「Not My King」広がる王室廃止論 「過剰な公金」批判も
チャールズ英国王の戴冠式が6日、ロンドンで行われる。1953年のエリザベス女王以来70年ぶりの式典で、各地に国旗が掲げられるなど英国は祝賀ムードに包まれた。だが国内では一部で君主制廃止論も根強く、国王は王室維持という「試練」(英紙デーリー・エクスプレス)にも直面している。
「王室には透明性も説明責任もない。しかも過剰な公金が使われている」。王室廃止を訴える団体「リパブリック(共和制)」のグレアム・スミス代表は4月24日、ロンドンの外国特派員協会で記者会見し、戴冠式などに使われる金額は「異常だ」と批判した。英国にはバッキンガム宮殿、ウィンザー城など王室関連の観光スポットも多いため、会場からは「王室による経済効果も大きいのでは」との質問も出たが、スミス氏は「王室のおかげで観光客が英国に来るという証拠はない」と語った。スミス氏は戴冠式当日の6日朝、抗議デモに使う大量のプラカードを準備していたところを、警察に拘束された。
昨年9月の国王即位後、英国では各地で抗議活動やデモが頻発している。昨年11~12月には、国王が訪問先で卵を投げつけられる騒動が2回も発生。いずれも国王には当たらなかったが、11月に英中部ヨークで卵を投げたとして逮捕された男は「この国は奴隷の血の上に築かれた」と叫んだと報じられている。国王が行く先々で「Not My King」(私の国王ではない)との横断幕を掲げる人々の姿も目立っている。
背景には、深刻化する生活費高騰もある。今年3月の消費者物価指数の上昇率は前年同月比で日本は3・1%なのに対し、英国は10・1%と異常なインフレが進行。賃上げを求める労働者のデモが続く中、王室に過剰な公金が支出されているとの批判も根強い。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、英政府が2021年に負担した王室関連経費は少なくとも1億200万ポンド(約173億円)に上るという。
英調査会社ユーガブの世論調査によると、君主制支持者は12年7月には75%だったが、今年4月には62%と10ポイント以上も下落。近年は特に若い世代の「王室離れ」が目立ち、18~24歳に限れば支持率は3割前後にまで落ち込んでいる。
市民からは厳しい声も聞かれる。「適任かどうか分からないのに、血統だけで君主が続くシステムは合理的ではない。多くの家庭が貧困に苦しむ中、王室には巨額な税金が使われている」と話すのは、高齢者だが王制に反対という女性モニカさん(72)だ。大学生の男性(26)は「王室は古い時代の象徴。人々の愛着が理解できない」と話した。
英メディアによると、戴冠式の総費用については式典後に英政府が公表するという。国王自身は「簡素化」を求めたとされるが、警備費用などが増大し、最終的に「2億5000万ポンド(約425億円)に上る」(英紙デーリー・ミラー)とも報じられている。【ロンドン篠田航一】