代表取締役・高浜 敏之


副社長・小黒 昭洋


社外取締役・小林 照

株式会社土屋(本社:岡山県井原市、代表取締役:高浜 敏之、在籍人数:1,200人)・ホームケア土屋は、重度の障害をお持ちの方に対する訪問介護サービスを全国で展開するソーシャルビジネス企業です。
アテンダント(介護者)がクライアント(利用者)のお宅で一対一の生活支援や医療的ケアを行い、障害を持つ方が住み慣れた地域や自宅で自分らしく暮らすためのサポートをしています。

当社は2021年8月19日、新生土屋の創立から1年を迎えました。私たちは会社を船になぞらえ、それを出帆と表現しました。その出帆した船がこの1年間を振り返り、今をお伝えします。


【代表取締役・高浜 敏之インタビュー】
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代表取締役・高浜 敏之

■創業から1年を迎えて
株式会社土屋の創設から丸一年が経ちますが、当初予想していたより、かなり順調に事業も成長しています。
創設時はいくつかの懸念があり、その最も大きな問題は深刻な人手不足でした。それを解決するには採用活動に力を入れる必要がありますが、そのための十分な資金がなく、頭を悩ませましたね。幸い、金融業界での経験が豊富な当社の専務取締役・吉田 政弘の下、メガバンクを含めた複数行からご協力を賜り、ある段階からはしっかりと採用投資することができました。結果的に、この1年で従業員が約1,200人となり、今後も200名ほどの参加が見込まれていることから、事業開始時の700人からほぼ倍になろうとしています。
ここは非常に注目に値する成果だと考えますし、人事総務部門による効率的な採用活動の結果、介護現場の過剰労働も少しずつ解消できてきて、新しいニーズにも応えていけるような環境が整ってきました。

また、新事業としてはデイサービスの開始や訪問看護ステーションの全国展開、CSRとしては託児所や知的障害のある方のシェアハウスの設置、子ども食堂などが試験的に取り組まれています。社会的な潮流に合わせて始まったSDGsへの取組みも、今後我々が向かうべき方向を指し示しています。独自の取組みとしては、障害福祉分野、高齢分野の第一人者の方々を顧問に招き、さまざまな意見をいただくことで、我々が社会の中でどう映っているのか、また我々がどうあるべきかという事柄について定期的に方向修正しています。初年度にもかかわらず、種植え活動のような面白い挑戦や企画がさまざまな形で展開していったのは良かったなと思っていますし、総じてすごく上手くいっていますね。

課題点としてはガバナンス体制です。組織についてもまだ固まっていないところがあり、コミュニケーション不足の問題や、決裁の回路が整理されていないので、今後、そこが改善点になりますね。1年を通じて、どちらかというと整えることに力を入れてきましたので、2年目の大きな取組みとしては、新しいニーズに応えることに重点を置いていきます。本格的な成長ベースに入るでしょう。

■ソーシャルとビジネスのバランス
株式会社土屋はソーシャルビジネスを展開しています。このビジネスモデルでは、社会性ミッション(社会課題への取組み)と事業性ミッション(収益の拡大)が重要なファクターです。この二つのミッションの絶妙なバランスを取ることが必須です。
会社設立時、我々はビジネス(事業性ミッション)への過度な偏りに対する反省からスタートした面もありました。そのため、理念、MVVに基づいた経営を進めてきて、この1年、売り上げや利益目標も一切提示することなくやってきました。そうした中で、社員の意識がかつてと比較して変わってきたなというのがあり、このMVVに基づいた経営、MVVによって牽引されるコミュニティの在り方は実現できたのではと思います。

しかし、やはり、ソーシャル(社会性ミッション)とビジネスのバランスが難しい。現在は、ソーシャルに寄りすぎていて、ビジネスの重心が軽くなっています。それが結果に現れてきてはいるので、このままこの状況を放置してしまうと、経営も危うくなってくるし、結果的に処遇改善や人手不足の解消など、さまざまなところに支障が出かねません。
そうしたことから、今後はビジネスへの重心もある程度取り戻した中で、社会的価値の創出とビジネスの成果のバランスの中点を探る必要があります。ソーシャルビジネスを巡る永遠の模索ですね。ビジネスに振ったら振ったで、数字が前面に出てくることになり、モラルハザードが生まれかねない。そしたらまたソーシャルに寄せることが必要になる。このように、行ったり来たりを繰り返すのだろうと思っています。

