外金融資産(対GDP比)が約75%を下回ると、国のリスクプレミアムが顕著に上昇することを示した。当レポートは、これらの先行研究の延長線上として、2006年下期から2018年下期の先進国11ヵ国と新興国14ヵ国のデータを用いて、長期金利の非線形的な挙動をもたらす債務のしきい値と債務構成の役割が検証されている。

当レポートの主張は以下の3点である。第一に公的債務の水準が金利に与える影響は、例えホームバイアスによって緩和されるとしても、海外の民間部門が現地通貨建て政府債務を保有する比率が約20%を超えると指数関数的に上昇する。第二に公的債務の対GDP比が一定の水準を超えた場合には、海外の民間部門による政府債務の保有比率上昇が流動性の増加による長期金利の低下圧力を相殺し、長期金利を上昇させる可能性がある。第三に、当レポートで分析に使用したモデルは、以前に使用されていたモデルよりも正確である。

外国人投資家の国債保有比率が20、30、40%の場合、公的債務が金利に与える限界影響は1.7、3.3、5.5ポイントとなるが、海外の民間部門による保有比率が約20%以下の場合、長期国債の利回りに公的債務が大きな影響を与えないことを示している。一方、外国人投資家の保有比率が低い(高い)場合には、長期国債の利回りに大きな影響を与える公的債務のしきい値が高い(低い)ことを示している。例えば、外国人投資家の割合が15%と低めの場合、公的債務のしきい値は91%と高めであるが、外国人投資家の割合が 30%と高い場合には、公的債務のしきい値は59%と低めである。外国人投資家の保有比率にもよるが、公的債務の金利への影響が指数関数的に増加するため、外国人投資家の保有国債の増加は、たとえ債務水準が低くても長期金利の上昇を引き起こすことになる。当レポートの結論を参照すれば、政府債務が膨張しても金利が上昇しないのは、海外部門によって政府債務が部分的にしか保有されていない国に限られるのだろう。

最後に、急速に高齢化が進む日本では、現地通貨建ての国内資産の増加が鈍化することが予想されるため、いずれは外国人投資家が政府債務を吸収しなければならず、その結果、ソブリンリスクはこれらの動きに対してより敏感になると警戒的なメッセージが付けられている。

(株式会社フィスコ 中村孝也)



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情報提供元: FISCO
記事名:「 政府債務が膨張しても金利が上昇しないのは何故か?【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】