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中国複合企業、海航集団(HNAグループ)は4日、共同創業者で会長の王健氏(57)が、視察先のフランスで事故死したと発表した。同社が過剰債務で経営難に陥っている現在、同氏の突然の死去が国内世論に注目された。
AFP通信によると、仏警察当局は、王氏が現地時間3日午前11半ごろ、南仏プロバンスのボニュー村を視察で訪れた際、写真を撮ろうとして、遠方の景色を確認しようと高さ約10メートルの壁を登った後に転落したと発表した。警察当局は、不審死ではないとの見方を示している。
中国メディア「財新網」は、関係者の話として、「(壁に登る際)1回目が登れなかったため、2回目でやっと登れた」と報道した。
中国国内インターネット上では、王氏の死に多くの不審点があると指摘する声が上がり、「陰謀説」「自殺」もささやかれている。
大紀元の取材に応じた中国軍元将校の羅宇氏は、同氏の死について「不思議だ。もう若くないのに、なぜ壁を2回もよじ登ろうとしたのか」と首をかしげた。
中国時事評論家の唐靖遠氏も、「中国当局が、国内では政治・金融業界での反腐敗運動、国際関係では米中貿易問題、北朝鮮問題など様々な難題に直面している。そのなかで、巨大企業のトップの突然の死にはやはり多くの謎が残されている」と指摘した。
HNAは近年、国内金融機関から莫大な融資を受けて、積極的に海外買収を進めてきた。米メディアの昨年11月の報道によると、同社の債務規模が1000億ドル(約11兆円)に達した。
王氏の死亡で、同社の債務返済や経営の立て直しがさらに難しくなるとの推測が高まった。4日の香港株式市場では、HNA傘下企業の株価が大幅に下落した。
*不可解な「生前遺言書」
中国国内では、王健氏の死因について「信じられない」との意見を持つ人が多い。その中で、同社の株主や取締役たちの間で交わされた「生前遺言書」への関心が高まった。
香港英字紙サウス・チャイナ・モーニングポストの報道によると、昨年7月HNAが公表した株主構成では、共同創始者の王健氏と陳峰氏はそれぞれ同社の15%株式を保有し、大株主であることがわかった。両氏と、その他の10人の株主が保有する株式は全体の47.5%を占める。この12人の株主が、「HNAを離れた場合、あるいは在職中に死亡した場合、その保有株式は、HNAが設立した慈善団体、海南省慈航公益基金会(本部は海南省)と海南慈航慈善基金(本部は米ニューヨーク)が所有することなる」との内容を盛り込まれた協議書に署名した。
王氏が死亡した後、その15%株式が海南省慈航公益基金会に渡されるとみられる。海南省慈航公益基金会はHNAの22.75%株式を保有。海南慈航慈善基金は同社29.5%株式を持つ。王氏の約15%株式を加えれば、両基金会の合計保有株式が67.25%となる。
*謎の株式寄付
昨年HNA側が昨年7月従業員宛てに同社株主構成について、慈航基金会が海外の支社2社を通じてHNAの株式52.25%と、12人の株主が株式47.5%と公表した。しかし、株主名簿には、大株主とされる貫君氏の名がなかった。貫氏は同社の29%株式を保有しているとされた。
米紙ニューヨークタイムズの昨年の報道によると、貫氏はすでに、時価総額180億ドル(約1兆9800億円)規模の29%株式を米の海南慈航慈善基金に寄付した。
HNAの譚向東最高経営責任者(CEO)が当時、英紙フィナンシャルタイムズの取材に対して、「貫氏はわれわれの代わりに、株式を保有しているだけだ」と説明し、メディアからの疑問を呼び起こした。
同社の複雑な株式所有構造と株主による慈善団体への巨額寄付は、税金対策の一環との見方がある一方、米国在住の弁護士・葉寧氏は米政府系メディアラジオ・フリー・アジア(RFA)に対して、同社株主が「共産党上層部のホワイトグローブ」と述べた。
*「慈航基金会」トップは海南省元高官
中国の基金会業界情報サイト「基金会中心網」によると、海南省慈航公益基金会は2010年10月8日に創立した。曽浩栄氏が理事長を務める。同サイトが行う情報公開透明度の評価では、海南省慈航公益基金会は100点満点中の10.4に止まっている。