■社内におけるイノベーション~ソーシャルビジネス・イントレプレナー(社内起業家)にかける想い~
今後20年後くらいには、さまざまなイノベーションやバイオテクノロジー、ロボットの発達などで、社会福祉のフレームそのものが変わっているでしょう。今我々はあくまでマンパワーで他者の生活をヘルプしていく事業をしていますので、私自身が考えるのはそこまでで良いと思っています。そこから先は、現在会社で中核をなす次の世代の人たちが考えてくれればいいと。
そうした観点からは、今の事業を継続させていく中で、まだ私たちには見えていないような、新しい社会問題が見出されるでしょう。けれど、こうした問題を解決するためには、NGOやボランティアなどの非営利活動では限度があるので、そのときにやはり我々がこのビジネスを使って取り組んでいかねばならない。

社内の中で問題を発見してそれを解決するためにビジネスを提案する人たちのことをイントレプレナー(社内起業家)と言いますが、そうした新しい問題にチャレンジする人が一人でも多く現れてくることを望んでいます。そして、その人の理念やビジョンに賛同する参加者が多くなっていって、この会社の中で一つのムーブメントとなり、いろんな問題が解決されていくような場に発展していけばいいなと思っています。

もっとも、その提案が儲かるからというのが動機の第一義だとしたら、それは却下しなければならない。ビジネスというものは、膨らんでいくと営利活動そのものが自己目的化してしまい、本質から離れるリスクを抱えているのです。営利追及が目的になって、社会問題の解決が手段になってしまうことで、当社の根幹が侵食されないように、それを防ぐチェック機能を社内できちんと設けておくことは必要だと思っています。

■株式会社土屋の今後~インクルーシブな社会の中で~
株式会社土屋は、障害福祉分野の歴史の中に位置づけられる会社で、障害分野固有の、悲惨で悲劇的な背景から生み出されたラディカルな思想をもっています。つまり働き方に関しても、同じ福祉とはいえ高齢分野と障害分野の働き方は大きく異なります。
障害分野では、当事者の方の声をより徹底して聞くところがある。当事者の声に対するリスペクトがあります。それは普遍的な価値を持ちうるものだと思うんですね。
ですから、こうした当事者本位の精神をもって臨むことを、この障害福祉分野で学ぶことにより、たとえ高齢福祉や児童福祉など他の分野でそのまま適用できないとしても、それらの価値をより高めていける可能性もあると思っています。そういった意味でも、我々は一つのミッションを担っていると。普遍性モデルの道をこれから歩んでいくだろうなと思っています。
また、このたったの1年だけでもさまざまな優生思想に起因する出来事がありましたが、我々は事業を通じて、そうではないインクルーシブな世界観を発信していきたいと思います。


【副社長・小黒 昭洋インタビュー】
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副社長・小黒 昭洋

■株式会社土屋の現在
スタートしたばかりの時は、やはり怖かったですよね、言葉しか信じるものがなくて。それまでは土台としての会社があり、そこに乗る形でしたが、会社の地盤も歴史も全くない中で、高浜さんを信じて、周りのスタッフをただただ信頼するしかなかったです。スタートして1か月のフローが回り出すまでは、私も頭がフル回転で、沸騰していました。今はスタッフもだいぶ増えましたので、これからは新規クライアントの受け入れや、今まで届かなかった新しい地域に入っていく段階に来ています。今はまだ事業所は40都道府県くらいですが、他の地域にもすでに着手していますので、全国での事業所開設ももう一歩というところまで来ることができました。

採用に関しては、現在、自立した採用方法を模索中です。重度訪問介護だけでなく、今後は医療やデイサービス、高齢者介護や別の事業も進めていますので、様々な角度からHPやSNSといったオウンドメディアの取組みも駆使しながら、自社採用を強化していく方向です。とりわけ、会社の理念に共感できる方を求めるために、我々のメッセージを打ち出していきたいですね。

■重度訪問介護の課題と対応
(1) まずは、福祉サービスが届けられていない障害当事者へのアプローチです。これは、「小さな声」を拾うという私たちのMVVにつながります。ただ、重度訪問介護制度は障害当事者や自治体の担当の方さえ知らなかったりするので、そのために私たちから足を運んで営業活動をしています。実際に、すごく歓迎されますし、声も思った以上に、こんなに多いんだと驚いています。圧倒的にまだまだ潜在的ニーズの方が多く、そうした声に応えるためにも、ヘルパー不足の解消に向けて、人材の採用を広げていきます。

