ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)の測定原理

芝浦工業大学(東京都江東区/学長 山田純)工学部・李ひよん准教授(光波センシング研究室)らの研究チームは、ひずみ(伸び)や温度の分布情報を得るための光ファイバーセンサーにおいて、装置を追加することなく光源の変調振幅※1を見積もり、どの程度の細かい分布測定を行えるかを示す重要な性能指標「空間分解能」※2を正確に推定する新手法を開発しました。
光ファイバー中で生じるブリルアン散乱※3を利用したひずみ・温度の分布センシング方式「ブリルアン光相関領域反射計」(以下、BOCDR)※4では、空間分解能を把握するために、光源における変調振幅の測定が必要不可欠です。従来の測定では、高価で複雑な装置が必要でしたが、今回、レイリー散乱※5を併用することで、追加の装置やシステムの変更を伴わずに変調振幅を見積もる方法を開発し、空間分解能の正確な推定が可能となりました。この技術を活用することで、老朽化した、あるいは、地震等による被害を受けたインフラ施設を効率的に監視できるようになることが期待されます。
※この研究成果は、「Scientific Reports」誌に掲載されています。


■ポイント
・ひずみ・温度の分布センサー「ブリルアン光相関領域反射計」では、重要な性能指標「空間分解能」の把握のために、光源の変調振幅の測定が必要不可欠
・従来は高価な装置や煩雑なシステムが必要であったが、今回、追加装置やシステムの変更を伴わずに変調振幅を間接的に測定する手法を開発
・社会課題となっている老朽化した、あるいは、被災したインフラ施設等の効率的な健全性診断に有用

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/401606/LL_img_401606_1.jpg
ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)の測定原理

■研究の背景
インフラ施設の老朽化や地震による被害は、社会的に大きな課題となっています。光ファイバーセンシングは、これらのインフラ施設が問題なく使用できるかを監視するための効果的な手法となり得ます。これは、施設内に埋め込んだ長尺の光ファイバー沿って、ひずみや温度の分布を検出することで実現できると考えられます。このとき、光ファイバー中で生じるブリルアン散乱が利用されます。
ブリルアン散乱は、光ファイバー中の微弱な音響波による光の非弾性散乱※6です。散乱の前後で光の周波数が変化し、その変化量に基づいて、ひずみや温度を推定することができます。ブリルアン散乱を用いてひずみや温度の分布を測定する手法はいくつか知られていますが、その中でも「ブリルアン光相関領域反射計」(以下、BOCDR)は、高い空間分解能とランダムアクセス性※7を有し、測定ファイバーの片端への光入射で動作するという特長を兼ね揃えている唯一の方式です。
BOCDRを含む分布型センサーにとって極めて重要な性能指標が「空間分解能」です。これは、測定ファイバーに沿って、どの程度細かくひずみや温度の分布を測ることができるかを表します。BOCDRにおける空間分解能は、光源の変調振幅によって決定されます。従来、変調振幅の測定には、高価な光スペクトラムアナライザーや煩雑なヘテロダイン検出システムが必要でした。


■研究の概要
そこで、研究チームは、BOCDRにおいて、光が波長よりも小さな微粒子によって散乱される「レイリー散乱」を併用し、変調振幅を、ひいては、空間分解能を間接的に正確に推定する手法を提案しました。本手法では、レイリー散乱によって誘起されるノイズのスペクトル幅を分析し、光源の変調振幅を従来よりも正確に見積もります。BOCDRに対して、追加の装置やシステムの変更を必要としないのが特長です。


■今後の展望
空間分解能を正確に推定するための本手法は、装置の追加やシステムの変更を伴わないため、今後、BOCDRの普遍的な技術になることが期待されます。結果として、老朽化・被災したインフラ施設の健全性診断の効率化が促進されると考えられます。


■語句解説
※1 変調振幅
BOCDRでは、光源となる半導体レーザーの駆動電流を直接変調することで、出力光の周波数を変調できます。変調振幅は、周波数変調が施されたレーザー光の周波数の変動振幅を意味します。
※2 空間分解能
分布型光ファイバーセンサーの性能指標の1つで、測定ファイバー上の近接した2点をそれぞれ独立して識別できる最小の距離。値が小さいほど、空間分解能は高いといえます。なお、BOCDRにおける空間分解能は、レーザー光に施す周波数変調の変調振幅に反比例します。これまでに、mmオーダーの空間分解能が達成されています。
※3 ブリルアン散乱
光ファイバーに強い光を入射すると、ガラスを構成するSiO2分子が振動し、この振動が音響波として伝搬します。ブリルアン散乱は、音響波によって生じる散乱で、その散乱光は入射光よりも周波数が低くなります。
※4 ブリルアン光相関領域反射計(BOCDR)
ブリルアン散乱を用いた分布型光ファイバーセンサーの方式。連続光の相関制御によって位置分解を行い、測定ファイバーの片端からの光入射で動作するのが大きな特長です。これは、敷設時の自由度が高い上、測定ファイバーが破断してもその箇所までは分布測定を継続できることを意味します。
※5 レイリー散乱
レイリー散乱は、光の波長よりも小さいサイズの粒子により発生し、その散乱光は入射光と周波数が同一です。光ファイバー中のレイリー散乱は、媒質中の密度揺らぎにより発生します。
※6 非弾性散乱
光の散乱のうち、散乱光の周波数が入射光に対して変化するもの。光ファイバー中で生じる散乱光では、ブリルアン散乱とラマン散乱が挙げられます。一方、レイリー散乱は、散乱光と入射光が同一の周波数となる弾性散乱です。
※7 ランダムアクセス性
測定ファイバー中の特定の位置におけるひずみや温度のみを選択的に高速で測定できる性質。


■研究助成
本研究の一部は、JSPS科研費21H04555および22K14272の助成を受けたものです。


■論文情報
著者 :
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士1年 菊地 啓太
芝浦工業大学大学院理工学研究科 准教授 李 ひよん
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修士1年 井上 諒
横浜国立大学大学院工学研究院 修士2年 尾崎 滉太
芝浦工業大学大学院理工学研究科 修了生 捧 治紀
横浜国立大学大学院工学研究院 准教授 水野 洋輔
論文名:Accurate estimation of modulation amplitude in Brillouin optical correlation-domain reflectometry based on Rayleigh noise spectrum
掲載誌:Scientific Reports
DOI :10.1038/s41598-024-56426-2


■芝浦工業大学とは
工学部/システム理工学部/デザイン工学部/建築学部/大学院理工学研究科
https://www.shibaura-it.ac.jp/
理工系大学として日本屈指の学生海外派遣数を誇るグローバル教育と、多くの学生が参画する産学連携の研究活動が特長の大学です。東京都(豊洲)と埼玉県(大宮)に2つのキャンパス、4学部1研究科を有し、約9,500人の学生と約300人の専任教員が所属。2024年には工学部が学科制から課程制に移行。2025年にデザイン工学部、2026年にはシステム理工学部で教育体制を再編し、新しい理工学教育のあり方を追求していきます。創立100周年を迎える2027年にはアジア工科系大学トップ10を目指し、教育・研究・社会貢献に取り組んでいます。
情報提供元: @Press