今月初旬、行動経済学会の年次大会が開催されました。今回興味深かったのは、金融広報中央委員会による、金融知識と投資動向に関する調査発表でした。これは、今年の2~3月、全国25,000人もの個人に対し51の質問を行い、都道府県や性別、年齢毎の傾向を分析したものです。この規模の一斉調査は世界初とのことです。

質問の中に、「10万円投資すると半々の確率で2万円の値上がり益か、1万円の値下がり損のいずれかが発生するとします。あなたは投資しますか」という問いがあります。行動経済学でいう「損失回避バイアス」の強さを試す質問です。

「損失回避バイアス」の理論では、国・地域に関わらず、人は一般に、損をするのは儲けることの2倍イヤだとされます。損をするリスクのある賭けは、2倍以上儲けられる可能性がないと乗らないということです。この問いでは、勝ちと負けの倍率が、ちょうどボーダーラインの「2倍」なので、投資する人と投資しない人が概ね半分ずつになることが想定されています。

ところがこの問いかけでは、全国平均で78.6%もの人々が「投資しない」と答えました。8割近くの人が、利益が損失の2倍では、投資するには不足だと考えたということです。

「日本人が投資に消極的なのは、過去20年以上もデフレだから、当然だし合理的」とも言われます。しかしそれだけでもないようです。この調査によれば、金融知識問題の正答率が低い人ほど、損失回避志向が高い傾向がみられました。逆にいえば、金融を知る人ほどリスクを取るということです。

最も知識レベルが高かった5,000人については、先の質問に対し平均よりかなり多い35%の人が「投資する」と答えました。最も知識が少なかった5,000人では10%でしたので、その3倍以上です。因みに、一説によれば、米国ではこの逆で、金融をよく知らない人ほどリスクを取る傾向がみられるそうです。

さらに、この調査では、データを県別に統計しています。最もリスク回避志向が強かった県は、山形県。これに、北海道と青森県が続きます。北の地方が多いようです。

逆にリスクテイカーが全国一多かったのは、茨城県です。次点は岡山県、そして香川県です。私事ながら茨城県は私の出身地です。茨城県は、日銀総裁も首相も過去一人も出しておらず、「全国魅力度ランキング」でも4年連続最下位です。何となく意外感のある結果でした。

しかし、確かに言われてみれば、茨城県で最も有名な人物である黄門さまこと水戸光圀公は、日本で最初にラーメンやチーズを食べた人物とされます。ラーメンはまだしも、少々臭みのあるチーズを食べるとは、なかなかの知的好奇心とリスク選好度の持ち主だったのではないでしょうか。

年明け1月からiDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)の加入対象範囲が拡大され、制度の浸透が期待されています。金融知識が投資を促し、投資することでまた知識が増えるという好循環に入っていく契機になるかもしれません。その一助となるよう、光圀公のような好奇心とリスクテイクをモットーに調査し発信していきたいと、来年に向けての決意を新たにしました。

マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那

(出所:12/19配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より、抜粋)




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情報提供元: FISCO
記事名:「 コラム【アナリスト夜話】:金融と投資の“ケンミンShow”(マネックス証券 チーフ・アナリスト 大槻 奈那)