(2) 介護ハラスメントの問題も大きいです。これはクライアントからの理不尽な要求や、アテンダントへの厳しい対応といったもので、重度訪問介護特有のハラスメントです。というのも、長時間クライアントとアテンダントが一緒にいますので、距離が近くなりすぎてアテンダントに対する要求がひどくなってくるというか。
対応としては、当社で発行しているクライアント向けの新聞などで理解を深めていきたいです。どちらの立場が上か下かではなく、共存に向けてPRしながら、一緒になって取り組んでいきたいですね。同時にアテンダントや管理者の教育をし、知識を向上させていく方向です。ここをしっかりしないと、理解がついていかずに、事故や事件につながっていきかねないと思っています。その一環として、毎月、各種委員会の研修会を開き、会社として質の向上も図っていきます。

(3) 医療的ケアのグレーゾーンに関する問題も、すぐには解決できないような大きな課題です。アテンダントは基本的に医療行為ができませんが、現場では看護師や医者が常時いるわけではないので、必要になった場合、ものすごく大きな悩みを抱えることになります。線引きがはっきりできないというのもありますし。最近はコロナ禍で介護の環境が崩壊してしまっている現状もあります。そこで厚労省とは命を一番に考えて相談し、自治体ともコミュニケーションを取りながら柔軟な対応をお願いしています。社内では、まず対策委員会を設けて、現場の実情の把握と共有、そして会社の確認というフローを現在作成し、対応しています。

(4) 直行直帰の訪問介護では、コミュニケーションの問題は常に付きまといます。特に重要なのはアテンダントと上司のコミュニケーションです。コロナ禍というのもあり、まずはオンライン化でのやり取りや情報の共有を図って、それをさらに促進させます。また、RECOGというサンクスツールを用いたりしながら、少しでもコミュニケーション不足をなくしていきたいです。

重度訪問介護には他にも、地域間格差など多くの課題が山積しています。自治体の予算のあるなしで受けられるサービスも変わってきたり、重度訪問介護を受けながらの就学や就労が認められなかったり、18歳以下の障害児がケアを受けられないといった問題があります。解決は難しいですが、自治体によっては就労時にも重訪を使っている障害当事者も出てきています。そういう例が全国的に増えれば厚労省も本腰を入れると思いますので、私たちは一人でも多くこういったクライアントを増やして、平等に支援が受けられる体制を全国で作っていくことを目指さなくてはいけないと思っています。

■土屋の未来
今後、福祉の総合商社を目指して、分野を問わず、さまざまな困難を抱えている方に支援を広げていければと思っています。手始めとして放課後等デイサービスを立ち上げたり、今後は就労継続支援B型も開始します。また託児所も作ったりと、困っている人すべてが対象者になるような会社にしていきたいと思いますね。土屋ならではの問題解決を見出しながら、「日本一働きたい介護会社」、介護事業のみならず、範囲を広げて、小さな声に応えられる会社を目指していきたいです。


【最初の縁の下の力持ち・社外取締役の小林 照インタビュー】
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社外取締役・小林 照

■出帆に際しての協力のきっかけ
始まりは、25年ほど前の高浜さんとの出会いに遡ります。私が働いていた不動産関係の会社に高浜さんがアルバイトで来られて。その会社はいわゆるパワハラが日常茶飯事の体育会系企業でした。だから職員の入れ替わりも頻繁で、高浜さんもそんなに長くはいなかったんです。でも、よく一緒にお酒を飲んで、ざっくばらんに話をしましたね。彼は哲学を学んでいたので奥が深く、ロジカル。お酒を飲むとさらに拍車がかかって、色々はじけるところが好きで、彼がその会社を辞めた後も付き合いは続きました。
その後、彼がアルコール依存症の治療に入ったり、債務を背負ったりなどの、どん底になった時も見てきました。その中で、底辺まで見た人間の奥深さやエネルギーを感じて、私にとって数少ない何でも話せる人、心を許せる人という感じなんです。それに、路上生活者を支援したりとか、ほんとに信用できる人なんですね。

