図1 2次元スキャナーによる計測の様子
図2 多対センサーモジュール
図3 (a)従来の計測手法と、(b)今回開発した2次元スキャナーによる計測の流れ
NEDOの「官民による若手研究者発掘支援事業(若サポ)」(以下、本事業)のマッチングサポートフェーズで、大阪大学産業科学研究所・千葉大地教授らの研究グループ(以下、研究グループ)は、独自に開発してきた永久磁石法を発展させ、1回のスキャンでコンクリート構造物内部の鉄筋の配筋状態を非破壊で可視化できる新たなセンサーモジュールを開発しました。これを搭載した2次元スキャナーの試作機(以下、プロトタイプ)を用いて、コンクリート構造物の配筋状態を計測したところ、作業時間を従来比30分の1以下に短縮しました。
また、研究グループは協栄産業(株)と、本事業のマッチングサポートフェーズで開催した研究シーズ紹介イベントを通じて産学連携に向けた協議を行ってきました。両者は7月から本事業の共同研究フェーズで共同研究を開始し、今回開発した技術を用いた小型スキャナーの製品化を目指します。これにより、点検業務の効率化を図るほか、コンクリート構造物の老朽化などによる事故の発生を回避し、より安全・安心な社会の構築に貢献します。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/360863/LL_img_360863_1.png
図1 2次元スキャナーによる計測の様子
1. 背景
コンクリート構造物に埋設された鉄筋を非破壊で検査するため、電磁波レーダー法※1を用いたスキャナーが広く普及しています。しかし、電磁波の反射時間はコンクリートの湿潤状態や内部の空洞の有無などに影響を受けるため、鉄筋の埋設の深さを正しく計測できないという課題がありました。
研究グループは、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実施する本事業のマッチングサポートフェーズ※2において、永久磁石と一対の磁気センサーを組み合わせたセンサーモジュールを用いた永久磁石法※3の実証を進めてきました。永久磁石法は、電磁波レーダー法に比べてコンクリートの湿潤状態や空洞の有無などの影響を受けにくい計測方法であり、鉄筋の埋設の深さや鉄筋径を正確に計測できることも実証してきました。
また、電磁波レーダー法などの従来の方法では、センサーの位置を少しずつずらしながら1次元データのスキャンを繰り返し、得られた結果をまとめて2次元画像として配筋状態を可視化していたため、計測に時間を要することが大きな課題でした。このような背景の下、研究グループは、永久磁石法を用いて、コンクリート構造物内部における鉄筋の配筋状態を1回のスキャンで2次元画像として取得できる技術※4の開発を進めてきました。
2. 今回の成果
(1)多対センサーモジュールの開発
研究グループは、永久磁石法を発展させ、多数の磁気センサーを集積配置することで、1回のスキャンで配筋状態を2次元画像として可視化できる多対センサーモジュールを開発しました。多対センサーモジュールは多数の磁気センサーが向かい合って整列した構造で、その近傍に棒状の永久磁石が配置されています(図2)。
画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/360863/LL_img_360863_2.png
図2 多対センサーモジュール
(2)高速2次元スキャンの実証
多対センサーモジュールをロボシリンダーに搭載した2次元スキャナーのプロトタイプを用いて、コンクリート中の配筋状態を2次元画像として取得できるか検証しました。永久磁石法にとって、コンクリートは空気と同じであるため、鉄筋がコンクリートに埋設されているか否かは計測結果に影響しません。そこで、検証では、コンクリートに埋設されていないシンプルな格子状の鉄筋サンプルを室内の実験室に準備し、その手前でセンサーモジュールを搭載したロボシリンダーで自動スキャンしました(図3)。
その結果、縦方向約0.5m×横方向(スキャン方向)約1mの配筋状態に対応する2次元画像を約45秒で取得することに成功しました。1次元データのスキャンを何度も取得し、そのデータをまとめて2次元画像とする従来の方法に比べて、作業時間を30分の1以下に短縮することができました。
画像3: https://www.atpress.ne.jp/releases/360863/LL_img_360863_3.png
図3 (a)従来の計測手法と、(b)今回開発した2次元スキャナーによる計測の流れ
3. 今後の予定
研究グループは、本事業のマッチングサポートフェーズで開催した「若手研究者の研究シーズ紹介イベント」を通じて、協栄産業(株)※6と産学連携の協議を行い、7月から本事業の共同研究フェーズ※5を活用した研究開発の取り組みを開始しました。今後、研究グループと協栄産業(株)は、技術精度の向上に努めるとともに、協栄産業(株)のエレクトロニクス業界で培ったハードウェア開発技術、ソフトウェア開発技術を駆使し、1人の計測者でも取り扱い可能なサイズのスキャナーの製品化を目指します。これにより点検業務の効率化を図るほか、コンクリート建造物の老朽化による事故の発生を回避し、より安全・安心な社会の構築に貢献します。
【注釈】
※1 電磁波レーダー法
電磁波をコンクリート表面からコンクリート内に入射すると、コンクリート内部の鉄筋や非金属管、空洞などから電磁波が反射することを利用した非破壊鉄筋探査手法です。反射した電磁波が戻るまでの時間から距離を算出できます。
※2 マッチングサポートフェーズ
事業名 : 官民による若手研究者発掘支援事業/共同研究フェーズ/
永久磁石と磁気センサを用いた新規非破壊鉄筋計測システムの創出
事業期間: 2021年度~2023年度
事業概要: https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100166.html
※3 永久磁石法
1個の永久磁石と2個(一対)の磁気センサーの組み合わせからなるセンサーモジュールを用いた非破壊鉄筋探査手法です(今回の成果は、磁気センサーを多対構造にしています)。鉄筋に永久磁石を近づけると、永久磁石からの漏れ磁束を鉄筋が吸い込む性質により、永久磁石周囲の磁界が変化します。この磁界の変化を磁気センサーで観測することにより、コンクリート内に埋設された鉄筋の有無や埋設深さ、太さなどを測定する手法です。鉄筋が近づくことによる磁界の変化に違いが生じる位置に磁気センサーを二対配置しており、両者の出力の差分をとり、増幅することにより、高感度にシグナルを検出することが可能となります。
※4 1回のスキャンで2次元画像として取得できる技術
紹介動画: https://youtu.be/w254FoNVQ1E
※5 共同研究フェーズ
事業名 : 官民による若手研究者発掘支援事業/マッチングサポートフェーズ/
永久磁石と磁気センサを用いた新規非破壊鉄筋計測システムの創出
事業期間: 2023年度~2025年度
事業概要: https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100166.html
※6 東京都品川区 代表 平澤 潤
事業内容:販売(半導体、電子デバイス、産業機器、情報通信機器、
環境対応製品、3Dプリンター、プリント配線板 など)
開発(ソフトウェア、アプリケーション、システムソリューション、
エンベデッドシステム、ICデザイン など)
製造(プリント配線板、情報通信機器など)
【会社概要】
商号 : 協栄産業(株)
東京証券取引所 スタンダード市場(コード番号:6973)
代表者 : 代表取締役社長 平澤 潤
所在地 : 〒140-0002
東京都品川区東品川4-12-6 品川シーサイドキャナルタワー
設立 : 1947年10月
資本金 : 31億6,181万円
事業内容: 半導体、電子デバイス、金属材料、産業機器、情報通信機器、
環境対応製品、3Dプリンター、プリント配線板の販売。
ソフトウェア、アプリケーション、システムソリューション、
エンベデッドシステム、ICデザイン等の設計・開発。
プリント配線板、情報通信機器の製造。
URL : https://www.kyoei.co.jp/
情報提供元: @Press