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株式会社ビジネス社(東京都新宿区:代表取締役社長 唐津隆)は、2016年12月7日に、『昭和史 上 松本清張と私』『昭和史 下 松本清張と暗黒史観』の2冊を同時発売いたしました。
本書は2005年12月に小社より刊行された『昭和史-松本清張と私』を上下巻に分けて新書版にしたものです。
没後25年経つ今も、小説はもとよりドラマなどでも根強い人気を誇る国民的作家、松本清張。日本の社会の暗部、未解決事件などを鋭く読み解く独特の清張史観は、昭和から平成にかけて多大な人々に影響を与えてきました。
本書の著者である評論家の大御所、渡部昇一氏もその一人です。渡部氏は、1958年、ドイツ留学から帰国後、松本清張の「真贋の森」を読んだところ、瞬く間に清張文学のとりこになり、以後、新刊のほぼすべてを読破してきました。
本書の題材となっている1971年に出版された『昭和史発掘』についても、立花隆氏の『日本共産党の研究』とともに「調査ジャーナリズム」の二大金字塔と絶賛しています。
では、なぜそのように大絶賛した本に疑義を呈しているのでしょうか。それは、『昭和史発掘』が取り上げている戦前戦中が、暗い世の中だったといういわゆる「暗黒史観」、あるいは「戦前戦中を暗く描いたのは、その間に逮捕されていた社会主義者たちだから」だという評論家の山本夏彦氏の表現を借りて「お尋ね者史観」からのみ描かれているからです。
著者は『昭和史発掘』の編集を担当した文藝春秋の女性編集者、藤井康栄氏はイデオロギーに左右されずに資料を収拾した反面、共産党員だった松本清張が時代の暗い側面ばかりを掘り下げて発表したと指摘。「当時の日本が他国には例を見ないような穏やかでいい国であった側面をほとんど消してしまったこと」が、『昭和史発掘』の唯一の欠点だとしています。
そこで本書において著者は、昭和史発掘に描かれたうちの13の問題、すなわち
「陸軍機密費問題【軍部】」
「石田検事の怪死【謀殺】」
「朴烈大逆事件【国家】」
「芥川龍之介の死など【作家の死】」
「北原二等卒の直訴【軍隊】
「日本共産党の問題【共産党】」
「満洲某重大事件【満洲】」
「佐分利公使の怪死【幣原外交】」
「潤一郎と春夫【文壇】」
「天理研究会事件【新興宗教】」
「京都大学の墓碑銘【大学】」
「天皇機関説【天皇】」
「二・二六事件と青年将校【叛乱】」
を上下巻にわたって取り上げて、その読み替えを行いました。
たとえば、「陸軍機密費問題」とは、大正末期、田中義一陸軍大将が政友会の総裁に就任する際に、手土産として持参した300万円(現在の価値にしておよそ45億円)の出所をめぐる疑惑事件です。軍事機密費を田中が流用した疑いがあることから、そう呼ばれます。松本清張は、この件が結局ウヤムヤのうちに葬り去られたことを指摘し、それこそが「日本の悪」ととらえます。他方、著者はたとえ陸軍大将といえども、300万円という大金を作って政党に入らなければ、政治を動かせるような時代ではなかった。つまり、シビリアンコントロール(議会制民主主義)が利いている健全な時代だったという見方を提示しています。
さらに、この件に絡んでやはり『昭和史発掘』で描かれた、1920年にロシア人などによって引き起こされた「尼港事件」の正確性や、日本が第一次世界大戦参戦に消極的だったことから決して好戦的な軍国主義ではなかったことなど、清張史観を次々と鮮やかに読み替えていきます。
自身も戦前、戦中、戦後の日本を見続けており、それでもなお、清張ファンを自認する著者ならではの分析、そして、昭和史の新たな発掘作業は読みごたえ満載です。著者ファンはもとより、清張ファン、そして昭和に興味があるすべての人必読の1冊です。
著者:渡部昇一(わたなべ・しょういち)
上智大学名誉教授。1930年、山形県生まれ。1955年、上智大学大学院修士課程修了。ドイツのミュンスター大学、イギリスのオックスフォード大学に留学。ミュンスター大学哲学博士(1958年)、同大学名誉哲学博士(1994年)。第24回エッセイストクラブ賞、第1回正論大賞受賞。深い学識に裏打ちされた鋭い評論で知られる。専門書のほかに、『知的生活の方法』『自分の壁を破る人、破れない人』をはじめ多数の著作があり、ベストセラー、ロングセラーを続けている。最新刊に『日本人の遺伝子』(ビジネス社)などがある。
(著者)渡部昇一
各(価格)1,000円+税
〈発売日〉2016年12月7日
〈出版元〉ビジネス社
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