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本イベントの第1部では「農業を通じた地域おこし」についてトークセッションが行われました。
本イベントの参画企業でもある、株式会社マイファーム・株式会社おてつたびで受け入れ農家をしている4名のゲストが登壇。
30歳で就農された、Orchard muku.園主の奥村光希さんは二児の母で、長野県喬木村で市田柿の伝統を広めており、
「母として、女性農家としての魅力をいっぱいお伝えしたいです。」
と挨拶しました。
とのわファーム代表の清水雅大さん。医療業界から転身し、アグリイノベーション大学校の卒業生でもある清水さんは40代から東京都青梅市で新規就農されました。
就農三年目となる「とのわファーム」では、アグリイノベーション大学校の同級生と三人で農業をされています。
いっぽファーム園主の石川智之さんと圭さんご夫妻は、農業を学び結婚を機に地元岩手県平泉市で農業を推進。
イベント当日も朝6時に苺を収穫してから会場に来たという石川夫妻。東京はこの日も寒かったのですが、岩手県の気温は-7度。
「東京の暖かさと人の多さに面食らっています」と智之さんは語りました。
奥村さんは若くして結婚・出産し、隣町に住んでいたのですが体調を崩してしまい、そこからおじいちゃんとおばあちゃんに「畑を手伝ってみないか?」と誘われたことがきっかけで農業に携わっていったのだそう。
「おじいちゃんとおばあちゃんに住まわせてもらってるので、“何かしないと”と思い、幼い次女を連れて毎日畑に出ていました。」
と語ります。
そして「農家の中で育つと、子どもも人手の一員になる」と奥村さんの幼少期の体験を話すと、他の登壇者も「うんうん」と頷かれているのが印象的でした。
農業を始めてからは「子育てをしながら、働ける環境が農業にはある」という発見があったと話します。
一方で清水さんは医療業界で働いていたそうですが、全身全霊で仕事に情熱を注ぐあまり身体と心のバランスが崩れてしまい休んでいたところ、
「医療業界だけではなく、他にもなにかあるのではないかと思い、色々なことをやってみました。」
と話し、その選択肢の中に1つに「農業」があったのだそうです。
青梅市の農家がボランティアを募集しており、仕事が休みの日に体験に行ったことが農業に携わるきっかけとなり、
「広い畑の中で一人でポツンといるときの気持ちの良さ。心がほどかれていく感覚を今でも覚えています。」
と語りました。
それからというもの、半年間で週に何度もボランティアへ行くようになり、改めて独立を意識した際にアグリイノベーション大学校で農業全体の知見を得て今に至ったのだそうです。
家業が農業であったという智之さんは、子どもの頃から農業に接する機会があったのだそう。
そして一般企業で働いていた智之さんは、
「地元に戻って転職活動をしていきたいと考えていたときに、マイファームに入社させていただいたのが農業に入るきっかけです。」
と農業を始めたきっかけをコメント。
非農家出身の圭さんは農業に全く関わりがなかったのだそうですが、
「青果の仲卸で働いていたときに、農家さんの”ものを作ってものを売る”というプライドを持って仕事をしている姿勢に感銘を受けました。」
と話し、
「もっと第一次産業について知りたい、もっと農家さんに寄り添った仕事がしたいと思いマイファームに入り、その中で仕事をしていくうちに“私も農家になりたい”と思い、結婚を機に岩手に移住したことが農業を始めたきっかけです。」
と語りました。
第1部の最後に、これからの農業での目標や農業に興味のある人へメッセージが送られました。
奥村さんは収穫物の海外輸出が目標だと語り、
「市田柿を日本国内でもっと広めていき、そして海外にも進出したいと考えています。」
とコメント。
清水さんは「まだ農業を始めて3年目なので農業については愚直に丁寧にやっていきたい」と話し、これから農業をやっていきたいと考えている方には、
「自分もそうだったのですが、農業ってどうやって始めればいいかわからない。なので、私が青梅市で農業に片足を踏み込んだみたいに、農業をやってみたいけど“どうやればいいかわからない”って人が、片足を踏み込めるような農園になればいいなと思っています。」