そういう背景があった中で、高浜さんから1年前に、新会社設立のお話がありました。「小林さん、いくら出せます?」と。その時には、もちろんノーということはないんですけど、ただ規模が大きいので悩みました。数千万という金額でも想定外のことが起きればさらに出資額は大きくなるでしょうし、設立段階なので不透明なところもあります。ただ、彼の周りの方とお話しするうちに不安が解消されたり、なにより高浜さんの想いですね。重度訪問介護は、絶対になくなってはならない仕事で、クライアントを見捨てることはできないから、何があっても続けるんだという決意があったので、私も「責任を持って最後までやり遂げてください」と。
これからは何か社会の役に立つことにお金を使いたいと思っていたので、その辺の意識が合致したという感じですね。
当初、私が融通した資金は、割とすぐに戻ってきたので、今後は子ども食堂のキッチンカー費用など、土屋を通して社会に役立つことに還元していきます。

私には人生の転機があり、今仏教を学んでいますが、仏教では、何かに祈れば自分に幸福が来るということはなく、良い結果には、その原因となる良いタネまき、行為があると因果が教えられます。悪いことを謹んで、良い行いをすることが大事と言われます。そんなことは百も承知と思いますが、3才の童子でも知るが80の翁でも行うは難し、と言われるように、知っていても実行することは難しいので、心に掛けていきたい大切なことと思っています。

■障害者介護との関り
大学では社会福祉が専攻でして、そのときにボランティアをちょっとさせてもらいました。おむすびで有名な画家の山下清さんがいらっしゃった千葉県の八幡学園や、沖縄で今、民宿をしてらっしゃる脳性麻痺の女性の方と交流がありました。彼女は左の足首から下しか動かず、納屋に隔離されて、17歳で服毒自殺を図ったんです。でも死にきれなくて、「私でも何かできるんじゃないか」ということから、左足で絵を描いたり、学校に行けなかった分、辞書を左足でめくって勉強したりという苦労をされた方です。彼女が、紅葉の季節に鬼無里村に絵を描きに行くというので、紹介してもらって一緒に付いて行ったんですね。それからすごく仲良くなって、当時8か国くらいで個展を開いた時に、オーストラリアにも同行しました。
彼女も高浜さんも、どん底まで落ちてそこから這い上がった人なので、私の心の支えというか、見習うべきことがいっぱいあって。

■1年を迎えて
スピード感がすごいですね。デイサービスや放課後等デイサービス、子ども食堂など、どんどん新しいことや小さな声を見つけてというMVVを実践していっていますが、そのまま進んでいってほしいですね。
もちろんまだ、これからという部分は結構あると思います。まだまだ何が起こるか分からない。でもそれを心配しても仕方ないので、皆さんを信頼してという感じです。
あとは、ソーシャルとビジネスのバランスですね。車の両輪のように、どっちかが大きくなってもだめだし、真っすぐに進まない。この1年、そのバランスを取ってきたと思うんですが、新しい会社を動かす中で色々と疲れも出てくるでしょう。でも掲げているMVVを、一人一人が自分で噛み砕いて進んでいってほしいと思います。

■土屋へのエール
いろんな仕事がある中で、ダイレクトに人の命に関わるような貢献というのはなかなかないと思うので、誇りをもって仕事をしていただきたいと思います。皆さんがいることによって、何人もの方の命が守られているのです。本来であれば、私を含め、社会みんなで協力してすべきところを皆さんに担っていただいていると思いますので、ありがとうございますと言いたいです。これからも体に気を付けて、小さな声に応えていっていただけたらなと思います。

また突拍子もない話に聞こえるでしょうが、私自身、このコロナ禍で、どうにも本業が立ちいかなくなったら、初任者、実務者、統合課程を一応終えてもいますので、一アテンダントとして働くことにチャレンジもありかと思っています。受け入れていただけるところがあればの話ですが(笑)


【関連URL】
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【会社概要】
会社名 :株式会社土屋
所在地 :岡山県井原市井原町192-2 久安セントラルビル2F
代表取締役:高浜 敏之
設立 :2020年8月
事業内容 :障害福祉サービス事業及び地域生活支援事業、
介護保険法に基づく居宅サービス事業、
講演会及び講習会等の企画・開催及び運営事業、研修事業、
訪問看護事業
情報提供元: @Press