HNAが発行する出版物のなかで、曽浩栄氏は1990年海南省海口市の市長に就任した後、陳峰氏と王健氏と「協力関係と深い友情を築いた」と話した、と紹介された。
曽氏は海口市市長のほか、00年~07年まで海南省最高法院(裁判所)の院長(裁判長)を務めたことがある。江沢民政権で司法・公安機関を牛耳った元中央政治局常務委員の羅干と周永康の部下にあたる。
13年10月、HNAは20%株式を海南省慈航公益基金会に寄付した。曽氏は、陳峰氏と王健氏の要請で海南省慈航公益基金会の理事長に就いたと公に話したことがある。また、同基金会に寄付されたHNAの株式は陳氏と王氏の個人保有の株式だ。しかし、寄付は、HNAグループの名義で行われた。
当時陳氏ら2人の株式寄進について、一部の専門家は資産移転に関係し、曽氏が2人の代理として株式を保有しただけだとの見解を示した。
*HNAと江沢民派との関係
HNAの大株主である海南省慈航公益基金会のトップが海南省元高官である一方で、HNAが89年創業当時から、資金調達で当時の劉剣峰・海南省省長からの後押しを受けた。
劉氏の経歴をみると、84年中国電子工業部の副部長兼規律検査組の組長を務めた。88年、海南省党委員会副書記。89年海南省省長。93年、再び電子工業部副部長。97年、国有通信大手の中国聯合通信有限公司(チャイナ・ユニコム)の会長に就任。98年、民間航空監督管理機関の中国民用航空総局の局長と務めた。
中国共産党元トップの江沢民は、83年~85年まで電子工業部の部長だった。93年は、江沢民政権の真っ只中。劉氏と江沢民氏は、部下と上司の関係だった。
チャイナ・ユニコムは、江氏の長男の江綿恒氏が実質のオーナーが務める江一族の利益地盤だとされている。
一方、国内外メディアによると、王健氏と陳峰氏はかつて民間航空総局で勤務したことがある。HNAを設立した前、王健氏は、海南省政府の管理下の投資企業、中国興南公司で要職を務めた。
英紙フィナンシャルタイムズの昨年6月の報道では、93年劉剣峰氏の支援で、HNAの前身である海南航空は海南省政府から1000万元の融資を受け、会社を設立させた。王健氏も、同政府の指示で海南航空に入社した。
江沢民派がHNAの後ろ盾である可能性が高い。06年4月20日、海南省で開催されたボアオ・アジア・フォーラムに出席した曽慶紅元副国家主席が、陳峰氏と会談した。当時国内政府系メディアは、曽氏と陳氏が「リラックスした雰囲気の中で愉快に会話を交わし、記念写真を撮影した」と報道した。
*共産党根拠地で思想教育
中国当局は昨年、資本流出や企業債務削減の回避策として、中国大企業の海外買収案を規制する方針を打ち出した。これ以降、資金難でHNAが国内外の不動産や他の資産を次々と売却した。
今年6月中旬に中国当局が突然、HNAの社債発行を認可した。ブルームバーグは情報筋の話として、当局がHNAについて「政治的な問題」がなく、流動性がひっ迫しているだけだとの認識を示した、と報じた。
この直後、王健氏を含むHNA上層部の20人余りは6月20日、中国共産党の根拠地、「革命の聖地」とも呼ばれる延安の共産党学校に訪ね、共産主義について研修を受けた。王健氏ら幹部は研修中、かつての八路軍の軍服を身に着け、共産党を賛美する歌を歌い、共産党政権への忠誠心を誓った。幹部らはまた、今後延安市で同社の社員長期研修基地を造ると表明した。
国内インターネット上では、党の歓心を買うHNA幹部らの行動について「めちゃくちゃな話だ」「ゴマすりを始めた」などと批判の声が上がった。
一部の有識者は、「民営企業であるはずのHNAは、しょせん中国当局の権貴らが蓄財するための『ATM』に過ぎない」と非難した。
「革命の聖地」で「革命思想」を改めて学習した王健氏がその2週間後に不審な事故死を遂げたことに、中国人ネットユーザーが「共産主義に媚びれば、やはり不吉なことが起きる」と切り捨てた。
一方、RFAは5日、事故現地の観光部門に取材したところ、「転落事故の報告を受けていない」と伝えた。さらに、近くの最大規模の病院も「王という患者が搬送されて来ていない」と話したという。現場付近に小さな診療所と歯科医院以外に医療機関はない。
(翻訳編集・張晢)
【ニュース提供・大紀元】
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