飲料のペットボトルと同じように、化粧品容器がリサイクルできることをご存知でしたか? リサイクル工場「BEAUTYCLE」を設立し、これまで難しいとされてきた化粧品容器の再資源化に挑戦。全く新しい循環型リサイクルシステムを構築したのが株式会社ツバキスタイルです。

化粧品容器やトイレタリー容器のリサイクルは、なぜ進まないのか

 レジ袋の有料化やプラスチックストローの廃止など、環境負荷低減へのアクションは、私たち一般消費者の間でも浸透しています。

 とくに飲料のペットボトル(PET樹脂)は、キャップやラベルと分別し、資源ごみとして回収され、再びペットボトルとして再生される「ボトル to ボトル」の水平リサイクルが一般化されています。

 しかし同じプラスチックでも、シャンプーやボディソープ、スキンケア用品などの容器はどうでしょうか?

 中身を使い切ったあとは「プラスチックごみ」や「燃えるごみ」として廃棄され、再資源化されることなく焼却されることがほとんどです。

「プラスチック製品は製造時も焼却時もCO2を排出します。当社に限らず、化粧品容器やトイレタリー容器を作っている企業にとって、環境負荷は身近な問題です。しかし、これまでの対策といえば、飲料ペットボトル由来の再生PETを使用させてもらい『この容器は再生PETを使っています』と謳う程度が現状でした」

 そう語るのは、株式会社ツバキスタイルの代表取締役・杉山大祐さん。

 ツバキスタイルは、90年代からデザインが多様化した化粧品やトイレタリー用品の容器製造において、800種類以上の金型と高度な成形技術を有し、数多くの化粧品メーカーから支持されてきました。

 SDGsへの取り組みが中小企業にも広がる中、同社は飲料用ボトルの再生樹脂を100%使用した容器や、サトウキビ原料の植物性樹脂を用いたバイオマスPE・PETのボトルなど、いち早くリサイクル可能な容器や、環境にやさしい容器を製造してきました。

 しかし、そうした環境対策樹脂を積極的に使用しても、その容器が回収・分別されて純度の高いリサイクル樹脂が作られなければ、結局は廃棄され、燃やされることに。本当の意味での循環型リサイクルは達成されません。

 そこでツバキスタイルが着手したのが、使用済み容器の回収・粉砕・洗浄・樹脂化・再生容器の製造までを自社で一貫して行うサーキュラービジネスの構築です。

人を美しくする化粧品の容器が、地球環境を汚してはいけない

「なぜ、飲料ペットボトル以外のプラスチック容器が捨てられていくのかというと、とくに化粧品容器の場合、さまざまなカラーや塗装、樹脂に色を練り込む加飾があったり、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)など異なる複数の素材を使って成形されているためです。それらが混ざったままではリサイクルできないんです」(杉山代表)

 飲料の「ボトル to ボトル」が可能なのは、どの商品も無色透明なPET樹脂を使用しており、消費者からまとめて回収しやすく、高純度の再生原料が得られるため。一方、細かい分解や分別が必要な化粧品容器は、自治体も回収業者もコストが見合わず、リサイクルしにくいものとして扱われてきました。

「とはいえ、人を美しくするための化粧品の製造に携わっていながら、その容器が地球環境を汚しているという状況は変えなくてはなりません。そのためには、我々プラスチックを扱っている企業自らが、根っこから環境対策に取り組み、成功事例を作らなくてはならないと考えました」(杉山代表)

 杉山代表は2021年、大阪の容器大手グラセルとの共同出資で、子会社の式会社BEAUTYCLE(ビューティクル)を設立。2023年5月には大規模な投資をして佐賀県神埼市にビューティクル佐賀工場を竣工しました。

 1つの工場内で容器の回収から再資源化を行い、新しい容器へ再生する「ボトルtoボトル」のリサイクル体制を業界で初めて構築したのです。

「リサイクルに関しては素人でしたから、他のリサイクル業者さんに頭を下げて、研修させてもうらうところから始めたんです。仕組み自体は飲料ペットボトルと同様で、奇をてらったものではありません」(杉山代表)

 導入した設備は、BoReTech社製の粉砕・洗浄ラインと、EREMA社製のリペレット化システムの2種類。

BoReTech社の設備は高度な自動化を備えており、粉砕、洗浄と効果的なクリーニングプロセスにより、異物のないクリーンなボトルフレークを安定的に生産することが可能です。

