『顎がゆるめば、不調は改善される』
(クロスメディア・マーケティング)
むし歯、歯周病、知覚過敏……。
現代人を取り巻く歯の問題は多くありますが、皆さんはご自分の「噛み合わせ」について考えたことがありますか?
正しい噛み合わせができている人はほとんどいない、と言う滝沢聡明氏。
今回は、噛み合わせの大切さと歯科医が勧める「予防歯科」についてお教えします。
私は日ごろから噛み合わせの大切さを患者さんに啓蒙しているのですが、残念ながら当院の患者さんの中で、噛み合わせだけをチェックしに来るような方はまずいません。むし歯や歯周病の症状があって来院された方に、こちらから噛み合わせのズレを指摘することがほとんどです。
まれに「ものが噛みづらい」ということで来院される方がいますが、そう感じる頃にはすでにかなり噛み合わせが悪くなっている場合があります。
極端な例では、下の歯が上顎の歯ぐきに直接当たっているような人もいるんです。本来は歯と歯がぶつかるはずが、上顎に直接当たってしまうことで歯肉に傷がつき、口内炎ができ、腫れや出血、痛みの症状を訴えてくる方もいます。
また、それが原因で出っ歯になる人もいれば、「鳥貌」(ちょうぼう)といって、鳥のように上顎が前に出てしまう人も。このように大きくズレている場合は、矯正をしたり、奥歯の高さを整えたり、差し歯を交換したりして歯と歯がきちんと当たるように戻してあげる治療が必要になります。
なぜここまで大きくズレてしまうのか?
原因の1つに、歯の治療時の高さ調整があります。
歯の治療のときに、最後に銀歯などかぶせものをしますよね。一般的に、このときの調整で噛み合わせの位置が低くなる傾向があるんです。「それって医療ミスでは」と心配しないでください。歯医者さんはもちろん、わざと低くしているわけではありません。これにはちょっと困った理由があるんです。
たとえば、むし歯になって歯を削ったとしますよね。治療後は削った部分に銀歯で蓋をかぶせるので、まずは型を取って、銀歯が完成するまでは代わりに仮のかぶせものをします。
このとき仮のかぶせものは高さ調節までせずに単純に欠けた部分を保護している場合もあり、歯の表面はフラット~やや低めになっています。およそ1週間後、完成した銀歯ができたら仮のかぶせものをはずし、銀歯をはめこみます。
と、ここで問題が発生します。
それまで仮のかぶせものに慣れていた患者さんは、本来正しいはずの高さに調整しても、噛んだときにカチカチと歯が当たってることで、銀歯に違和感を覚えます。
「いまの状態では高さが合っていない」
「もっと低めにしてほしい」
と歯科医に依頼するんです。
患者さんが高いと感じているなら歯医者もNOとは言えませんから、言われた通り低めに調整します。そのときは低くしたことで患者さんもしっくりくるのですが、実際は自分で感じているよりも低くなってしまうことが多いんです。
そして患者さんの「低くしてほしい」という要望に応え続けた結果、同じことを別の歯でも繰り返し、奥歯から順にどんどん低くなり、噛み合わせもどんどんズレていってしまう、ということなんです。
私たち歯科医は、低めに設定する傾向があると把握しているので、自分が治療を受けたときに「高いな」と感じても、そのうち慣れてくるはずだとわかっているので調整は少なくします。もし数日経っても違和感があるようなら、それから調整すればいいのですから。
患者さんは何度もクリニックに通うのは面倒だし、歯科医も早く終わらせてあげたいと思うので、つい低めに調整してしまう傾向にあるんですね。
でも、それが原因で何年後かにしっぺ返しが来るということを患者さんには知っておいてほしいですし、歯科医もきちんと意識して治療に取り組むことが大切だと思います。
どんな医療にも言えることですが、「体調が悪くなったら病院に行けばいい」という考え方でいるより、病院にかからなければいけない状態にならないよう、患者さん自身が普段から気をつけて生活をすることが大切です。健康はなにものにも代えられませんし、手がつけられない状態になってから後悔するのでは遅いのです。
こちらの記事「むし歯や歯ぐきが衰える理由 高齢になっても歯が残せるか?」でもふれたように、たしかに歯の質が良くてむし歯にほとんどかからない方はいます。
しかしそれに慢心して歯磨きをサボり、甘いものばかり食べていたら、いつの間にかどんどん大きなむし歯へと成長し、大切な歯を失ってしまう確率もゼロではないのです。
普段から〝予防歯科〟を取り入れて、健康的な歯や歯ぐきを維持したいものですね。
クリニックで行う予防歯科として一般的なのは、定期健診などで歯にフッ素を塗ったり、歯石を取ったりするというもの。これらの方法は最近では定着してきたように思います。
ただそれに加えて、噛み合わせのズレも定期健診でチェックする項目に加えた方がいいと私は思っています。噛む力が左右どちらかに偏っていないか、骨が悲鳴を上げているところがないかをチェックして、問題があれば適宜調整する必要があります。
ご家庭での予防歯科も、一般的には歯をよく磨くことや洗口液を使うというイメージだと思いますが、それだけではダメなんです。バランスの良い噛み合わせをして、噛むときの力を分散させないと、口内環境が悪化していくこともあるということをみなさんには覚えておいていただきたいです。
「どの歯ブラシを使えばいいですか?」
「どの歯磨き粉を使えばいいですか?」
「お勧めの洗口液を教えてください」
こういった質問、患者さんから聞かれることがとても多いです。さまざまな商品のテレビCMが流れているので、つい意識してしまうかもしれませんが、歯ブラシや歯磨き粉というのは、個人的にはどれを選んでもそれほど大きな差はないと思っています。
道具を選ぶことよりも、毎日丁寧に時間をかけて磨くことの方が大切です。ただ、フッ素は塗っておいて損はないと思います。フッ素には歯の表面が酸性になるのを防ぎ、むし歯になりにくい歯をつくることが期待できるので、フッ素の入った歯磨き粉を選ぶのはいいですね。
購入する際は味や値段で選ぶのではなく、パッケージに書かれた成分を確認するようにしましょう。
今回は、「噛み合わせ」と「予防歯科」について紹介しました。噛み合わせや予防歯科を意識するかしないかで大きく歯の健康が変わってくるのではないでしょうか。ぜひ、今回紹介したポイントを普段の生活に取り入れてみてください。