性、飲酒習慣、rs671多型の遺伝型毎に、BMIと関連する食行動

株式会社ジーンクエスト(本社:東京都港区、代表取締役:高橋 祥子)および、国立大学法人東京大学大学院農学生命科学研究科 健康栄養機能学社会連携講座(東京都文京区、加藤 久典特任教授)による共同研究により、お酒の代謝に関わる遺伝子多型(SNP)※1の遺伝型別に多様な食行動と体格(BMI※2)の関連度合いが異なることを発見し、その成果が専門誌「Nutrients」にて2022年12月1日に公開されました。


◆研究結果の概要
プレシジョン栄養は、各個人の最適な栄養を提案し実行することを示す、近年世界的に注目されている学問領域です。
本研究では、日本人約1万2千人の遺伝子情報を解析し、お酒の代謝に関わる一塩基多型(SNP)の遺伝型別に多様な食行動と体格(BMI)の関連度合いが異なることを発見しました。さらに、このSNPの遺伝型別に、体格に関連する食行動を示し、飲酒習慣がない方に限定しても遺伝的にお酒が強いタイプと弱いタイプでは、体格(BMI)と関連する食行動が異なることが分かりました。
本研究から、このSNPがお酒に対する体質だけでなく、様々な食行動を介して体格に影響している可能性が推測されました。これらの成果は、日本人のプレシジョン栄養の知識基盤となることが期待されます。


◆研究の背景
プレシジョン栄養とは、「年齢、ライフステージ、性別、ゲノム、エピゲノム、腸内細菌、睡眠(休息)、運動や活動度、体格や体組成、血液などにおけるバイオマーカー、病歴、ストレスや精神状態、食事履歴、嗜好、季節や時刻を含むさまざまな因子を統合して導き出される、各個人のそのときの状態において最適な栄養を提案し実行すること」と私たちは定義しています。この研究分野は、米国国立衛生研究所(NIH)が2020年5月に発表した10年間の戦略プランとして揚げられており、世界的にもその重要性が認識されています。
ゲノムの中のSNPは、遺伝的な体質に影響することが知られています。特に、東アジア人に特有のアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子上のSNPであるrs671多型は、飲酒への感受性に強く影響します。遺伝的体質として、rs671多型の遺伝型がGG型である人の場合はお酒に強く、GA型ではお酒に弱く、AA型ではお酒をほとんど飲めない方となります。私たちはこれまで、このrs671多型が飲酒行動だけでなく、魚摂取頻度やコーヒーおよび紅茶の摂取量、さらに甘味嗜好性に関連することを報告してきました(注1-4)。また、このSNPはいくつかのがんや肥満などの発症リスクとなる他、血圧や体格指数(BMI)などの健康指標とも関連することが報告されてきました。しかし、これまでrs671多型と食行動およびBMIの3者の関連性は不明でした。
注1) 魚の摂取頻度と遺伝子の関連 https://genequest.jp/topics/news/0/363
注2) コーヒーの摂取頻度と遺伝子の関連 https://genequest.jp/topics/news/0/366
注3) 甘味の嗜好性と遺伝子の関連 https://genequest.jp/topics/news/0/420
注4) 紅茶の嗜好性と遺伝子の関連 https://genequest.jp/topics/news/0/437


◆研究結果の詳細
本研究では、日本人約1万2千人のゲノム情報およびWebアンケート情報を元に、rs671多型・食行動・BMIの3者間の関連性を解析しました。なお、本研究での解析はすべて男女別に行いました。
まず、56種類の食行動とBMIが関連するかを検討したところ、男性で18、女性で21の食行動が有意にBMIと関連することが観察されました。次に、解析群を飲酒者および非飲酒者に分けた後、食行動とBMIとの関連にrs671多型の遺伝型との交互作用※3があるかを解析したところ、飲酒習慣に関わらずすべての群で交互作用が認められました。この結果は、rs671多型が食行動とBMIの関連を修飾していることを示唆しています。さらに、ステップワイズ回帰という手法を用いて、rs671多型の遺伝型および飲酒習慣毎にBMIと関連のある食行動を観察しました。この結果、性、飲酒習慣、rs671多型の遺伝型毎に異なる食行動とBMIの関連が観察されました。特徴的な関連を以下の図に示しました。
飲酒習慣のあるGG型およびGA型の男女では、飲酒量と揚げ物摂取がBMIと正の関連を、飲酒頻度がBMIと負の関連を示しました。飲酒習慣のない人達では共通する特徴は認められませんでしたが、男性でソフトドリンク摂取とBMIとの正の関連が、女性で納豆・豆腐摂取とBMIとの負の関連が認められました。また、AA型では男女で共通して乳酸菌飲料摂取とBMIが正に関連していました。
本研究から、rs671多型は遺伝的に食行動とBMIの関連に影響を与えている可能性が見いだされ、3者の関係性が初めて示されました。また、rs671多型の遺伝型や性、飲酒習慣によって、BMIに影響する食行動が異なることが示唆されました。本研究の成果は、個人の遺伝的体質や飲酒習慣によって体格に影響しやすい食行動が存在する可能性を示し、日本人のプレシジョン栄養の発展に貢献することが期待されます。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/339900/LL_img_339900_1.jpg
性、飲酒習慣、rs671多型の遺伝型毎に、BMIと関連する食行動

◆研究表題:Association between Dietary Behaviors and BMI Stratified by Sex and the ALDH2 rs671 Polymorphism in Japanese Adults
DOI: 10.3390/nu14235116
URL: https://www.mdpi.com/2072-6643/14/23/5116


◆利益相反
責任著者の加藤 久典は株式会社ジーンクエストの倫理審査委員会委員を務めています。但し本研究に関する審査については、審査に参加していません。


■用語解説
※1 SNPとはスニップと発音され、DNA上の一箇所の違いを意味しており、複数形のSNPsと記載されることもあります。“Single Nucleotide Polymorphism”の略であり、一塩基多型と訳されます。ゲノム中には300万から1,000万のSNPが存在していると考えられています。重要な遺伝子領域が作りだすタンパク質を変化させる可能性があり、生活習慣病などはSNPsが複雑に関係していることが解明されつつあります。

※2 体格指数(BMI):体重(Kg)/(身長m)2で算出される肥満度を表す指数。標準値は22であり、この数値が統計的に最も病気になりにくい体重とされている。

※3 交互作用:「2つの因子の組み合わせによって生じる相乗効果」と定義されている。この解析の場合は、rs671多型の遺伝型間で食行動とBMIの関連性に違いがあるかを解析している。


■企業情報
社名 : 株式会社ジーンクエスト
所在地 : 東京都港区芝五丁目29番11号 G-BASE田町
設立 : 2013年6月20日
資本金 : 110,000千円(資本準備金含む)
代表者 : 代表取締役 高橋 祥子
事業内容: 個人向け遺伝子解析事業
URL : https://genequest.jp/


■ジーンクエストリサーチについて
「ジーンクエストリサーチ」は、国内外の企業、研究者等と連携し、主に遺伝子解析キットを通じて蓄積されたゲノムデータを活用し、遺伝子多型と体質、疾患に関する幅広い研究に取り組んでおります。研究活用に関して同意が得られたユーザーのデータを匿名化し、倫理審査委員会により情報の取扱い、提携先における利用目的等の承認を受けた上で、研究活用します。今後も、共同研究パートナー企業、研究者とともに、サービスと研究のシナジーを創出し、新たな価値の創出を目指し実現してまいります。当社では、共同研究の研究者、パートナー企業様を広く募集しております。

ジーンクエストリサーチURL: https://genequest.jp/forbiz/
情報提供元: @Press