と述べました。
石川圭さんは、
「岩手の魅力って“中々県外に発信できていないのではないか”って思うことがあるので、岩手の魅力をどんどん外に向けて発信していきたい。」
と語り、自身の農園についても、
「いっぽファームという名前の由来として2つの意味があります。1つは20代の頃に生き急いで色々チャレンジしていたのですが、農業を始めるにあたって地に足をつけた経営をして一歩づつ前に進んでいきたい。もう1つは、周りの方にたくさんサポートしてもらったり応援してもらったから今がある。私も誰かの一歩を支えられる農園を作っていきたいと思っています。」
と自身の想いを語りました。
石川智之さんは、
「地元に必要とされる、頼ってもらえるファームにしたいなと思っています。あとは仲間を増やしていって欲しい。同じ目線でなくてもいいので、困ったとき頼れる・相談できる。そういった仲間を増やし続けていくのが大事なのかなって思っています。」
とコメント。
独立して、農業を始めた4名の方から貴重なお話を伺うことができました。
そしてトークセッションの後には、ブースにて交流会も開催。
筆者は急ぎ交流スペースへ向かったため、このときはまだブースにいる人もまばらだったのですが、すぐに大賑わいに。
トークイベントでそれぞれの話を聞くだけでなく、実際に農業をやっている方と知り合うきっかけとなるのも、未来農業フェスタの素晴らしいところと言えるでしょう。
農業というと「畑を持って独立する」というイメージしかなかったのですが、イベントの第2部では、雇用就農で農業を仕事にしている3名の方からお話を伺うことができました。
有限会社トップリバーに勤めている永崎亮太さん。入社4年目の26歳で自社農場の一区画を管理する農場長となり、翌年には自社農場全域を管理する統括農場長に任命されており、
「雇用就農で農業を続けることにとても魅力を感じています。今日は独立への思いから雇用就農に気持ちが変わったことについて話していきたいです。」
と挨拶しました。
朝霧メイプルファーム有限会社に勤めている城樂七海さんは、1年目からジョブローテーションの勤務を通じ、酪農に関わる一連の業務を経験。
そして3年目となる今年は搾乳や餌づくりという業務の他、社内プロジェクトのリーダーも担っています。
3人目はupdate株式会社に勤めている今村純さん。
新卒で農業機械メーカーに入社。社会人経験を経ての就農、企業の農業参入に携わっています。
永崎さんは高校のときの授業で「農家の人手不足」といった現状を知り、漠然と農業に携わりたいと思ったのだとか。
初めは海外で農業をやりたいと思っていた永崎さんは海外留学へ。そして日本に戻って来た際に、偶然にも現在勤めているトップリバーの存在を知り、アルバイトから働き始めたのだそうです。
永崎さんは、
「当初は独立したいと思っていたので、独立支援をしている会社ということもあり入社しました。」
と話し、当初は独立を目指してまずは雇用就農という形から入ったのだと説明。
城樂さんは動物園の飼育員になりたかったそうで、その目標のために動物関係の大学に行っていたのだそうですが、会社として動物と関わっていくことができる仕事を色々調べたことが今の会社を知るきっかけになったのだそう。
大学での授業の際に受けた酪農についての印象として、
「私は女性だし、体力仕事で休みが少ないというイメージがあったので、当時は酪農の仕事をすることはないだろうなと思っていました。」
と語っています。
今村さんは「もともと農業をやるっていう選択肢は全然なかった」とコメント。
しかし、
「昨今の食料危機を目の当たりにして、直接的に農業をやるっていう選択肢は必要だと感じました。」
と語りました。
農業を始める前と今のギャップについて聞かれ、
「デスクワークと比べると、体力的には確かにきついです。それでも青空の下で仕事ができる気持ち良さやストレスフリーでできるところが良いところかなと思っています。」
と伝えます。
さらに今村さんは、社会課題として「第三者継承」や「事業継承」の問題にも積極的に取り組んでおり、どうやったら農業に興味を持ってもらえるのかというテーマへ。
