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「今どういう状態で、あるいは何らかの手立てを打った時にどう変わったのか、ということが見えないので、この法則性の評価手法も現在開発を行っています。」
と説明しました。
社会的な孤独・孤立状態になりがちな高齢者の健康寿命を延伸させる要因の1つとして「週三日以上外出している人ほど健康寿命が長い」というデータも出ているそうですが、足が悪いなどの要因で外出が簡単にできない方も今後増加傾向にあり、バス停や近辺の店舗までの数百メートルすら歩くのが難しいという高齢者も増加すると予測されているそう。
そこでSIPは東京都の多摩市と共同で、移動の不安を解消するため、歩道を走行可能な「遠隔操作型小型車」が運行可能なのかどうかの実証実験を、2025年2月に実施すると発表しました。
今後は実証実験などで得た経験をもとに、課題の解決に向け取り組みを進めていく方針だそうです。
続いて、人生100年時代を目前に控えた日本が直面する、高齢者の増加に伴い増加する認知機能が低下した方の課題について。
現在でもその兆候は出ているそうで、金融機関のATMを30分〜1時間ほども独占してしまう方が増加傾向にあるのだとか。
しかし、そういった方を金融機関が福祉側へ連絡できるような仕組みは、個人情報保護法などによって現状存在せず、今後認知機能が低下した方が増えた際に快適に当該者を守ったり、経済活動を動かしていける仕組み作りも進めています。
高齢者を守ることと、守り過ぎることによるリスクのバランスを取りながら、地域システムの実装に向けた調査・研究を今後も行なっていくと久野氏は語りました。
また、女性特有の健康課題も大きな要因の1つで、特に妊産婦の健康が悪化してきていると説明。
実際に産前産後の女性が健康・運動に課題を感じていながら、約7割の方が実践できないという調査結果も出ています。
「これは参加者の方を分析したデータなんですが、このMOM UP PARKなどに入る前は、非常に強い不定愁訴(ふていしゅうしょ:身体や精神に不調や不快感があるのに原因が分からない状態)があり、ずっと怒っていたり、他者との交流がないことに危機感を感じながらも、自ら改善行動はできなかった。旦那さんがいたり親が来てくれた際に子供を見てもらう中で、自分は何をしてるかというと基本的にはとにかく睡眠を取っていたんです。」
と久野氏は事例を紹介。
その方は出産3ヶ月目から教室に参加し、7ヶ月間継続したことで心身の健康状態が改善し、気持ちの余裕が持てたことで外出・運動への意欲だけでなく、他の参加者の子どもの成長を見て嬉しく感じる「協調的な感覚」も出てきたのだとか。
これはオンラインでの事例ですが、久野氏はリアルでの強みがあることも強調しつつ、自治体などでの実装時の簡便さ・金銭的な問題解決などから、オンラインの活用も1つの方法であると語りました。
また、本シンポジウムに先駆けて行われたメディア向け報告会では、若年・中年女性の「やせ願望」による体力低下や、やせ気味の女性が産んだ子どもの疾患の発症リスクが高まるなど、健康に大きな影響を及ぼすと警鐘を鳴らしています。
妊産婦の約7割が運動不足である中で、妊娠中も運動が必要であると知らない方はなんと78%にものぼるそう。
これらの解消に向けたDX伴走型支援技術の開発などもSIPでは取り組んでいます。
続いて行われたパネルディスカッションには、内閣府 SIP サブプログラムディレクター/BACeLL 法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士の石田惠美氏、大和ハウス工業株式会社 執行役員の神田昌幸氏、慶應義塾大学 教授 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター センター長の駒村康平氏が登壇。
2024年4月には孤独・孤立対策推進法という法律も制定され、日本社会全体で孤独・孤立を防いでいくための本質的な社会形成が必要とされていると、モデレーターを務める内閣府 SIP サブプログラムディレクター/社会福祉法人 サン・ビジョン 理事長、元内閣官房まち・ひと・しごと創生本部地方創生総括官の唐澤剛氏は語ります。
石田氏は、
「家族の単位が少なくなってきている現代、昭和の方から令和の方まで、ごちゃ混ぜの価値観で世の中で、知らず知らずのうちに孤独・孤立になっていってしまうという方も増えてるように思います。」
と、幸せに働けたり相談できる・してもらえるような社会実装だけでなく、女性自身もあまり知らない健康課題を周知し、活躍を加速させていくことが本取り組みの本質だと語りました。
続いて駒村氏からは、認知機能の低下によるリスクについて解説。
「年齢が上がれば上がるほど、軽度認知障害及び認知症になるリスクは上がっていく。65〜74歳までは大体10%程度ですけれども、単純平均で75歳を超えると40%まで上がっていくんです。」
と、年齢を重ねるごとに認知機能は低下し、認知症発症のリスクが出てくると指摘。
これによってお金の管理能力が落ち、金融口座を凍結されたり、特殊詐欺・投資詐欺・消費者トラブルなどに巻き込まれてしまうリスクも高くなってしまうのだとか。
認知機能が低下した方の資産は、単純計算で約260兆円ほどにもなると試算されています。
「お金の孤独」というキーワードのもと説明した駒村氏は、“愚痴を聞いたり言われたりする関係の人間がいるほど幸福度が増す”という調査結果を引き合いに出し、
「ソリューションがなくても、相談できるしされる社会というものを作らなければいけないということだと思っています。」
と持論を展開しました。
神田氏は、地域コミュニティについてトークを展開。
「1968年から2007年までの約40年の間で、自治体の取り組みに参加している方が4分の1に減少しているんです。地域コミュニティのつながりの希薄化、あるいは孤独といったものが課題として出てきています。」
と説明。
大和ハウス工業が手がけたものも含めた郊外型住宅団地のデータをもとに、親子世帯が入ってきても、時が経つと子どもが巣立っていって帰って来ず、高年齢化が進行。その結果、異なった価値観を持つ方が混在するコミュニティが形成されていると語りました。
そこで神田氏は「コミュニティと進化するデジタルツインによるまちづくり」を推奨。
特にコミュニティ活動と連携・支援するための中間法人あるいは支援機構を作っていき、コミュニティの活性化を図って「正のスパイラル」を作ることが大切であると語りました。
基礎研究から実用化・事業化、すなわち出口までを見据えて一気通貫で研究・開発を推進し、2023年度から5カ年を第3期として14の課題に取り組んでいるSIP。
社会実装に向けた調査や施策なども、今後さらに進めていくSIPの取り組みについて詳しく知りたい方は、内閣府ホームページなどをご参照ください。
SIP:https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/