一方、EREMA社のシステムはFDA(米国食品医薬品局)認証を取得した先進的なリサイクル設備です。独自の真空技術や結晶化装置をインラインで組み込み、PETのIV値やPP/PEのMFRを改善します。ミクロン単位のゴミや不純物を除去できるため、極めて高品質な再資源化を実現します。

印刷や加飾が施された容器であっても、これらの工程を経ることでリサイクルが可能となります。

 さらに、その隣では原料を再びプラスチック容器へ成形する機械が稼働しており、いつ・どこで・何にリサイクルされたのか、トレービリティ可能な再生容器の製造まで一貫して行うことが可能です。

「他社がやらないのは、ボトルをどう集めるのか、協力企業があるのか、多額の投資を行って採算が合うのか、という理由です。よくそんな面倒なことをやるね、と言われることもありますが、2022年には『プラスチック資源循環促進法』が施行され、我々のような事業者が使用済み容器を自主回収しやすくなったり、プラスチック使用製品の設計指針が打ち出されたこともあって、協力してくれるお客様が増えました」(杉山代表)

参画企業が多くなれば、それが省庁や自治体を動かす原動力になる

 BEAUTYCLEのリサイクルシステムに参画する企業は、直営店舗などに回収ボックスを設置し、消費者から使用済容器を回収。回収された容器はビューティクル佐賀工場へ運ばれ、再び新しい容器としてリサイクルされます。

 水平リサイクルが可能な循環型工場を持つツバキスタイルとタッグを組むことは、本格的な環境対策に取り組んでいる化粧品メーカーにとっても“渡りに船”。現在は、無添加石鹸のパイオニアでもあるシャボン玉石けんや、「ボタニスト」ブランドで知られるI-neなど約10社が参画し、脱炭素化への取り組みを加速させています。

「また、化粧品やトイレタリー用品の業界は、容器に中身を充填する際に失敗する分などを織り込んで容器を余分仕入れたり、生産過程でのロスが意外と多いのです。BEAUTYCLE社では、それら予備ボトルや不要在庫を集めて再資源化する『生産ロスZEROプロジェクト』も展開しています」(杉山代表)

 同プロジェクトでは、再資源化された容器の底面にBEAUTYCLEマークを刻印できるのもポイントです。例えば、アートネイチャー社ではサロン専売商品である「3SKU」の容器にプロジェクトを導入。商品がプラスチック削減に寄与していることをサロンや消費者に伝えるきっかけとして、BEAUTYCLEマークを印刷・刻印しています。

「一昨年からは、シャボン玉石けん様、そのハンドソープを使っている北九州市立八幡病院様、そしてBEAUTYCLEの3社間で、ハンドソープ容器の資源循環リサイクルの実証実験も行っています。実は病院では、衛生管理の観点から詰替え商品を使わず、使用後はボトルごと廃棄しています。この実証実験は、廃棄されていたボトルを回収し、同じ商品のボトルに生まれ変わらせるもの。ほかの病院でも展開したいですね」(杉山代表)

 かつてデザイン性が求められていた化粧品、トイレタリー用品の容器も、プラスチック資源循環促進法の施行によって、リサイクルしやすいシンプルなものへと置き換えられていくことは時代の必然。

「消費者からの回収はまだ全然足りていないのが現状ですが、我々の業界は、ボトルを作るだけでも印刷業者やラベルを作っている業者など、さまざまな企業が関わっています。リサイクルは賛同していただける企業が多いほど推進できますし、そうした動きが自治体や省庁を動かす原動力になります。消費者の方々にはもちろん、より多くの企業にBEAUTYCLEを知っていただければと思っています」(杉山代表)

 BEAUTYCLE工場のある佐賀県は、実はコスメ関連企業の誘致に熱心な「コスメティックバレー」。杉山代表は、地元・佐賀大学との産学官の連携も視野に入れ、プロジェクトをより大きな動きへ育てたいと考えています。

 私たちにとって化粧品・トイレタリー用品は毎日使う身近な存在。環境負荷を少しでも低減するには、どんな商品を選択するべきか。リサイクルという視点から、一度考えてみませんか?

◆株式会社ツバキスタイル
本社・東京ショールーム:東京都中央区日本橋小網町18-8 メットライフ江戸橋ビル7F
お問合せ:03-5283-8566(9時〜18時)
https://tsubakistyle.co.jp/

◆株式会社BEAUTYCLE(ビューティクル)
本社・工場:佐賀県神埼市神埼町本告牟田1247番地1
https://beautycle.jp/

情報提供元: アーバンライフメトロ
記事名:「 「使い捨てにしない、美しさへ。」 ーー 化粧品容器を“資源”に変える、ツバキスタイルの挑戦とは