「農業は独立してやっていくというイメージが強いが、雇用就農という形はとても安定している。農業にはきつい・汚い・給料が安いというイメージもあるが、当てはまるのはきついのみだと思う。」
と永崎さんは言及。
「体力的には確かにきつい。それでも仲間と働くことはとても楽しく充実しています。なので、まずは“雇用就農”という選択肢があるということを知ってもらいたい」と提示しました。
今村さんは、
「SNSを活用していったり、会社から発信していくことが重要だと思います。そして給料形態や休日など、細かい勤務形態も提示していくことが大切です。」
だと説明。
城樂さんの朝霧メイプルファームでは、週休2日で休日も充実させており、その結果仕事にもしっかり打ち込める環境なのだとか。
永崎さんは「農場長となって、中々うまくいかずやめようかなと思った」と吐露。
しかし、
「雇用就農だからこそ、周りの人たちからのサポートのおかげで続けることができた。」
と、雇用就農という形態の利点を伝えました。
作物を育てることの大変さとして天候を挙げ、そこへの対策も組織で対応することができることも大きな魅力であると伝えます。
城樂さんは酪農で働いてみて、
「きつい・大変という印象がもともとあったので、特別大変だと思ったことはないです。」
とコメントし、
「生き物を相手にしているので、突発的なトラブルなどによって急な残業もあるのですが、みんなでシフトを組み替えたりしてフォローし合っています。」
と伝えます。
さらに「重機に乗っていることが多いので、力仕事もあまりない」と意外な内情も教えてくれました。
今村さんは、
「企業で働いていると“言語化して共有すること”がマストだったが、農業では言語化できない“フィーリング”も重要になってくるので、そこにギャップを感じました。」
と話し、
「でもマニュアルがない、正解がないという点では可能性は無限大だなと思う。」
と、違う観点から見るとそれは大きな魅力でもあるとコメント。
そして最後に雇用就農をされている3名からも、これから農業をやっていきたいと考えている方へメッセージが送られました。
永崎さん「雇用就農という農業スタイルはとても魅力的だと感じています。農業を通して組織で喜びを分かち合うということをこれからもしていきたい。そして、農業をやってみたいという人はやってみましょう。やってみないとわからないし絶対に楽しいと思うので、まず一緒にやってみましょうと伝えたいです。」
城樂さん「動物の世話がとても好きなので、今はまだできていない業務もできるようになって、動物飼育のプロフェッショナルになっていきたい。そして私の会社ではマニュアルもしっかりあって教育する体制が整っています。ジョブローテーションによって休みもしっかりあり、お給料もしっかりもらえる。なので是非、雇用就農という形も1つの選択肢として持っていただけたら嬉しいです。」
今村さん「事業継承の話でもあるのですが、地域の中で困っている人がいたら手を差し伸べていきたいです。生産だけでなくサポートについてもやっていきたい。あとは雇用就農という選択肢としてチームでやっていくという良さであったり、人脈をつくっていくということがこの業界では大切。それは独立するときにも役に立ってくる。まずは人脈をつくるという意味でも雇用就農という選択肢は魅力的だなと思っています。」
と、3名はそれぞれコメントし、本イベントを締めくくりました。
昨今の米不足や作物の高騰によって、農業に目を向けている方はたくさんいるのではないでしょうか。
私もその1人であり、農業とまではいかなくても「小さな畑を持って作物を育ててみたい」と漠然と感じています。
始め方、やり方がわからないというイメージが強い農業ですが、まずは一歩片足を踏み込んでみて、そこから農業を体験してみる。または会社で雇用してもらいながらチームで農業を行うというスタイルもあることを知りました。
未来農業フェスタで農業の魅力をお伝えしてもらい、人それぞれに合った選択肢を提示してもらえたので、未来の農業のために関心があるという方は是非農業に触れてみてください。
農業の魅力発信コンソーシアム:https://yuime.jp/nmhconsortium/